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なかなか消えないもの

 揚げ物をしていたとき、油が手首付近に飛んで、やけどをしてしまった。飛び上がったり大声を出すほどのものでなく、あ、と言うくらいのもので、水道水で10秒も冷やしたかどうかというくらいだった。だが、その処置が甘かったらしい。翌日水ぶくれが出来た。その後は火傷の痕が残ってしまった。長袖だと分からないが、七部袖だと見えてしまう。たいしたことなかったと思っていたのに、ひと月以上経っても、まだ完全には消えていないのだ。
 そのときは、これくらい何ともないと平気にしていても、本当は傷を負っていることがある。日々の生活に忙しかったりすると、何もなかったことにしてしまいがちだ。本来は何かあった時に立ち止まらないといけないのに、そのまま過ごす人は多いのではないだろうか。
 怪我の話ではなく、心に傷を受けた場合だ。何でも自分で思ったことは思い通りにしたいと、やり通すような人ばかりではない。我慢する人が大半と思う。家では何でも言えるけど、外では言えない。その逆もある。家でも外でも何も言えない。自分の我慢の限界がどこまでかが分かるようになっていたら、もうボーダーラインを超えそうだという人はどれくらいいるのだろう。
 学生時代の傷、仕事先での傷。家庭で受けた傷。他人の心無い言動によっての傷。
 傷付いても、もっとひどい傷もあるから、これくらい大したことないと、そのままにする。その傷は目には見えないが、その人の中の何かを少しずつ削っていくように思う。
 なかなか消えない火傷の跡を見て、心の傷は忘れたら消えたと言えるのだろうかと考えている。
 人生、傷ひとつなく過ごすことは不可能と思う。傷が多ければよいというものではない。その傷が絶えず作られる環境には身を置くのは危険と思う。

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