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【短編】心を結ぶ愛

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山あいにある小さな集落での古い習慣に縛られた若い二人の愛の顛末を綴ってみました。 全編、無料で公開していますがサポートいただければ嬉しく思います。
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【ファンタジー】心を結ぶ愛

連載していた短編小説を一つにまとめました。 連載の内容をさらに修正しています。 なお、この小説は、「小説をよもう」サイトにも投稿しています。   → https://ncode.syosetu.com/n1780hn/  周りを山に囲まれた人里離れた小さな集落があった。この集落に通じる道は一箇所しかなく雪が降り積もる冬場は人も通れなくなる。大体、十二月から二月いっぱいは通行ができない。だから、村人達は三ヶ月間の食料を事前に準備して冬に備える。自然の冷蔵庫が周りにあるようなも

【短編】心を結ぶ愛 (最終話)

 こうして、村人たちは自分たちの過ちに気づいた後は、村で何が起ころうとも、お互いを信じて助け合うようになっていった。山の麓には小さな祠が作られて、仲睦まじい心を結ぶ夫婦観音が祀られた。村人たちは、二人の名前にちなんで「結心観音」と呼ぶようになり、次の世代にも語り継ぎ、決して結心観音を粗末に扱うことがないようにと伝え続けた。そして、若い二人が山に入った日を供養の日と定め、二人から贈られた着物を着て山の入り口まで村人全員で揃っていき、松明を付け、供物をして手を合わせることが行事と

【短編】心を結ぶ愛 (12)

 日が昇った後、村人たちは各々の家の軒下に新しい着物が置いてあるのに気づいた。手紙も添えられていた。 "村人の皆さん、これまで本当にありがとうございました。心ばかりの気持ちで着物を作りました。どうぞお納めください。これまでご迷惑をおかけしたこと、本当に申し訳ございませんでした。私たちは、夫婦となりました、そしてこれから山に入ります。もうお会いすることは叶いませんが、皆様のことは遠い空の上から幸せを願っています。  心助、結衣"  近所だけでなく、全員の家に着物が配られ、そ

【短編】心を結ぶ愛 (11)

 一年が経過した頃、全ての着物が出来上がった。二人はいよいよこの日が訪れたというようにお互いを見つめあった。そして、日が暮れてから二人で手分けして一軒ずつ着物を配って回った。もちろん、直接手渡すことはしなかった。お礼の手紙を忍ばせて、夜露に濡れないように軒下を選んでそっと置いて回った。まるでサンタクロースがプレゼントを配るように。夜明け前には全てを配り終え、二人は家に戻った。疲れを癒すためにお風呂を沸かし、最後の食事を妻が作り、ほんの少しだけお酒を口にした。そして、二人とも新

【短編】心を結ぶ愛 (10)

 この後、若者の家の両親の位牌の前で、簡単な結婚式を二人で執り行った。立会人もいない寂しい結婚式だが、二人は満足だった。自分たちの両親に報告できればそれでいいと思っていた。若者の家で結婚式を挙げた二人は、娘の実家に向かって出発した。一年近く離れたっきりだったので娘はどうなっているのかと心配だった。実家に到着して二人は裏庭にまわり、娘が弔った両親の墓前で結婚の報告をした。これで二人とも肩の荷が降りたような気になった。家の中も気になるので二人で入ってみることにしたが、入ってびっく

【短編】心を結ぶ愛 (9)

「結衣、僕たちはもう一緒に生活をしているが、まだ結婚式をあげてない。二人だけでここで式をあげてお互いの両親に報告しないか」 「そうね。二人だけの結婚式ね。素敵だわ、何もなくても心助さんと一緒だもの」 「ありがとう、それから」 「それから?」 「僕は、やっぱりこの村の人たちが好きだ。こんなふうに冷たくされていても、きっとみんなの本心じゃないと思うんだ」 「そうね。あなたのそんな優しいところが好き。私も村の人たちを憎めない」 「だから、今後僕たちのような境遇の人が辛い思いをしなく

【短編】心を結ぶ愛 (8)

 娘が若者の家に倒れ込んできてから、三日間が過ぎ、透き通るような空気の朝、娘はゆっくりと目を開けた。若者はその日の朝もおかゆを囲炉裏で作っていた。ふと、娘をみると目を開けているのが見えた。 「結衣、目が覚めたのか。よかったー」 「心助さん、、、わたし、ずっと眠っていたのかしら」 「あぁ、三日間も寝ていたよ。心配で心配でたまらなかった。ほんとによかった」 「ごめんなさい、ごめんなさい。迷惑をかけるつもりじゃなかったのに」 「何を言ってるんだ。ま、とにかくおかゆ作ったから、食べ

【短編】心を結ぶ愛 (7)

 首を吊っている父親をなんとか降ろして母親の横に並べて寝かせた。しばらくは呆然としていた。すでに日も沈み周りは暗闇となっていった。しかし、娘は窓から入り込む月明かりを頼りに両親の前に座り、身じろぎもせずに一夜を過ごした。夜が明け、両親が亡くなったことを近所に報告した。自分ではどうしたらいいか分からなくなっていた。しかし、報告を受けた近所の住民は、話を聞くなり、玄関の扉を硬く閉ざしてしまった。何軒か回ったが手を貸してくれるどころか、みんな扉を固く閉ざした。家族同様だと思って育っ

【短編】心を結ぶ愛 (6)

 こうして、二人は初めて出会った。父親の死がきっかけとなり亡き母の言葉が二人を引き合わせたのだった。先に娘と若者は若者の家に戻り、お通夜の準備を整えた。娘の母親は、お通夜の席で弔問客に振る舞う料理を作ってから二人を追いかけた。そして、近所の奥様方の手伝いもあり、若者の父親のお通夜、葬儀とも滞りなく済ませることができた。若者はこの娘と娘の母に深く頭をさげ感謝した。  二人は、その後も若者の父親のその後の法事でも顔を合わせることになり、次第に距離が縮まっていったのだ。そうなると

【短編】心を結ぶ愛 (5)

 娘とこの若者の出会いは、二年前に遡る。二人の家は離れていたので普段は顔を合わせることはなかった。二年前にはこの家で若者と父親の二人暮らしだった。母親は早くに病気で亡くなっていた。父親も年老いてからは無理が効かなくなり、段々外に行くことができなくなり、ついには眠るように母親の元に旅立ったのである。若者はある程度覚悟の上だったので、涙より先に、今後どうすればいいかを考えていた。通夜や葬式の準備もしなければならないのだが、心の余裕がなかったのだ。そんな時、亡くなった母と遠い親戚に

【短編】心を結ぶ愛 (4)

 娘は、空腹なことさえ忘れ考えた。もう、神様にも会えないかもしれないと思ったとき、思い人のことが脳裏に浮かんだ。娘には愛する若者がいた。迷惑をかけたくないという思いから山に入ろうと考えていたが、それすらも叶わず、結局は若者を頼ることにしたのだ。娘は山を下り、自分の家とは反対の村の端っこに住む若者の家の前までなんとか歩いて行った。すでに体は冷え切って、足の感覚は無くなっていた。玄関の前で立ちすくむ若い娘の気配を感じたのか、家の中から、若者が現れた。そして娘に駆け寄って抱きしめた

【短編】心を結ぶ愛 (3)

 神様が住むという山には簡単に入ることはできない。山の入り口には千年も前からその地に根を張っている門番杉と呼ばれる巨大な杉の木が立っているのだ。そしてこの杉の木は不思議なことに言葉も話すことができ、かつ、枝の全てを自由に動かすことができるのだ。山に入るには、かなりの修行を終えたものだけが通行を許可される。なぜなら、神様が宿る山だから邪心を持つものを通すわけには行かないからだ。無理に通り抜けようとすると大きな動く枝で捉えられてしまい、追い返されてしう。もちろん、殺されることはな

【短編】心を結ぶ愛 (2)

 今年の冬は例年になく雪が多いようで十一月なのに雪が積もり始めているている。村人たちは協力して、冬を越す準備に入った。薪を準備したり、野菜を保存したり、目まぐるしいくらいに協力しあって3ヶ月間の隔離とも言える期間を生き抜く準備をしていた。しかし、一件の家だけは違った。昨年、村の外で事故に遭い動けなくなったことを苦にした両親が一人娘を残して自殺したのだ。村人たちには知らせることなく夫婦のみで心中してしまった。このことは、村人の怒りを買うことになった。頼られなかったこと、勝手に命

【短編】心を結ぶ愛 (1)

 周りを山に囲まれた人里離れた小さな集落があった。この集落に通じる道は一箇所しかなく雪が降り積もる冬場は人も通れなくなる。大体、十二月から二月いっぱいは通行ができない。だから、村人達は三ヶ月間の食料を事前に準備して冬に備える。自然の冷蔵庫が周りにあるようなものだから、食料の保存場所には困らないが、冬眠前の熊には要注意だ。大切な食料が食い荒らされると大変なことになってしまう。なので保存食を外の雪の中に保管するための大きな保管庫を作っている家庭が多い。最も手っ取り早い保管庫は、穴