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#9 インドの無償食堂で食べたごはんは温かかった

突然ですが皆さん、「世界で5番目に信者が多い宗教」をご存じですか??

1位~4位は誰もが予想できると思うんです。

世界の宗教の信者数は、
 キリスト教 約20億人(33.0%)
 イスラム教(イスラーム) 約11億9,000万人(19.6%)
 ヒンドゥー教 約8億1,000万人(13.4%)
 仏教 約3億6,000万人(5.9%)
(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

この次に多いのが、「シク教」です。
え、シク教?聞いたことない…… となるのではないでしょうか。


ちなみに、インド人と聞いてどんな姿が浮かびますか??

パッと浮かぶステレオタイプのイメージとしては、頭にターバンを巻いて、髭が長いおじさんのイメージを持ってないですか?? 例えばこのような。

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そう、この方たちが「シク教」の人たちなんです。

世界第5の宗教といっても、その90%がインドに集中していますので、僕らにとって馴染みがないのは仕方のないことかもしれませんね。


シク教総本山に行ってみる

さて、そんなシク教の総本山は、インドの最北、パキスタンとの国境近く、パンジャブ州のアムリトサルという街にあります。

首都ニューデリーからはバスで8時間位です。アムリトサルには空港もありますので、飛行機で1時間ひとっ飛びしてもいいと思いますね。

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総本山と聞いて思い出すのは、横浜の家系ラーメン総本山吉村家ですが、え?その話はまた今度?? 失礼しました。

アムリトサルには、「ハリマンディル・サーヒブ」、通称「ゴールデン・テンプル」と呼ばれるシク教総本山の寺院があります。

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入口で靴を預け、頭に布を巻き、入る前に水で足を清め、インド人と写真を撮り……笑、階段を下りていくと金色に輝く方形の寺院とそれを囲む池、白大理石の建物が目に飛び込んできます。非常に威厳に満ちており、且つフォトジェニックな寺院。

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一般的に皆さんが思っている、格差と商魂と疑念と笑いに満ちたインドとは全く違う、非常に清廉で格式の高い厳かな雰囲気です。

皆まわりを歩き回ったり寝っ転がったり、お話に興じていたり、はたまた沐浴をしたり…… 池にはなぜか錦鯉が泳いでいます。何だか、ここにいるだけで徳が勝手に積まれていく気がします。

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この寺院、上で書いたように入口より階段で降りた少し低いところに作られているのですが、「普段よりも低く謙虚な気持ちになりなさい」というシク教の教えからくるものらしく、そういうところも愛すべきところですね。

シク教というのは、僕らがインド人のイメージとして抱いているヒンズー教のカースト制度に対するアンチテーゼとして生まれた宗教なんですね。

つまり、身分社会を絶対とするこの制度に疑問を思った創始者が、身分差のない、他者を寛容に受け入れる、平和で真面目な社会を作りたい、というコンセプトをふんだんに練り込んだ宗教なんです。


無料食堂ランガル

さて、そんな教えを最高クラスで体現しているのが、この黄金寺院の一角にある「ランガル」と呼ばれる、Free Community Kitchenです。

24時間、毎日、宗教や身分、国籍に関係なく誰でも、行けば無条件でごはんを提供してもらえるという夢のような食堂(しかも普通に美味い)。もちろん僕のような無宗教の日本人旅行者がやってきたって温かいごはんを食べさせてくれます。

凄そうじゃないですか?

こんな場所、興味が沸かないわけがありません。僕はいつかここに行って、インド人たちと一緒に、文字通り世界最大の同じ釜のメシを食いたいなと思っていました。


と、いうわけで行ってみました。

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ランガルに行くと、入口では超流れ作業で皿とスプーンを配っており、「俺でも入っていいのかな大丈夫なのかな」とか迷う暇もないほどにベルトコンベアのように中にいざなわれていきます。

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前の回の皆さんが食べ終わるのを少し待ち、建物の大広間に入ると一斉に列になって座ります。壮大な相席食堂です。「日本人?」「おー、メシ食いにきたのかお前」なんて嬉しそうに聞かれながら座って配膳を待ちます。

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少しすると順番に配膳係の人が食事を器によそってくれます。なんだか給食を思い出しますね。

僕が行ったときは黄色いカレーと豆のカレーと2種類に、米をココナッツミルクで煮込んだ甘いスイーツ的なものと、チャパティ(パン)にライス。インドでは定食のことを「ターリー」というのですが、いや、これね、タダだというのに、ちゃんと温かくて美味しい立派なターリーでした。

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しかもおかわりが自由
凄くないですか??


シク教の教えについて―
"地位や性別、年齢に関係なく、ともに料理をし、同じ床に座って食べ、後片付けをする。誰もが公平に働き、おなかを満たし、幸せな気分になる。それ自体が「聖なること」なのだ。"
(出典:「中日春秋」中日新聞 2014年10月18日)

うーん。

なんだかシンプルですが人間の幸福についての真理を突いている気がしませんか。

基本的に宗教というものは、修行や祈りによる内面の旅でそのレベルを高めていくイメージがあります。ですがシク教は、「毎日ちゃんと身体動かして働いてごはん食べて生活しろよ!」という人間の根源的なところに幸せの尺度があるのです。

ちなみに貧困と飢えのないコミュニティでは、犯罪率というものが極度に低下するそうです。ちょっと稚拙な言い方かもしれませんが、お腹いっぱいは幸福度が高いということ、なんですかね。


畏怖すべきルーチン

食べ終わったらお皿を返すのですが、ここでもすごい勢いで担当の方々が食器洗いしているわけですよ。不衛生なイメージがあるインドですが、ここでは皿洗いもきっちりやっていましたので、安心感があります。

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この一連の作業がものすごい回転率で進んでいます。

俺のフレンチの回転率なんて比べ物にならないスピード感で、食べ終わったら次に待っている人たちのグループが建物に入ってきて並んで座って配膳されて……を、24時間体制でひたすらひたすら繰り返しているのです。

しかも500年。

準備する人、作る人、運ぶ人、洗う人、掃除する人、と何百人もの人々が常に関わっており、一日十万食提供(!)ともいえるこのルーチン作業、その材料費や製作費はすべて寄付により、人件費はすべてボランティアにより賄われています。

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凄い、凄いよ。
凄すぎるよ、シク教。

普段お料理アカウントで活動している僕も、改めて食というものの基本的な理念を学ばされた気がしました。

食に対する究極概念を覗き見てみたい方は、コロナ明けにアムリトサルへ是非行ってみてください!


~おまけ~

夜のハリマンディルサーヒブがまた凄い。

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