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ダメ人間、プールに通い始めるの巻

転職することになって、大量に残っている有給をちょこちょこ取るようになった。今月から週に2,3日は休みにしている。
出不精な上にインドアな趣味が多いので、何も予定を入れなかったとしても、アマゾンプライムとDAZNとYouTubeと小説で余裕で1日を潰すことができる。
暇を持て余すが大好きな、ダメ人間なのだ。

しかし、寒くてこたつでぬくぬくしながら、身体を動かさないとまずいかもとさすがに危機感を覚えるようになった。体力は年々落ちている実感がある。手遅れになる前になんとかせねば。
そこで、ジムに行こうかと色々とサイトを見てみた。しかし月会費は一万円近くして、なかなか踏み出しづらい。
行かなくなるかもしれないものに、万単位でランニングコストをかけるのは勇気がいる。
行かなくなるかもとか思ってる時点でもう既にダメだ。

しかし、なんとか安価で身体を動かせる場所を探して辿り着いたのが、近所の区民プールである。
一回200円で2時間泳げる。
もちろん近所をランニングするとかならそもそも費用が一円もかからないのだけれど、ただ走るだけってのは苦手だ。汗かくのが嫌いだし、ベトベトするのが嫌だ。しかも疲れるし、なんか走ってるだけなのはつまらない。音楽を聴きながら走ると有線イヤホンのコードが邪魔になるし(ワイヤレス持ってない)、部活でひたすら走らされてた時の記憶も蘇って気分があまり良くない。
だから、走るより泳ぐ方がマシだろうと消極的な理由でプールを選んだ。プールは汗をかかないし、イヤホンもできない。音とかあんまり関係ない。


このやる気が失われないうちにと、海パンと水泳帽とゴーグルを、急いで通販で買った。
買ってしまえばさすがに一回は行くし、通うようになるかもしれない。
届いた水泳グッズは、どれもなんだかカッコよくて、腹が出ている自分の身体で身に付けてみても、なんだか様になっている。
喜び勇んで、先日の有給で、区民プールへと自転車を走らせた。

券売機でチケットを買って、脱衣所へと向かう。
プール特有の鼻にくる臭いを感じながら着替えを済ませて、温水プールへと向かった。
歩行、マイペースに泳ぐ、ストイックに泳ぐと、ニーズに合わせてレーンが分かれている中で、僕はマイペースに泳ぐレーンを選んだ。
ザブン、とレーンに入った瞬間、とてつもない気持ちよさを感じた。
ぬるい。日本代表の左サイドバックみたいだ。
これなら8-0で勝てそう。
そのくらい気持ち良い。

泳ぎ始めると、さらに気持ちいい。
これは走るより全然いいぞと、調子に乗ってきて、少し時間がたったらストイックに泳ぐゾーンへと移動した。
平日で年齢層はほぼシニアなため、なんか若い男が紛れてバシャバシャ泳いでるぞ的な視線も、気持ち良すぎてあまり気にならなかった。

一通り泳ぎ終えて休憩所でジュースを飲みながら、こうやって大人になってからもプールを楽しめてよかったなあとしみじみした。
そしてそれも、母親から受けたスパルタ指導のおかげだなあと、昔のことを思い出した。


小学2年生か、3年生の時だ。
学校のプールの授業で、どうしてもクリアできないテストがあった。7mを息継ぎなしでバタ足で泳ぐ、というテストだ。
周りの友だちが次々と合格していく中、僕は何度もそのテストを受けた。いつも途中で「苦しい無理」って、水面から顔を出してぜえぜえしてた。
なかなか合格しない状況を見兼ねてか、夏休みの家族旅行先にあったプールで、家族監視の元で少し練習をすることになった。

何度か挑戦してみても、やはり苦しくなってしまうから泳ぎきれない。
屋外プールで途中で雨が降ってきたきたこともあって、どんどんやる気はなくなっていった。
息ができないとか苦しいしこんなことやらせる学校に問題があるよなと幼心に思っていた僕は諦めて、途中で自己判断でプールから上がった。
思ってみると、この頃から根性がなくてダメなやつである。

ただ、それを許さなかったのが、母親だ。
プールサイドに上がった僕の元に駆けつけた母親は、僕をプールの中に投げ捨てた。
「泳げるようになるまで上がらせないよ!」

母親の怒りに直面した恐怖から僕は必死に練習を続けて、その日にはなんとか7mを息継ぎなしでバタ足できるようになった。
その後、テストにも合格し、クロールとか平泳ぎとかもできるようになっていき、今に至る。
母親のあまりにも乱暴なあの行動が、僕を泳げるようにしたきっかけであることは確かである。

しかし投げ捨てるのは酷いよなあと、しみじみと考えながらジュースを飲み終えた。
今のご時世だったら母親が周りの人に怒られたかもとか考えると、笑えてくる。
ただ当時もプールの監視員の人とかはいたはずだし、怒られなかったのだろうか。
怒られたのかもしれないけれど、ダメな息子を鍛え直すにはあれしかなかったのかもしれない。

ちなみに白状すると、身体動かさなきゃから、ジム探し、区民プールに辿り着く、水着を買う、はほぼ奥さんがやってくれた。
プールに投げ捨てられても、根っこのダメさ加減は治らなかったようだ。

妙なる調べ / ハンバートハンバート

<太・プロフィール> Twitterアカウント:@YFTheater
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒で地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗を経て、今は広告制作会社勤務。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。

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