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深読み 米津玄師の『さよーならまたいつか!(『虎に翼』主題歌)』第21話


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2024年3月中旬
東京都渋谷区神南
NHK放送センター



NHK放送総局・幹部室



三木君・・・

米津玄師が、ゆっくりと動き出したな・・・


地下空間を探索しているのでしょう・・・

落とし穴で怪我をしなかったのは幸いです・・・

もし彼を傷物にしてしまったら、それはそれで大問題になりますので・・・


昨今、テレビ局がタレントに怪我をさせたら、SNSで大炎上だからな・・・

で、地下空間はどれくらいの広さが?


当初は旧日本軍の防空壕をフルに活用したアトラクションになる予定でしたから、相当な広さだったと聞きます・・・

しかし計画の途中で頓挫してしまったので、作られたのはイタリア北部エリアのみ・・・

モナコ、南アルプス、そしてミラノ・・・

使われなかった空間は、壁で塞いであるはずです・・・


そうか・・・

それなら地下空間で米津玄師を見失うこともあるまい・・・

身柄確保の任にあたる特別班の連絡を待とう・・・




NHK放送センター
秘密の地下空間


あのウサギ、やっぱりウサギだけあって、足が速いなあ・・・

あっという間に姿が見えなくなってしまった・・・

どこまで行っちゃったんだろう・・・


「こらっ!危ないじゃろ!」


ん? 今、人の声が聞こえたような・・・

誰もいないのに変だな・・・


「ここじゃここ!お前さんの足もと!」


え? 俺の足もと?

ええっ!?



お前さんのその足に危うく踏みつけられるところじゃったぞ・・・

まったくどこに目をつけているのやら・・・

もっとも、その長い前髪じゃ何も見えんだろうが(笑)


おじいさんは・・・ ずいぶんと・・・

小さいですね・・・


わしが小さいじゃと?

お前さんが大き過ぎるのじゃ。


確かにそうかもしれません・・・

俺、188ありますんで・・・


八十八?

オコメみたいな奴じゃな。


よく言われます・・・

ところで、おじいさんは何を抱いているのですか?


この子のことか?

大司教さまに奉納する子ヤギじゃ。

名前をジェズという。


子ヤギ? 大司教さま?


やれやれ。大司教さまを知らんとは・・・

お前さんはそんな馬鹿デカい頭をしているというのに、中の脳みそはサメ並みのようじゃな・・・

おお、哀れなオコメに、神の御加護を・・・


大司教さまに奉納したら、その子ヤギはどうなるんですか?


どうなるだと?

決まっとるじゃろ。大司教さまが召し上がるのじゃ。


召し上がるって・・・

食べるってことですか?


大司教さまはグルメなお方・・・

肉の軟らかい子ヤギや子羊が大好物なのじゃ・・・


何だか残酷だなあ・・・

その子が食べられちゃうなんて・・・


お前さんだってレストランでラム肉料理を食べたことあるじゃろう?

仔羊のソテーやらテリーヌやら、ラムチョップやらジンギスカンやら・・・



はい・・・

先日、仕事で沖縄に行ったんですが…

打ち上げをした居酒屋で、仔ヤギの肉を焼いたヤギテキを食べました・・・



ほれ見ろ。

お前さんも食べてるのに大司教さまが食べて何が悪い?


そうですけど・・・

ところで、ちょっとお尋ねしますが、灰色のウサギを見かけませんでしたか?

金の懐中時計を手に持って、大慌てで走っていた灰色ウサギを・・・


お前さんもなかなかの通じゃのう…

灰色ウサギの肉は絶品じゃ。



いや、肉の話じゃなくて…

灰色のウサギがここを通りませんでしたかって聞いてるんです…


ああ、それならさっきここを通っていったぞ・・・

「大変だ、遅刻する」と歌いながら・・・

なんせ今日は結婚式があるからのう・・・


結婚式?


大公さまの忘れ形見と伯爵さまの結婚式じゃ・・・

その二人に大司教さまが、ありがたい婚姻の秘跡を授ける・・・

「病める時も、健やかなる時も、茨の道も、凍てつく夜も・・・」とな・・・


ん?


お前さんも結婚式に行くんじゃろ?

見たところジャポネーゼのようじゃから、伯爵さまに招待されたか・・・


は?


伯爵さまの日本人贔屓は有名じゃからのう・・・

何でか知らんが…


いや、おじいさん・・・

俺は結婚式に行くんじゃなくて出口を・・・


急いだ方がいい。

おそらくこの先は参列者で大渋滞じゃ。

何せ一本道じゃからのう・・・


(やれやれ。とにかくこの道を進むしかなさそうだ・・・)

ありがとうございました、おじいさん・・・

俺は先を急ぎますので・・・


うむ。達者でな、オコメの青年!





しばらく止まっていた米津玄師が、また歩き出したか・・・


この数分間、何をしていたのでしょう?

まだ北イタリアゾーンに入る手前の通路なのに・・・


何かを発見したのかもしれんな・・・

それが気になって立ち止まっていた・・・


まさか・・・ 旧日本兵の亡霊・・・


あんな噂話を信じるのかね三木君?


それではいったい米津は何を・・・


おそらく、通路内に作られた「小ネタ」でも発見したのだろう…


小ネタ?


混雑時に通路に並ぶ人たちが退屈しないよう、様々な「小ネタ」が散りばめられていたと聞く…

何気ない壁の落書きやら、同じセリフをしゃべり続ける機械仕掛けの人形やら…

まるでディズニーランドのアトラクションの通路ように…



なるほど…

落とし蓋のスイッチを入れたことで地下通路全体にも電源が入り、また様々なものが動き出した…

そういう可能性もありますね…


四半世紀も前に没になったイベント企画のことなど、若い米津玄師は知る由もないだろう…

現役のNHK職員でさえ、覚えている者はわずかなのに…

放送センターの地下空間にそんなものがあることを知って、今頃さぞかし驚いているに違いない…


放送総局長、特別班が落とし穴に到着した模様です!


よし。ただちに降下して米津玄師の後を追い、身柄を確保せよと伝えよ…





それにしても変な老人だったな…

俺の前髪が長くて何も見えないだろうと馬鹿にしたけど、自分だって同じような前髪なのに…

だけど、なぜあんなに小さいんだろう?


ブーーーーーーーン…


おや? 何だろう、この音は…

ハエでも飛んでいるのかな?


「この私をハエとは失礼千万!」


え?


「どけどけ!邪魔だ!」


ヘ、ヘリコプター?



ヘリコプターではない!

これはオートジャイロだ、青年!


あっ、そうなんですか… すいません…


すぐに謝罪の言葉を口にする…

もしや君はジャポネーゼ、ニッポン人か?


はい、そうですけど…


やはりそうだったか!

いいところで出会った、ニッポンの青年よ!


いいところで、と言いますと?


今からミラノで私の結婚式が行われるのだ!

ぜひ参列したまえ、ニッポンの青年!


あなたの結婚式が?

それじゃあ、さっきの老人が言っていた伯爵というのは…


私のことだ!

私の名はカプローニ伯爵!

タリエド伯ジョヴァンニ・バッチスタ・カプローニだ!


カプローニ伯爵?

どっかで聞いたような名前だな…


何か言ったかニッポンの青年!?

お前の名は何という?


米津といいます…


マヨネーズ?


マは要りません。ヨネヅです。


ヨネヅ?

ずいぶんと間の抜けた名前だな!

だから歩き方もフラフラしてるわけか(笑)


「間」はイタリア語で「フラ」ですからね。

ちなみに「トラ」でも置き換え可能です…



むむむ!只者ではないなニッポンの青年!

夏目漱石が『三四郎』のオチに使った落語用語&イタリア語ネタ「間=フラ」を知っているとは!

ますます気に入った!私の結婚式へ参列するに相応しいニッポン人だ!


なぜカプローニ伯爵は日本人にそこまでこだわるんですか?


今は理由を説明している時間はない!

式が終わったら、たっぷり話してやろう!

さあ、行くぞ!


この道の先はミラノなんですか?


そうだ!すべての道はミラノに通ず!

ニッポンの青年、ミラノは初めてか?


ええ… イタリアは初めてですかね…

いや、バチカンには行ったことが…


バチカンに行ってミラノには行かなかったのか?

信じられんな!


バチカンというか、バチカンそっくりな場所には行ったことが…

俺の地元にありまして…


バチカンそっくりな場所がある?

このバカチンがぁ!

バチカンが2つあったら、また教会大分裂、大シスマが起きるだろう!


あっ、そのへんは大丈夫です…

俺の地元のバチカンは、偽物であることを公言してますから…


偽物であることを公言しているバチカン? 何だそれは?

お前のその馬鹿デカい頭は大丈夫か?

変な夢でも見ているんじゃないのか?


かもしれません…

夢ならばどれほどよかったでしょう…


まったくもって変な奴だ!

だから妙な連中に追われているのだな!


妙な連中?


さっき妙な連中に会った!

お前のことを探していたぞ、ニッポンの青年!


俺のことを?


猫背で長い爪をした薄気味悪い連中だ!

「もじゃもじゃ頭の若者を見なかったか?」と聞かれたから「知らん!」と答えてやった!

何せ本当に知らなかったからな!


猫背で長い爪をした薄気味悪い連中が俺のことを探していた?

いったい何者だろう?


気にするなニッポンの青年!

さあ、急ぐぞ!

真っ白なシーツ、美しい女たち…

いざ、ミラノへ!


あ、はい… カプローニさん…



つづく



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