ピン惑0119_ttl

strawberry candy

信号待ちをしていると
となりの親子連れの小さな女の子が

「青にな〜あれ! 青にな〜あれ!」

と 赤信号に向かってしきりに大きな声でさけんでいた

「こうやってると 青になるんだよ」

彼女は得意げに 嬉しそうに
母親にそう教えてあげていた

そうなのか

赤信号はそうやって
青信号に変わるものだったのか────

小さな女の子は その〈魔法の呪文〉を
懸命に 願いを込めて 唱え続けていた

私は 青になってほしく なかった

願えば届くなら
ずっと赤信号のままでいて ほしかった   

星崎さんの隣で もっと一緒にいたかった

長めの赤信号が 少女の願いを聞き入れて青に変わると 親子連れも 星崎さんも私も 駅に向かって歩きだした

さっき 青信号が点滅し始めたこの横断歩道を 星崎さんは「あっ」と駆け出して渡ろうとしたけれどど 私は固まってしまった

もうあと赤信号一回分 彼との時間を ひきのばしたかった

今日はもう ここでさよならかな

でももしかしたら まだもしかしたら
「もう一軒 行こう」と誘ってくれるだろう か

……でも

「じゃあねまた ありがとう 気をつけて」

さらっとそう言って 彼は反対側のホームへ駆け上がっていった

そうなのか

けど星崎さん

「私を好きにな〜あれ!」ってその背中に向かって あの女の子みたいになにも疑わずに叫んだら 無垢に叫べたら 私を好きになってくれ る ……?

そんな ね(笑)

だって私は さ
信号がどうして変わるかを 知っている

どんなに願っても
叶わないことがあることを知っている

青信号も どんな望みも 誰かのこころも

と 急にぐつぐつと頭にきて それまで彼と一緒になってうきうきと口にくわえて舐めていた棒付きキャンディーを駅のゴミ箱に放り捨てた さっきまで二人で並んで呑んでいたバーでもらった イチゴの形のイチゴ色のアメ 思い通りにならないからって子どもみたいに泣きわめくわけにも地団駄踏むわけにもいかないし アメに当たることしかできねーやんなるー ゴミ箱の中で もう決して口に入れることができなくなってしまったそのアメが ガラスみたいに煌めいてた 綺麗でかなしくて情けなかった あのアメはだって 私の彼への期待そのものだった

「もっと可愛くな〜あれ!」
「彼が好きになるような女の子にな〜あれ!」

たくさんの 尽きない願いがあるけれど

けれど もう小さくない女の子が こんなときに
願うことは こんなことだ

「早く家に帰って泣きたい」

一秒でも早く 誰にも見られていないところで泣いてしまいたい
こんなときに呼び出せる 救急車があればいいのに

赤信号スルーしかっ飛ばして 今すぐ私を家に連れ帰して 彼が快特で私から離れてくより速く


fin.


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今回の特典は、『理想の男性像』について、それぞれのエピソードをつきはなこによる漫画+裏話でまとめました。

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