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米中決戦2020-世界最終戦争への道⑤

おはようございます。開かれたインド太平洋の住人アルキメデス岡本です。

さて、前回の続きです。

米中覇権戦争が緊迫する中、ワシントンのシンクタンク「戦略予算評価センター(CSBA)」が、日本の海上自衛隊と中国の海軍の“力”をミサイルの数などで比較、中国が日本を完全に追い抜き、「自信」を強めているとする報告書を出した。報告書では、「自信」を強めた中国が、軍事力の行使に対するハードルが下がったのではないかと指摘。

さらに、中国の専門家が論じている、中国が尖閣諸島を4日以内に占領する「強行シナリオ」も載せられており、新型コロナ禍で揺れる日本に対し、自国の領土を守るためにどう行動するのかを突きつけている。

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尖閣上陸「強行シナリオ」

強行シナリオの概要は以下の通りだ。

①「海保の船が尖閣諸島海域にいる中国海警の艦船を銃撃。これに対し、中国海軍の護衛艦が急行し日本側を攻撃」

②「日中が尖閣を中心に戦闘態勢に入る。中国海軍空母『遼寧』ら機動部隊が宮古海峡を通過し、日本側が追跡」

③「日本のE-2C早期警戒機とF-15が東シナ海上空を戦闘パトロールに入るが中国のJ-20が撃墜」

④「中国軍が那覇空港を巡航ミサイルで攻撃」

⑤「米国が日米安保の発動を拒否」

⑥「日本と中国が宮古海峡の西側で短期間だが致命的な戦争となる」

⑦「米国軍の偵察機が嘉手納基地へ(中国軍が不干渉と引き換えに嘉手納を救う)」

⑧「衝突が始まってから4日以内で中国軍が尖閣諸島に上陸」

これは明らかに中国の希望的観測によるシナリオだが、仮に現実にこれが起きた場合、現状、日本単独の防衛力では対抗出来ないので、日米同盟の信頼性と戦略が重要になってくる。果たしてこの時、米軍は日本の為に動くのであろうか?

まずは、現時点における日米共通の軍事戦略がどのようなものなのか詳しく把握しておく必要があるのでここにまとめる。

米国の戦略

ワシントンのシンクタンク「戦略予算評価センター(CSBA)」が米国のアジア太平洋地域における戦略として「海洋プレッシャー(Maritime Pressure)」 戦略とその戦略の骨幹をなす作戦構想「インサイド・アウト防衛(Inside-Out Defense)」を提言している。
この戦略は、強大化する中国の脅威に対抗するために案出された画期的な戦略で、日本の南西諸島防衛をバックアップする戦略であり、「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」とも密接な関係がある。

この海洋プレッシャー戦略のみを読んでも深く理解することはできない。海洋プレッシャー戦略が発表される以前に、これと関係の深い戦略や作戦構想が発表されてきた。例えば、CSBAが米海軍や空軍と共同して発表したエアシーバトル(ASB)は特に有名だ。その他に、CSBAセンター長であったアンドリュー・クレピネヴッチの「列島防衛(Archipelagic Defense)」、米海軍大学教授トシ・ヨシハラとジェームス・ホームズの「米国式非対称戦」、海兵隊将校ジョセフ・ハナチェクの「島嶼要塞(Island Forts)」などだ。詳しくは「米中戦争 そのとき日本は」を参照してもらいたい。

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ASBが登場したのはオバマ時代の2010年であるが、中国本土の奥深くまで火力打撃を行うことに対する拒否感、膨大な国防費が必要な点などを理由に、ASBはオバマ政権の公式な作戦構想にはならなかった。
しかし、ASBと密接な関係のある列島防衛戦略としての海洋プレッシャー戦略がトランプ時代に復活したことには大きな意義がある。米中覇権争いにおいて米国が真剣に中国の脅威に対処しようという決意の表れであるからだ。

この戦略のキーワードの一つは「既成事実化」だ。この「既成事実化」は、「相手が迅速に反応できる前に、状況を迅速・決定的に転換させること」を意味し、ロシアが2014年、ウクライナから大きな抵抗や反撃を受けることなくクリミアを併合した事例がこの「既成事実化」に相当する。台湾紛争を例にとると、中国が台湾を攻撃し、米軍が効果的な対応をする前に台湾を占領してしまうシナリオを米国は危惧している。この場合、台湾占領が既成事実となり、これを覆すことは難しくなるからだ。

紛争地域外にいる米軍は、紛争現場に到着するために、中国の接近阻止/領域拒否(A2/AD)ネットワークを突破しなければならない。米海兵隊司令官ロバート・ネラー大将は「我々は戦場に到達するための戦いをしなければならない」と述べている。

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海洋プレッシャー戦略

海洋プレッシャー戦略の目的は、西太平洋での軍事的侵略の試みは失敗することを中国指導者に分からせることだ。
海洋プレッシャー戦略は、防御的な拒否戦略で、従来提唱されていた封鎖作戦(blockade operations)や中国本土に対する懲罰的打撃を補完または代替する作戦構想である。
海洋プレッシャー戦略は、第1列島線沿いに高い残存能力のある精密打撃ネットワークを確立する。米国および同盟国の地上発射の対艦ミサイルや対空ミサイルの大量配備とこれを支援する海・空・電子戦能力で構成されるネットワークは、作戦上は非集権的で、配置は西太平洋の列島線沿いに地理的に分散されている。

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海洋プレッシャー戦略は、国防戦略委員会の要請に対する回答で、インド太平洋地域における中国の侵略を抑止するために前方展開し縦深防衛態勢を確立するなどの利点を追求すること、そして米国のINF条約からの離脱などの政策決定を勘案した案を案出することが求められた。

インサイド・アウト防衛

海洋プレッシャー戦略ではまず、距離と時間の制約を克服し、米軍の介入に対する中国の試みを挫折させ、既成事実化を防ぐという作戦構想「インサイド・アウト防衛」を採用する。インサイド・アウト防衛とは、インサイド部隊とアウトサイド部隊による防衛だ。インサイド部隊は第1列島線の内側(インサイド)に配置された部隊(例えば陸上自衛隊)のことで陸軍や海兵隊が中心だ。アウトサイド部隊は第1列島線の外側(アウトサイド)に存在する部隊で海軍や空軍の部隊が主体だ。CSBAはインサイド・アウト防衛をアメリカン・フットボールに例えていて、インサイド部隊は「ディフェンスライン」で、アウトサイド部隊は「ラインバッカー」だ。

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インサイド・アウト防衛は、中国が米国とその同盟国に対して行っているA2/ADを逆に中国に対して行うことなのだ。すなわち、西太平洋の地形を利用して、中国の軍事力を弱体化させ、遅延させ、否定するA2/ADシステムを構築しようということだ。

中国の戦略

一方、中国の海洋戦略は、接近阻止/領域拒否戦略(A2/AD)で南シナ海の第1列島線を支配し、第2列島線まで自由な航行を可能にする事である。

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その為には、尖閣、沖縄、台湾を実効支配する事が第1目標である。

日本の戦略

日米の「自由で開かれたインド太平洋構想」をベースに海洋プレッシャー戦略を成立させるためには、第1列島線を形成する日本をはじめとする諸国(台湾、フィリピン、インドネシアなど)と米国との密接な関係が不可欠である。国防省や国務省はその重要性を深く認識しているだろうが、唯一不安な存在は、アメリカ・ファーストを主張し世界中の米国同盟国や友好国に緊張をもたらしているドナルド・トランプ大統領だ。

アメリカ・ファーストを貫くと、関係諸国との関係がより親密になるとは思えない。
自由で開かれたアジア太平洋構想や海洋プレッシャー戦略のためには米軍の更なる前方展開が必要だが、米国内にはこれに抵抗するグループがいる。米中覇権戦争において、米国は本当に中国の脅威の増大に真剣に対処しようとしているのか否か、その本気度が試される。
我が国は、この海洋プレッシャー戦略を前向きに評価しつつも、これに過度に頼ることなく、わが国独自に進めている南西防衛態勢の確立を粛々と推進すべきだ。
今後、中国の軍事力はさらに拡大路線を辿ると考えられており、米国に頼りきった防衛体制では日本の安全と平和は維持できないのが現実である。また、日本の自衛隊を縛る憲法と防衛費を現実に即した形に見直さなければ、海洋プレッシャー戦略の実現も危うくなる。

日本の平和を守る為には、「多くの国民がこの現実を認識する必要がある」と考える。






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