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【短編】心を結ぶ愛 (12)

 日が昇った後、村人たちは各々の家の軒下に新しい着物が置いてあるのに気づいた。手紙も添えられていた。

"村人の皆さん、これまで本当にありがとうございました。心ばかりの気持ちで着物を作りました。どうぞお納めください。これまでご迷惑をおかけしたこと、本当に申し訳ございませんでした。私たちは、夫婦となりました、そしてこれから山に入ります。もうお会いすることは叶いませんが、皆様のことは遠い空の上から幸せを願っています。  心助、結衣"

 近所だけでなく、全員の家に着物が配られ、それぞれの家で置き手紙を読んで啜り泣く声が村中に響き渡った。

「許しておくれ。自分の家族のことばかり考えていたよ。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
「かわいそうだと思っても行動に出すことができなかった。しかし、この二人は違った。こんなにも私たちのことを愛していてくれたんだ。許してくれ」
「自分の心に素直に生きることが怖かった。でもおかげで目が覚めたよ」

 村人はそれぞれの家庭の中で、自分たちの行動を大きく反省した。若い二人に教えてもらったのだ。人を愛し慈しむことの素晴らしさを。でも、二人はもう帰ってはこない。そのことを村人たちは大きく後悔した。そして、誰からともなく、娘の実家と若者の家をきれいにしてずっと保存しようということが決まった。そして、この二軒の家を結ぶ長い道を「心を結ぶ道」と名づけ、厳しい冬以外、道の脇には四季折々の花を植える習慣ができた。結婚する若い二人が出たときは、新婦は娘の実家で、新郎は若者の家で一晩過ごし、あくる日の日の出と共に、仲人に手を取られながら歩き出し落ちあって、式を上げるという習慣もできていった。村人のために尊い命を捧げた若い夫婦への敬う心を忘れないためにも、この習慣は続けられた。いつの日にか、娘の実家と若者の家は神聖な場所として村人が交代でお参りするようになっていった。


<続く>


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山あいにある小さな集落での古い習慣に縛られた若い二人の愛の顛末を綴ってみました。 全編、無料で公開していますがサポートいただければ嬉しく思…

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