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【短編】心を結ぶ愛 (8)

 娘が若者の家に倒れ込んできてから、三日間が過ぎ、透き通るような空気の朝、娘はゆっくりと目を開けた。若者はその日の朝もおかゆを囲炉裏で作っていた。ふと、娘をみると目を開けているのが見えた。

「結衣、目が覚めたのか。よかったー」
「心助さん、、、わたし、ずっと眠っていたのかしら」
「あぁ、三日間も寝ていたよ。心配で心配でたまらなかった。ほんとによかった」
「ごめんなさい、ごめんなさい。迷惑をかけるつもりじゃなかったのに」
「何を言ってるんだ。ま、とにかくおかゆ作ったから、食べてくれ。少しでも食べて体力を回復しないと働けないぞ」
「ありがとう、こんな私のために。村中から嫌われているのに」
「バカ言うなよ。誰が嫌っていても僕は嫌いになんかならない。死んでも一緒だ。それに村の人たちは決して嫌ってるわけじゃないと思うよ。みんながそうしているから合わせるしかないんじゃないのかな」

 若者はおかゆを冷ましながら娘の口に運んであげた。ゆっくりとそして噛み締めるように娘は一口おかゆを食べた。これまで口にした何よりも美味しさと若者の愛情を感じていた。涙が止まらなかった。それを見て、若者も涙したが、娘に見られないように拭って笑顔を見せた。若者にとって元気の源は娘の存在だったのだ。数日して、娘の体力もだいぶ回復したので、二人で畑仕事に出かけられるようになった。相変わらず、周囲の目は冷たく感じていた。そんなある日、若者の方から切り出した。


<続く>

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山あいにある小さな集落での古い習慣に縛られた若い二人の愛の顛末を綴ってみました。 全編、無料で公開していますがサポートいただければ嬉しく思…

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