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【短編】心を結ぶ愛 (2)

 今年の冬は例年になく雪が多いようで十一月なのに雪が積もり始めているている。村人たちは協力して、冬を越す準備に入った。薪を準備したり、野菜を保存したり、目まぐるしいくらいに協力しあって3ヶ月間の隔離とも言える期間を生き抜く準備をしていた。しかし、一件の家だけは違った。昨年、村の外で事故に遭い動けなくなったことを苦にした両親が一人娘を残して自殺したのだ。村人たちには知らせることなく夫婦のみで心中してしまった。このことは、村人の怒りを買うことになった。頼られなかったこと、勝手に命を絶ったこと、娘のことも何も言わなかったことと村人たちからすれば重罪を犯した家族として扱われることになったのだ。そこには、残されて一人で生活している娘が住んでいたのだが、村人たちからは、自殺したこと自体が不吉であり村人に対する裏切りであるということを言われ、誰も近寄って来なくなったのだ。それまでは仲のいい近所付き合いをしていたにもかかわらずだ。結託するつもりはなくても、周りの住民が遠巻きにしているとみんながそれに準じてしまい村八分が実行されてしまったのだ。娘は孤立した。これから訪れる厳しい冬への準備もままならなかった。薪もそんなに準備できず、食料に関してはそれ以上に準備できなかった。このままでは到底長い冬を越すことはできないと悟った。

 厳しい冬の到来は例年より早く訪れた。11月の下旬には狂ったように大雪が降り積り、外の世界とは遮断されてしまった。娘は、隣近所の人たちに助けを求めた。しかし、周りの人たちは扉を固く閉ざしたまま、返事すらしなかった。村人たちは、助けたことにより、自分たちの家族が村八分にされるのを恐れていたのだった。誰も助けてはくれないということを悟った娘は、雪が降る中を裸足のまま山のほうに向かって歩き出した。山には神様が住んでいるという言い伝えがある。娘は神様のもとに行こうと考えていたのだ。村人は、窓をちょっと開けて娘を見ていたが、声をかけるどころか、誰一人として止めるものはいなかった。一歩、また一歩と山に向かって進んでいく娘の足はすでに冷たさで真っ赤になり、雪の冷たさをも感じなくなっていた。

<続く>


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山あいにある小さな集落での古い習慣に縛られた若い二人の愛の顛末を綴ってみました。 全編、無料で公開していますがサポートいただければ嬉しく思…

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