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【短編】心を結ぶ愛 (6)

 こうして、二人は初めて出会った。父親の死がきっかけとなり亡き母の言葉が二人を引き合わせたのだった。先に娘と若者は若者の家に戻り、お通夜の準備を整えた。娘の母親は、お通夜の席で弔問客に振る舞う料理を作ってから二人を追いかけた。そして、近所の奥様方の手伝いもあり、若者の父親のお通夜、葬儀とも滞りなく済ませることができた。若者はこの娘と娘の母に深く頭をさげ感謝した。

 二人は、その後も若者の父親のその後の法事でも顔を合わせることになり、次第に距離が縮まっていったのだ。そうなると若い二人の間には自然発火するようにお互いへの思いが高まったいったのである。その時は、娘の両親が事故に遭うという不幸も自殺してしまうということも想像すらできず、絵に描いたような幸せの時間の中に二人はいた。若者は娘に結婚を申し込んだ。

「結衣、もう少し僕の仕事が安定して暮らしていける目処が立ったら一緒になってほしい。裕福ではないけど、きっと幸せになる努力は惜しまないから」
「心助さん、嬉しい。私もいい妻になるように努力します。末長く、両親ともどもよろしくお願いします」

 二人は、娘の両親にも結婚したいということをいつ伝えようかと話をしていた矢先、村の外で娘の両親が事故にあったという連絡が入った。娘の父親は崖っぷちの道を歩いているときに目眩がして崖から滑落してしまったのだそうだ。その結果、両足が不自由になり、満足に歩くことができず、働くこともできなくなってしまった。娘の母はそれでも懸命に寝る間も惜しんで働き、なんとか介護しながら娘との生活を保とうと考えていたのだが、結局無理が祟って倒れてしまった。そうなると娘が頑張るしかない。娘も頑張ったのだが、どうしても力仕事には限界がある。男手が必要だった。そんな娘を見ていた父親は、娘が不憫になり涙を流しながら、隣に寝ている娘の母親を手にかけてしまった。そして、自分も浴衣のおびを家の中の梁に投げかけ、首をつって自殺してしまった。遺書すら残す間もなく。娘が家の外にある畑で仕事をしている昼間の出来事だった。仕事から戻ってきた娘はその惨事に向き合うこととなった。

「お父さん、お母さん、どうして、どうしてこんなことを、私はどうなるの」


<続く>

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山あいにある小さな集落での古い習慣に縛られた若い二人の愛の顛末を綴ってみました。 全編、無料で公開していますがサポートいただければ嬉しく思…

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