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一生懸命の先にある人生

31歳になった。
こうしてnoteに文章を投稿するようになったのは2020年の7月からで、書き始めたばかりの頃に、こんな文章を書いたことがあった。

生まれ育った東京からはじめて離れて、小さな地方都市で社会人生活をスタートさせた時の話だ。

知り合いの少ない土地で心許ない生活がはじまり、希望していた仕事とは真反対の職種に配属された。
何もかも思い通りにいかずに腐りかけていた自分を踏み止まらせてくれたのは、その年の夏にクリープハイプがリリースした「二十九、三十」という楽曲だった。

いつかはきっと報われる
いつでもないいつかを待った
二十九、三十  / クリープハイプ

いつか、は自分にも訪れる日が来るのかな。
来ることを信じよう。
いまの自分を支えるためにこの曲を聴いていたけど、こんなことを考えることもあった。

「自分が29歳・30歳を迎えた時に、どんな気持ちでこの曲を聴いているだろう」

報われた、と思える瞬間を、何度か味わえているだろうか。
それとも、いつかはまだ訪れていなくて、この曲が手放せないんだろうか。

会社に向かって自転車を漕ぎながら、飲み会帰りに田んぼ道を歩きながら、家のベランダでタバコを吸いながら、毎日欠かさずに「二十九、三十」を10回近く再生して聴いた。


その頃から年月が経ち、29歳を迎え、すぐに30歳になり、それを越えて、31歳になった。

この2年間は、「二十九、三十」を聴く機会が圧倒的に減った。
好きな曲であることには変わりないし、口ずさむこともあるけれど、毎日擦り切れるように聴くことはなくなって、あの頃のように自分を投影して噛み締めながら聴くようなことも減った。

30歳を迎える頃に、僕は徹夜が当たり前で激務だった制作会社を辞めて、すごくホワイトな働き方ができる今の会社に移った。
リモートワークで、朝も昼も夜も欠かさずご飯を食べて、日付が変わる頃には就寝して、朝はダラダラ眠らずに、少し運動もする生活に変わった。
歌詞に出てくるような「不規則な生活リズム」ではなくなった。
1人でワンルームに住んでいるのではなくて、家族ができて、何部屋かある家に住んでいる。

「二十九、三十」をリピートさせまくっていた頃は、
「あんな仕事をやってみたい」
「あの人みたいになりたい」
と衝動的に突っ走ったり、憧れとのギャップで悩んだりするのが日常茶飯事だった。
今の自分はどうやら少しずつできることが増えてきているらしく、ちょっとだけ自信を持てるようなこともあって、半ば妥協して「とりあえず今できることをやるかあ」とか言いつつも、少しずつ前に進む術を身に付けていたりする。
もちろんいまだに失敗もモヤモヤもあるけれど、でもあの頃の自分より、随分と小慣れた人間になってきたなあと感じる。

全体的に、僕の人生はすごく落ち着いたんだろうなあと思う。

そんな今の人生が、僕は結構好きだ。

いや、かなり好きだ。

好きなことや好きな人に囲まれて、毎日楽しい。

そう思えている理由を、あらためてこのタイミングで考えて、これまでの人生を振り返っていくと、やっぱり思い当たるのは、「二十九、三十」を聴きながら踏ん張っていた頃の自分だ。

今までの人生で限りなく独りを感じた時期だったけれど、そういえば全く諦めなかったあと思う。
汚いミニシアターで「百円の恋」を観て、夜中にベッドの中で阿部広太郎さんが書いたツイートや文章を読み漁って、片道3時間かけて講座に通って。
自分を奮い立たせて、少しで良いから前に行きたいと、できることを不器用にたくさんやってみた。
一生懸命だった。

なんとか前に進もうとしている自分の姿は、「誰かがきっと見て」くれていた。
当時の会社の上司、先輩、同期、会社の外で出会った人。
手を貸してくれて、時には僕が行きたい方へ導いてくれることもあった。
一生懸命を、拾ってくれた。

歳を重ねていくにつれて、当時の記憶や感情は薄くなっているし、助けてくれた人たちと連絡を取るようなこともすごく減ってしまった。
だけど、僕は「二十九、三十」に縋り付いていた頃の自分を、忘れてはいけないなと、改めて思う。
小慣れた振る舞いができるようになったのも、機転を利かせて丸く収めたり、色んな人を巻き込んだりできるようになったのも、あの頃少しずつ進んだご褒美だとさえ思う。

そして、僕がこれから先の自分の人生を好きで居続けるためには、あの頃と同じように、不器用でも格好悪くても良いから、少しずつ前に進むことを忘れてはいけない。

前に進め 前に進め 不規則な生活リズムで
ちょっとズレる もっとズレる 明日も早いな
二十九、三十 / クリープハイプ

ちょっと、もっと、ズレてしまっても。
前に進め。

「二十九、三十」のその先の自分が、どんな人生を歩むかは想像がつかないことの方が多いけれど、一生懸命に前に進んだ先に、いろんな出会いや喜びがあるんだろうなってことを僕は確信している。

二十九、三十 / 銀杏BOYZ

<太・プロフィール> Twitterアカウント:@futoshi_oli
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒で地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗を経て、今は広告制作会社勤務。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。

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