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【短編】心を結ぶ愛 (最終話)

 こうして、村人たちは自分たちの過ちに気づいた後は、村で何が起ころうとも、お互いを信じて助け合うようになっていった。山の麓には小さな祠が作られて、仲睦まじい心を結ぶ夫婦観音が祀られた。村人たちは、二人の名前にちなんで「結心観音」と呼ぶようになり、次の世代にも語り継ぎ、決して結心観音を粗末に扱うことがないようにと伝え続けた。そして、若い二人が山に入った日を供養の日と定め、二人から贈られた着物を着て山の入り口まで村人全員で揃っていき、松明を付け、供物をして手を合わせることが行事となった。この行事では、どんなことがあっても村人同士は助け合い、信じ合うことで未来を作っていくことを誓うのが慣習となり、新しい世代にもずっと引き継がれていった。

 数百年が過ぎた現在でも、お祭りという形に変わってしまってはいるが、今もなお続いている。決してこの時の若い二人のような境遇の村人を作り出さないためにも、協力することが当たり前のことになっている。他の場所から新しく移り住む人もごく少数ではあるが出てきている。そんな人たちにも、しっかりとこの話を守るべき神話として引き継ぎ理解してもらうことを村人たちは実施している。そして住人となった日に、新しい着物をプレゼントする習慣もできた。最も、今では着物ではなく洋服である。そして、この村の人たちは、何があっても全員が本当の家族であるかのような信頼を大切にするようになったのだ。

 この山あいの里は今でも強い絆で結ばれた人々が暮らし続けている。

<完>


 お読みいただき、ありがとうございました。短編小説なので、一気に全部掲載も考えましたが、記事を読む時にちょっとの隙間時間で読める量がいいかなと思って、13回に分けて投稿してみました。


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29字

山あいにある小さな集落での古い習慣に縛られた若い二人の愛の顛末を綴ってみました。 全編、無料で公開していますがサポートいただければ嬉しく思…

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