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【短編】心を結ぶ愛 (1)

 周りを山に囲まれた人里離れた小さな集落があった。この集落に通じる道は一箇所しかなく雪が降り積もる冬場は人も通れなくなる。大体、十二月から二月いっぱいは通行ができない。だから、村人達は三ヶ月間の食料を事前に準備して冬に備える。自然の冷蔵庫が周りにあるようなものだから、食料の保存場所には困らないが、冬眠前の熊には要注意だ。大切な食料が食い荒らされると大変なことになってしまう。なので保存食を外の雪の中に保管するための大きな保管庫を作っている家庭が多い。最も手っ取り早い保管庫は、穴を掘り、動物に荒らされないように蓋を作り、そばに竹をさしておいて保管庫の場所がわかるようにしておく。使うときは積もった雪をかき出して扉を開けるのだ。生活の知恵である。

 この村の人々は、助け合うことを厭わず、全ての村人は顔見知りであり、ある意味大きな家族でもあった。それだけ、助け合わないと生き抜くことが困難な場所だったのだ。村人たちはどんなことでも相談しあい助け合った。「みんな、家族みたいなもんだから当然じゃ」と口を揃えたように言っていた。強すぎるくらいの結束力がそこにあった。その反面、裏切り行為には徹底して冷たい仕打ちをした。人の家のものを盗むことはもちろん、何も告げずに村から逃げ出したり、いつの間にか舞い戻ってきたりして生活している住民にはとても冷たく当たった。そう、村八分という行為がこの村には存在していたのだ。全住民が何かに取り憑かれているかのように村長の号令のもと統一した行動がとられていた。何事も起きない時は、至って平和ないい人の集まりのような村である。

<続く>


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山あいにある小さな集落での古い習慣に縛られた若い二人の愛の顛末を綴ってみました。 全編、無料で公開していますがサポートいただければ嬉しく思…

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