韓国語版の翻訳者さんに、質問してみた
2020年4月、コロナ禍の影響で大手書店が軒並み休業したその日に刊行された自著『「話す」は1割、「聞く」は9割』(大和出版)。波乱のスタートながら、おかげさまで多くの方々に読んでいただいている。
その夏に韓国語版の打診があり、出版された話は以前のnoteにも書いた。
韓国の版元であるカシオペア出版さんは刊行時にキャンペーンをしてくださったようで、今でもInstagramで「오카무라 나오코(オカムラ ナオコ)」「일잘러의 말센스(韓国語版のタイトル)」で検索するといくつも投稿がヒットする。すごい。自分の本が本当に国境を越えている。
このきっかけが今回の韓国語版プロジェクトであり、翻訳者の김남미(キム・ナンミ)さんのおかげでもある。
前回のnoteで書いていた「著者として一度、翻訳者さんに話を聞いてみたい」という要望は去年からずっと温めていた。
翻訳者さんの仕事として、おそらく著者以上に読み込んで意図を言語化しなければいけないはず。김さんには私の本がどんなふうに届いて、どんなふうに韓国の皆さんに届けてくださったんだろう。
韓国語版が決まったときからずっと気になっていたことが今回たくさんの人の手を経て実現、김さんに文書で回答をいただけた。質問状は日本語・韓国語・英語で準備したところ、とても丁寧できれいな日本語でお返事が来た。どうもありがとうございます!
転載の許可もいただいたので紹介しようと思う。
翻訳元の本の著者として、お聞きしたいこと
--- 初めてこの本を知ったときの印象はどうでしたか。
翻訳家である前に一読者として前書きの部分を読んだとき、これは私にとって必要な本であると思いました。 「初対面の相手との会話が弾まない」「大勢でいるときに話の輪に入れない」とはまさに私のことでした。なので、口下手な私を含めて多くの人に大いに役立ちそうな本だと思いました。
---どの部分が「⾯⽩い」と感じられましたか。
いくつかありましたが、まずは「違い」と「謎」から話題を探すという発想がとても新鮮でした。私が知っていた方法は「共通点探し」だったので、本当に発想の転換だなと思いました。「違い」と「謎」を探して、どのように会話を進めていけばいいのかを例を挙げて詳しく説明してくれるので、日常会話でそのまま実践することもできて、とても実用的だと感じました。
また、「自慢話」や「苦手な人」との会話でも、得るものがたくさんあるという主張も新鮮でした。普通、自慢話はできるだけ聞きたくないものですが、かえってそこから多くの情報を得られるという言葉に頷かされました。
--- 韓国の会話術とどんなところが違っていましたか。
韓国にも「聞く」の重要性を強調する本はそれなりにあります。ですが、実際は聞いているだけでは会話が続きませんよね。単純に聞き上手に留まらず、どのように会話をつなげればいいのかを詳しく教えてくれるところが、この本の特別なポイントだと思います。
また、「会話の中で無理をしなくてもいい。」だったり、「会話が苦手な自分を責め、変えようとしなくてもいい。」といった言葉から、話し下手で悩んでいる人の立場を十分に理解して書かれてある本だということが感じられました。会話が苦手な多くの人たちが、この言葉にどれほど励まされたことかと思います。
--- 実は「ここは賛同しにくかった」と思う部分はありましたか。あったとしたらどこでしたか。
唯一答えるのが難しい質問でしたね…。どんなに考えても思い浮かぶことがないので、ないと思います。
--- この本を翻訳するのにどのくらい時間がかかったのですか。
二ヶ月ほどかかったと思います。分量によって異なりますが、私の場合は大体二ヶ月から三ヶ月かけて一冊の本を翻訳します。
--- この本の翻訳で⼀番苦労したのはどんなところですか。
特に難しい部分はありませんでした。伝えようとするメッセージが明確で、文章が無駄なくシンプルだったので。それから、難しい用語や内容を扱ったものではなく、どんな人でも共感しやすく、実践しやすい内容だったので、比較的スムーズに翻訳することができました。
* * *
どうもありがとうございます!! 著者として「ここが伝わってほしい」「ここで楽になってほしい」と思うところを김さんがしっかり受け止めてくださっている。その事実に感激した。こう考えて訳してくださっているなら何も心配ないし、韓国の皆さんにも伝わっていると思う。
翻訳者の仕事について
--- ⽇本語を韓国語へ翻訳するとき、いつも気をつけているのはどんな点ですか。
「韓国語で読んだとき、自然でかつ著者の意図をしっかりと汲み取ること。」これを常に念頭に置きながら翻訳をします。 最終的に本を読むのは韓国の読者なので、何より韓国語で読んだときに理解しやすく、スラスラと読める翻訳文がベストだと思います。
そのためには、より明確で自然な表現を選び、一つの文章を数えきれないほど修正します。この時、決して著者が伝えようとする意図から外れないように心がけています。
--- 翻訳者になろうと思ったきっかけは何ですか。
高校2年生のとき、友人が聞かせてくれた日本の歌がきっかけで、初めて日本語に触れました。その時、歌の歌詞がどんな意味なのかが気になり、歌詞を韓国語にして理解しましたが、その過程が実に面白かったのです。全く同じ文章一つ取っても、いろいろな翻訳文が出来上がるというのはとても興味深いものでした。
その時から翻訳に関心を持ち始めました。そして、大学を卒業する頃には、本が好きなのと一人で静かに作業をすることが好きだったことから、翻訳家になりたいと思うようになりました。
--- 可能であれば韓国で韓⽇翻訳者になるルートもお聞きしたい。
大きく二つの方法があると思います。一つは、直接出版社に翻訳の企画書を送る方法です。適当な本を一冊選び、A4用紙10ページほどの分量で本を紹介する企画書を作成し出版社に送ります。もし、出版社でその本の出版を決めた場合は、通常その本を紹介してくれた人に翻訳を依頼することになります。
もう一つは、翻訳家と出版社を繋いでくれるエージェンシーを通じて、翻訳家になるという方法です。通常簡単なテストなど受けてからエージェンシーに登録するようです。私の場合はこのエージェンシーが運営するアカデミーで学んだのちに翻訳家としてデビューしました。
* * *
2つの言語間でぴったり意味が合う語彙は少ないので、その中で一番伝わる表現を選ばなければいけない。日本語の慣用句が出てきたら韓国語で同じような表現を探さなければいけない。修正が「数え切れないほど」というのは全然オーバーではないと思う。
日本語に触れるきっかけはとても興味があった。歌かあ。歌詞も他言語に直すとなると難しいよなあ…。
翻訳者さんへの道は日本の状況と比べてどうなのだろうか。自分で企画書を持ち込んで翻訳書ができる可能性は、とても面白く興味深い。
語学について
--- どうやって⽇本語を勉強されましたか。
高校2年のときに日本に関心を持ち始めてから、大学で日本語・日文学を専攻しました。そして、21歳のときにワーキングホリデーで一年間日本で生活しながら、日本語を学び、さまざまな経験もしてきました。また、外国語を学んでいる多くの人が実践する方法だと思いますが、ドラマもよく見ました。当時は「ホタルノヒカリ」というドラマを楽しんで見た記憶が未だにあります。
その他には、音楽を聴くことも好きなので、アニメの主題歌をよく聴きながら楽しく学びました。また、日本の小説、特にミステリー小説が好きで、本を読んで一人で翻訳したりしながら勉強しました。最近は時間がなく、以前のように本を読むことがあまりないので残念ですね。
--- ⽇本語で「⾯⽩い、楽しい」と思われるのはどんなところですか。
日本語は韓国語と語順が同じで、漢字を使うという点でも似ているところが多く、比較的楽に学ぶことができるという長所があります。韓国人が最も取り掛かりやすい外国語が日本語であるのも、そのような理由からだと思います。
その反面、微妙に異なる部分もあり、それらを一つ一つ知っていく面白さもあります。簡単な例を挙げると、韓国語では「動映像」が、日本語では「動画」と表現される点などです。
--- ⽇本語⼒の維持のために続けていることはありますか。
言語は絶えず学びが必要な分野であるということを感じます。普段から「NHK WORLD」チャンネルをよく流し、常に日本語に接しようと努めています。
また、最近は韓国語と日本語の表現の違いを扱った本を一冊買って、日本語と韓国語の微妙なニュアンスの違いを勉強しています。
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おお、日本にもいらしていた。現地で触れたコンテンツは深く印象に残ると思う。私も2006年に3カ月だけソウルに語学留学したことがあって、やっぱり流れていたテレビ番組にはお世話になった。当時はどれを見ても유재석씨が司会をしていて、言葉が分からないなりに「この人は進行が上手だな」と思った記憶がある。
日本の小説は김さんのほうが読んでいるかもしれない。
ああ、プロの方もやっぱり毎日言語に触れる努力をされている。最後に語学について聞いて、自分にブーメランが返ってきたのだった…。
たくさんの方にご協力いただいた
私が「翻訳者さんに話を聞いてみたいのですが」と問い合わせてから、本当にいろんな方のご協力をいただいた。日本の版権エージェントさん、韓国の仲介代理店さん、出版社さん、翻訳エージェンシーさん、そしてご本人。
全ての連絡をこのルートで何度も往復していただくことになり、まさかこんなに大ごとになるとは思わずすみません。おかげさまで滅多にない質問の機会をいただき、韓国語版刊行とともに貴重な体験になりました。
コロナ禍が落ち着いたらま韓国へ行って、可能であればご挨拶ができれば。改めまして今回ご協力くださった皆さま、どうもありがとうございました。
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