マガジンのカバー画像

バカボンの兄 詩集

30
詩の末尾に初稿を書いた年月を付していますが、note投稿にあたり加筆しています。投稿後の加筆もあり得るので、ご了承ください。
運営しているクリエイター

#聖書

詩/対立

対立

上限は神で、下限も神で
神だけが現前していた
沈黙とは常に神の沈黙だった

この意識が、神そのものだった
この世界が神だったのだ

世界は色づいておらず
白黒かどうか
明暗があるのかどうかさえ分からない
そもそも色彩の概念がない
目を持つものを通して初めて
そこに
着色されたクオリアが浮かび上がる

だからと言って、僕らは
むき出しの世界には触れられぬのだと嘆くな
この肉感こそが
僕らにと

もっとみる

詩/刃物/パパゲーノ3

刃物/パパゲーノ3

小学生の時
ボンナイフというものがあって
それで鉛筆を削った
削り方は母が教えてくれた

同じ頃
父が懐刀をくれて
これで家族を守るんだぞと言った

ボンナイフはとうになくしてしまったが
懐刀は今でも持っている

父は有名私立高校の卒業生で
僕は子供の頃、実力以上を強いられ
壊れた。
父の母校の校章は
「ペンは剣よりも強し」だが
僕は、それはちょっと違うと思っている

ペンは

もっとみる

詩/濡れ衣

濡れ衣

嘘をつかれて
居場所をなくした
いじめを受けて
その場から逃れた
そんな折、良寛さんを思い出す
盗みの濡れ衣を着せられて
言い訳もせず
穴に埋められた
それで良かった
助けは来るだろうか
そんなことを思いもせず
待つこともなく
ただそこに在った
宇宙として、粛々と。

三億円もらっても
もうやりたいことがないんだ
布団の上に寝転んだまま
夕となり、また朝となった
(創世記1:5)

20

もっとみる

詩/略歴

略歴

ベッドと机と椅子を捨てた
それから手紙と葉書を破いて捨てた
もう二度と読み返さないだろう本を捨てた
十年分の日記を要約しようと読み返して
それはできないのだと知って焼いた

その後、本は図書館で借りるので増えていない
晴れた日には散歩している
雨の日は読書している
まだ着られるが
もう二度と着ない着古しを今日海外へ送った

ただ座すことと何ら変わりのない、
それらは生きていく上で何ら必要の

もっとみる

詩/原点

原点

十三歳、天文学者になりたかった。教室に座っていることができずひと気のない便所でうなだれた。銀河中心はブラックホールだと直観していた。うずくまり人刺し指を咽頭めがけ突き立てた。教師は何も言わなかった。医者はトランキライザーをくれた。効かなかった。生き残るすべなど誰にも教わらなかった。いつかインドへ行こうと思った。

十六歳、死へ。昼休み、図書室横の便所で糞をしながら、それでも生きていていいの

もっとみる