費用や同意など、中絶と避妊の不安。「言えない」を今こそ、「話そう」
“MY BODY MY CHOICE (私の身体は自分で決める)”
妊娠や避妊、中絶などの選択について、「身体の自己決定権(autonomy)」を求めて世界中の女性が口にしている言葉だ。
グッチが2019年に発表したジャケット
この言葉を聞いて、誰か身近な人を思い浮かべるだろうか。もしくは、自分とはどこか遠いイメージを抱くだろうか。
2022年に中絶を違憲としたアメリカをはじめ、海外ではこの数年で中絶を認める法律が大きく揺れ動いている。
日本では、女性ひとりでは払えないほどの費用や「同意書」が求められ、身体へのリスクの高い方法で現在も中絶が行われている。
また今回、避妊のためのアフターピルが簡単に手に入らないことで、「自分の身体を自分で守れない不甲斐なさ」を感じる女性がいることも、筆者知人の話から明らかになった。
女性みんなの身体にかかわる、この「言えない」中絶の問題。なぜ、今話す必要があるのだろうか。
フランスの法律で初めて中絶を認めた女性政治家 映画『シモーヌ』の大ヒット
フランスでは、2022年に公開された映画『シモーヌ フランスに最も愛された政治家(原題: Simone Veil, a Woman of the Century)』が国内年間興行成績ナンバーワンを記録。240万人動員のロングランヒットとなった。
ナチス迫害を経験したアウシュヴィッツ生還者であり、フランスで初めて中絶を合法化させた女性政治家の一生が描かれた伝記映画だ。驚いたのは、この映画がTikTok上で若い人たちの間で広まったということだ。
(詳しく知りたい方は、作品を手掛けたオリヴィエ・ダアン監督への取材を行って書かれたこちらの記事がおすすめです。女性政治家シモーヌの人物像や映画の魅力がよく伝わる文章になっています。)
現在、フランスでは医学的な出産、中絶、避妊が保険適用で自己負担なしで受けられる。
女性の身体への意思に優しい制度が整ったフランスでは、近年若い人たちが中絶の話題に敏感になっている。
それは、この数年で世界的に中絶に対する考え方が大きく変わっているからだろう。
例えばアイルランドでは、2018年に初めて中絶が合法化された。一方で、認めていたものの、改めて2022年に中絶を違憲と決めたアメリカ(2022年)やポーランド(2020年)のように、逆行に向かう国もある。
アイルランドでの中絶合法化の当時の様子
歌手ビリー・アイリッシュが、テキサス州のステージで中絶禁止反対を叫ぶ
日本では払えないほど高い中絶。自分の身体を守れない
1. いまだに身体へのリスクが高い中絶方法が一般的な日本
日本では、中絶を受けるハードルが国際的に見ても非常に高い。中絶費用の相場は、初期中絶の場合10万円~15万円程度が多いが、自由診療のため20万円以上かかるクリニックもある。
また、配偶者の同意がなければ中絶は受けられず、場合によっては、未婚でも相手の同意書が得られないことでクリニックに断られるケースもある。同意書が必須であることには、WHO(世界保健機関)も懸念を示している。
そのほか、日本では一般的な中絶方法も身体へのリスクが高く、危険と考えられている。
WHOは、「掻爬法は、時代遅れの外科的中絶方法であり、真空吸引法及び/または薬剤による中絶方法に切り替えるべき」と主張している。
2. 海外では中絶薬の使用が主流になりつつある
実際に海外では80以上の国と地域で使われており、薬による妊娠中絶が増えている。
日本では、2021年に厚生労働省へ中絶薬の販売承認が申請された。しかし許可がおりておらず、現在は使用できないままになっている。
3. 避妊のアフターピルすら費用が高く、医師の診察が必要
今の日本では、アフターピル(緊急避妊薬)ですら費用が高いのが現実だ。
世界では約90カ国で、医師の処方箋なしに緊急避妊薬を薬局等で購入できる。フランスでは全ての女性に、イギリスでは16歳未満であれば無料で提供される。
しかし、日本では医師の診察と処方箋が必要なうえ、保険適用外で、海外と比べても費用が高い。
特に10代、20代なら、当然自分ひとりでは払えない学生もいるだろう。
行為後に不安を感じても、環境によっては親に言い出せない人もいる。
「避妊してほしい」と相手に伝えられず、自分で避妊したくても低用量ピル(保険適用外で1ヶ月の相場3,000円程度)の入手も難しい。となれば、さらに費用の高いアフターピルや中絶も、もちろん手が届かない。
そうなったら、彼女たちはどう自分の身体を守ればいいのだろうか。
【アンケート】中絶や避妊。言えないままで身近な知人も悩んでいた
1. カナダでは「想像以上に沢山の子が中絶している。身体と心への影響が衝撃的」
カナダに住む知人の話では、「想像以上に沢山の子達が中絶していて、その比率に驚いた。日本じゃ聞いたことがほとんどなかったから。職場だけでも少なくとも4人以上は知っている」。
「それ以上に衝撃的だったのは、中絶薬を飲んだあとの身体と心への影響が凄まじいこと。吐き気や、子供への罪悪感から死ぬたくなるって」。
2. 「日本では中絶は保険適用外、男性の同意書が必要と知ってショック」
スコットランドで育ち、現在日本に住んでいる女性から聞いた話だ。
「日本にいる“私たち”が中絶するのに男性の同意書がいると知って、衝撃を受けた。しかも保険適用外だなんて!」。
「ヨーロッパでは中絶薬が飲めるけど、日本では身体への悪影響のリスクが高い方法がいまだにポピュラーだと知って、本当に悲しくなった」。
ちなみにスコットランドでは薬の使用が約70%で、最も一般的な中絶法となっている。
3. 「費用負担も人に言えないのも辛かった。何もできない自分が不甲斐ない」
行為後の不安から、日本と海外でアフターピルを飲んだ経験のある知人から話を聞いた。
「費用の負担も、誰にも言えなかったのも辛かった。一番思ったのは、自分の身体のことなのに男性にだけ避妊の主導権を与えて、自分は何もしてない(できない)のが不甲斐ないなって」。
4. 「中絶や避妊に悩んだ」理由のほとんどが費用面と気持ちの葛藤
筆者のインスタグラムアカウントで、「中絶、避妊で不安を感じたことがあるか」とストーリー上でアンケートをとった。
「悩んだことがある」と回答した知人にさらに理由を聞くと、このような結果になった。
中絶費用の高さと、自分の中の迷いが悩みの大部分のようだ。しかし、気持ちの葛藤の中には、もちろん相手や家族の意見など周りの環境からの影響も少なからずあるだろう。
女性が「自分の身体のことなのに避妊できない」と不甲斐なさを感じ、無力さから自分を責めてしまっている。しかしこれは個人の意識の問題ではなく、女性の避妊や中絶の選択を難しくしている法律や費用面の現状がそうさせているものだ。
また、中絶薬には大量出血から危険な状態に陥るリスクもある。海外では中絶が受けやすいからといって、簡単に解決する話でもない。その後の身体的、精神的な負担を考えると、やはり「妊娠しない(させない)」、避妊の段階から見直す必要がある。
誰かの「言うな」こそ、語られるべき
記事の中で「知人」として紹介したものはどれも、身近な女性の話だ。今回は「中絶や避妊をテーマにした記事を書く」という目的で、インスタグラムのストーリーで意見を募った。
この機会で初めて、何年も近くで関わってきた友人との間ですら、中絶や避妊という「自分の身体の話」をしてこなかったことに気がついた。
「規則を破らない」「決め事は守る」と教育を受けてきた日本では、感じた違和感を押し殺してしまいがちだ(環境がそうさせているのだろうが)。
しかし、「言っちゃいけない」「触れちゃいけない」と感じることこそ、「おかしいかも」と疑問をもち、誰かに話すことが大切ではないだろうか。
国のルールである法律までも変えた女性政治家、シモーヌ・ヴェイユ。「言っちゃいけない」ことを国民に語り、当時の当たり前を自分から変える意思と勇気が、フランスをはじめ多くの若い層の心に響いたのだろう。
その勇気は日常の小さなことから始まる。自分の身を守るためにも、まずは自分の気持ちを見つめて「話すこと」から始めてみるのはどうだろう。
参考
https://mainichi.jp/articles/20220921/k00/00m/030/327000c
https://www.lecinq-clinic.jp/online/pill/article_0019/
https://www.tsh.ncgm.go.jp/about_sexual_health/abortiondrug.html
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-62747655
https://madamefigaro.jp/society-business/220616-abortion.html
https://mainichi.jp/articles/20220921/k00/00m/030/327000c
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