見出し画像

【短編】心を結ぶ愛 (9)

「結衣、僕たちはもう一緒に生活をしているが、まだ結婚式をあげてない。二人だけでここで式をあげてお互いの両親に報告しないか」
「そうね。二人だけの結婚式ね。素敵だわ、何もなくても心助さんと一緒だもの」
「ありがとう、それから」
「それから?」
「僕は、やっぱりこの村の人たちが好きだ。こんなふうに冷たくされていても、きっとみんなの本心じゃないと思うんだ」
「そうね。あなたのそんな優しいところが好き。私も村の人たちを憎めない」
「だから、今後僕たちのような境遇の人が辛い思いをしなくていいような村になってもらいたいと思っているんだ。みんな、人と違うことをするということを怖がっているだけのような気がしてならないんだ。古いしきたりに縛られていて、それを打ち砕く勇気がないだけだと思うんだ」
「どうすればいいのかしら」
「僕らがみんなのことを思っていると言うことをなんとかして伝えて、わかってもらいたい。そして」
「えっ、そして、どうするの」
「そして二人で山に入りたい」
「えっ、山に、どうして?」
「僕らは今のままではずっと孤立して生きていくしかないけど、僕らの間に子供ができる前にこの村を見守れるような存在になれれば、村ももっと幸せな空気に包まれるんじゃないかなと思うんだよ」
「あなたは本当に優しい人ね。こんなにも村人のことを思ってあげられるなんて」
「いや、結衣のことが一番だよ」
「いいのよ。それじゃあ、私たちの思いを伝えるために、村の人みんなが普段使うための着物を作ってあげるというのはどうかしら。一年もあれば村人全員の着物を作れると思うわ。普段必要なものを贈ってあげるの。そうすればきっと私たちの真心が村人に届くと思うわ。もちろん、あなたの分も作るわね」


<続く>

ここから先は

29字

山あいにある小さな集落での古い習慣に縛られた若い二人の愛の顛末を綴ってみました。 全編、無料で公開していますがサポートいただければ嬉しく思…

この記事が参加している募集

スキしてみて

よろしければサポートをお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。