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「知的生産の技術」とセカンドブレイン比較論

「知的生産の技術」とセカンドブレイン比較論: 50年以上前の著作「知的生産の技術」は、知的生産性に大きな進展をもたらした。デジタル情報時代のナレッジワーカーが破壊的な変革を求められる今、最新の手法である「セカンドブレイン」と比較する。


前回の記事「Evernote読書術: 超速でデジタル読書ノートを作り力強くアウトプットする方法」では、梅棹忠夫氏の「知的生産の技術」の著作にもふれながら、デジタル化時代の読書法について書きました。

デジタル情報が爆発的に進む中、知識を仕事のすべとするナレッジワーカーの革新的技術が求められています。

「知的生産の技術」も「セカンドブレイン」もどちらも知識を集め、凝縮して整理して、自分自身のアウトプットとして価値の高い成果物を創り出す作業について語るものです。

今回は、この2つを対比しながら、デジタル化時代の知識管理のシステムにつて、次の5つの観点から比較検討したいと思います。


1. 「知的生産の技術」とセカンドブレイン比較論

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知的生産の技術

梅棹忠夫氏の「知的生産の技術では、「神々の復活」に登場するレオナルド・ダ・ヴィンチの手帳からヒントを得て「発見ノート」が始まりました。

そこからフィールドワークに使うために規格化されたカード(情報カードが開発され、その後のカードシステムへと発展していきました。

ノートの欠点は、ページが固定されていて、書いた内容の順序が変更できないことです。これを一カード1項目に切り分け、日付や索引をつけるのがカードであり、これを体系的に使う方法がカードシステムです。

梅棹氏は、このカードが蓄積しゆるく分類されることで、知識の管理に革新がもたらされるとしています。

このカードはカードボックスに収納されるわけですが、仕事の現場でこれを取り出し、関連する知識を記録したカードが並べられます。

カードの操作のなかでいちばん重要なことは、組みかえ操作です。知識と知識とを、いろいろに組みかえてみる。あるいはならべかえてみることで、全く新しい発見が往々にしてあります

一覧表示してつながりや組み合わせを考える。そこからまた新しい発見を見つけていく創造的作業だと言っています。

記憶するかわりに記録する」のである。あるいは、「頭にいれずにカード・ボックスにいれる」とも言っています。

つまり、知識を頭の中から要約した形でカードに移されます。そして、現場の仕事はすっきりとした頭で必要なカードのみを取り出して並べ替えて新しいアイデアの発見へと進められます。

セカンドブレイン

セカンドブレインの方法論は、アメリカの生産性コンサルタントであるティアゴ・フォーテ氏が開発したものです。Getting Things Done(GTD)をデジタル化した環境で進めるうちに発展しました。

Getting Things Done(GTD)の行動可能性の度合いが低いとしてリソースに振り分けられた部分を、個人レベルでナレッジマネジメントで高い価値を創造することを可能にします。

具体的には、Evernoteなどのデジタル知識ツール使い、自分自身の中で混乱の元となっているデジタル情報を第二の脳へと移動して効率的に管理します。

ティアゴ・フォーテ氏は、自分自身の第一の脳は、特に創造性に関わる部分については、世界中のコンピュータを集めた処理能力に匹敵する能力を秘めていると言っています。

これにより、第一の脳を情報の洪水から守り、同時に外部のツールでデジタルであることを最大限に活用した情報管理を可能にします。

つまり、セカンドブレインは梅棹忠夫氏が言うところのカードシステムであり、カードボックスをデジタル処理することを可能にしてくれます。


2. 読書術と切り抜きキャプチャ

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知的生産の技術

梅棹忠夫氏は、読書については2つのタイプのカードを使っています。一つは「読書カード」で、所蔵や読んだ本の記録を残すためのもの。機能的には自分用の読書記録をカードにしたもので、図書目録に近いと言えます。

もう一つは、読んだ本の「重要な箇所」と「おもしろいところ」を書き出した「読書ノート」と呼ぶもの。こちらがいわゆる「読書カード」と言えるかもしれません。

これは、先ほどのカードシステムの一部となり、知的創造の作業の中に組み込まれていきます。

梅棹氏は、新聞や雑誌の切り抜きについても、カードに貼り付けることでカードシステムに取り込めるとしています。


セカンドブレイン

セカンドブレインでは、電子書籍ハイライトから「読書ノート」に相当する「ノート」簡単に作成することができます。

KindleiBooksからハイライトとメモを使えば、本の重要な箇所や面白い使える箇所を簡単に抽出できます。

これは、紙の本に三色ボールペンや書き込みをし、読書ノートに書き出す作業よりも格段に効率的に行えます。

また、私自身の経験からも言えるのですが、時間的にも労力的な負荷から解放されるため、デジタルなアプローチのほうが、収集する箇所やメモ書きもより緻密で網羅的な読書ノートを作ることができる傾向があります。

電子書籍の読書ノートの考え方や使い方は、「Evernote読書術: 超速でデジタル読書ノートを作り力強くアウトプットする方法」で確認してください。

同じように、最近は新聞や雑誌記事からハイライトによって要約した知識を素早く収集することができます。

紙の時代には、「切り抜き」してカードやノートに貼り付ける必要がありました。

しかし、WebページPDFであれば、EvernoteのWebクリッパーや「あとで読むアプリ」などで記事全体でもハイライトした部分のみでも、電子データとして素早く取り込むことができます。


3. 知識を整理するときの分類方法の考え方

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知的生産の技術

梅棹氏は、分類法については「ゆるい」ほうが良いとしています。

分類法をきめるということは、じつは、思想に、あるワクをもうけるということだからです。

きっちりきめられた分類体系のなかにカードをほうりこむと、窒息して死んでしまうとも言っています。つまり、新しい発見、発想には逆効果だとしています。

客観的な分類よりも、主体的な関心のありかたによって区分するほうがよいとしていますが、具体的な方法については詳しく述べていません。

またカード自体を並べ替えることにより、新しい発見が得られるとしています。

さらに、カードから抽出したアイデアやキーワードを、小さな紙切れに書き出して並べ替え「こざね法」で誰でもが文章を書きやすくなると言っています。


セカンドブレイン

セカンドブレインも、ゆるやかな分類を推奨しています。

例えば、タグ付けは簡単にできるため、次々とタグの種類を増やし管理が複雑となり逆効果だからです。

この代わりに、知識を行動可能性の度合いによって、PARA (プロジェクト、責任エリア、リソース、アーカイブ)方式で4つの分類に分けます。

これは、現在までに蓄積された知識を(生産現場で)今すぐに使うことを前提にしているからです。単にEvernoteなどの外部ツールに記憶し引き出すためだけであれば、大きな意味はありません。

「知的生産の技術」と全く同じで、使うための分類が前提となって並べ替えられ現場のタスクやプロジェクトで活用されていきます。

さらに、それぞれの知識を書き記したノートは、実際のプロジェクトやタスク用にノートブックにまとめられ、仕事の進み方に沿って管理していきます。

この目的に必要なだけのカテゴリーやタグ付けが効率的に使われるというわけです。

紙のカードシステムでは、情報が大量になるほどあとから必要なカードを集めるのは至難の業となっていきます。

セカンドブレインでは、デジタル化されたカードであるからこその技術で、紙よりも格段に効率的に活用することを可能にします。

また必要に応じて、「カード」や「こざね法」と同様に現物のカードのようにパソコンやタブレットの画面に表示して並べ替える作業も可能です。

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4. 整理と仕事場の考え方

知的生産の技術

紙の情報を前提とした知的生産では、工場の現場のように、仕事の場所としての収納スペースや整理の方法が重要です。

つまり、紙の情報が爆発的に増え続ける状態にあった梅棹氏の時代には、仕事場の生産性を確保することが重要だったというわけです。

これには、紙の書類を管理するフォルダが必要です。プロジェクト文書用には「キャビネットファイル」を、資料を管理するには「オープンファイル」を使用します。

知的生産の工場である仕事の現場は、「仕事場」「事務所」「資料庫」「材料置き場の4つの場所に分けられます。


セカンドブレイン

これは非常に大きな発見だったのですが、セカンドブレインでも4つの場所で収集された知識を管理します。

これは、先ほどのPARAという分類方法で使われた「プロジェクト」「責任エリア」「リソース」「アーカイブ」と重なります。

またそれぞれの場所には、Evernoteのノートブックが「キャビネットファイル」や「オープンファイル」に置き換えられ、これらが文書ファイルや資料の保管場所に相当します。

つまり、知識の文書であるカードだけではなく、仕事場自体もデジタル化できると言うことです。

もちろん、セカンドブレインの仕事場はデジタルですので、パソコンやタブレット、スマホで同期され持ち運びも可能です。


5. 生産性の将来の技術

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カードシステムは、大量の紙の生産によって始まった情報化産業時代に生まれました。

その後のデジタル化の時代を予見し、梅棹氏は次のように述べています。

知的生産活動一般の技術は、はなはだしく未開発のまま放置されている。PERT(Program Evaluation and Review Technique) 法というようなものが開発され、実用化されている。

個人研究の段階においても、研究を停滞なく進行させ、もっとも効率的に目的を達するために、本気でかんがえてみるべきものだとおもう。

セカンドブレイン

梅棹氏の紙の情報時代と時を同じくして、日本の生産現場は生産性が高度に発展しました。

トヨタのカンバン方式を始め、世界中の製造業を圧倒するほどの効率性があったのは事実です。これは、世界中のものの生産の技術を一変するほどの影響力がありました。

セカンドブレインを提唱するティアゴ・フォーテ氏は、知識の生産にもものの生産技術が使われるべきだと言っています。

これには、カンバン方式のジャスト・イン・タイム、クリティカルパスや制約理論など、生産の現場のアプローチがセカンドブレインには取り入れられています。

さらに、ここからクラウドやAIを活用したデジタルの知的生産の技術が発展していくことになりそうです。


おわりに

ここまでお読みいただいたように、「知的生産の技術」と「セカンドブレイン」には重なる部分が数多くあります。

これまでのデジタル時代の急速な変化に加え、コロナ感染後の日本のナレッジワーカーには大きな変革が求められています

現在、世界中のナレッジワーカーがセカンドブレインに注目し活用し始めています。

日本の個人レベルのナレッジワーカーの状況を考えるならば、セカンドブレインのようなアプローチを真剣に考えるときが来ていると思うのです。

セカンドブレインや第二の脳に関する、より詳しい解説については「本の棚」セカンドブレインブログで手に入れることができます。

今回の記事の本編はこちらでご確認ください。

「知的生産の技術」とセカンドブレイン: 日米比較から考えるデジタル化する知的生産の進化論


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