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[ショートショートJAZZ]LOVE IS HERE TO STAY

これはジャズスタンダードの曲に着想を得た、オトナのショートショートです。楽器ではなく、文章でアドリブを取ってみました。
それでは、ショートショート JAZZのナンバーから「ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」、どうぞお楽しみください。


ドンドンドン!

「開けてー!」

こんな夜中にドアを叩くヤツは、1人しかいない。

ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!

「ねえ!早く開けてよー!」

まったく、相変わらず激しいヤツだ。


「ジョー!会いたかった!」

ドアを開けてやると、アイが勢いよく僕に飛びつく。

丸くて小さくて、色白なアイ。
細くて長くて、浅黒い僕。

アイが僕に抱き着くと、南の島のアイアイがヤシの木にぶら下がっているように思える。

「ジョー、聞いてよ!あの男、マジでムカつく!キー!」

自分の気持ちに正直な、しし座のアイ。
真面目で控えめな、おとめ座の僕。

しがみ付くアイをぺりぺりと僕の身体から引き剥がし、ソファに座らせ、温かいミロを作って渡してやる。子供の頃からのお気に入りで、荒ぶるアイを落ち着かせるには、ミロが一番効く。

そしてアイの気が済むまで、彼女の話に耳を貸してやるのだ。

異論反論は言語道断。アイの言うことがいかに支離滅裂でも、彼女は常に正しい・・・ということにしなければならない。

うっかり口を挟むと、1時間で済むはずの話が2時間、3時間と伸びていく。それにアイの恋愛パターンは、どうせいつも一緒なのだから。真剣にアドバイスするだけ、ムダというものだ。


エキセントリックなアイの行動に魅了され、最初は男たちのほうからアイに近寄ってくる。

アイは楽しいことが大好きで、その上、ノリがいい。盛り上がってすぐに仲良くなり、交際が始まり、同棲に至るまで、超特急だ。

一緒に住み始めると、本来の世話好きでお人よしなアイの性格が災いし、次第に男は付け上っていく。

すると遅かれ早かれ、アイの限界が来るという訳だ。

何かのきっかけでアイが激怒したら、ジ・エンド。

男のケータイをまっぷたつに割ったり、家電製品をボコボコと投げ飛ばしたりしながら、部屋をメチャクチャに荒らして、はい!さようなら。

ある時は、男が大切に集めていた映画のDVDコレクションをすべて破壊し、賠償請求されたこともあったっけ。

いずれにせよ、男がドン引きして、地球の裏側まで逃げていくほど、徹底的に怒りを表現するので、関係修復は絶対に無理。

結果、住む家のないアイは、必然的に僕の家に転がり込んでくることになるのだ。


「おはよう。あら、アイちゃん。来てたのね」

妻が起きてきた。

「また別れちゃったの?可哀想に。ほら、朝ごはんの準備、アイちゃんも手伝ってね」

妻も慣れたものだ。

我が家には、アイ専用の食器がすでに用意されている。
それを手際よく並べ、3人で食卓を囲み、「いただきます!」

あぁ。味噌汁が、寝不足の内臓に染みわたる。

「あー美味しい!うーん、いいお出汁!このお味噌汁を飲むと、なんだか身体の中から元気が沸いてくるのよね!涙で出ちゃった塩分を、取り戻す感じ?」

アイの恋愛は、僕の妻の味噌汁を飲むまでが、一連の流れなのだ。


情熱的でマイペースな、 B型のアイ。
その激しさを受け入れる、O型の僕。

「いつも悪いね」

アイに聞こえないように、妻に詫びを入れる。

「ふふふ。大丈夫よ。ジョー君にはアイちゃんが付いて来るって、知ってて結婚したんだから」


思い返せば、結婚式のときのアイもすごかった。

親族テーブルには座らず、新郎新婦の座るメインテーブルに適当な椅子を引っ張ってきて、僕らと一緒に座ったのだ。

おかげで結婚式の写真は、僕と妻とアイが、トリオのように映っている。まるで3人で結婚したような感じになってしまった。

「双子って、こんなにも絆が深いのねぇ」

新妻のつぶやきが、今も耳に残っている。


男女の双子として生まれた僕らは、「アイ」と「ジョー」と名付けられた。

日付をまたぐ出産だったため、僕らは誕生日が違う。

ついでに星座も、血液型まで違う。

性格も見た目も、正反対。

まるで一人の完璧な人間が二つに分かれ生まれてきたかのように、アイと僕はそれぞれが足りなくて、それぞれに補ってもらっている。

陰と陽。光と影。ポジとネガ。

一見するとアイが僕に頼っているように思われるのだが、実は僕のほうこそ、アイ無しでは生きられないのかもしれない。


「そういえばさ!いま建ててる新居は、いつできるの?」

「来年の春に完成予定だよ」

「やった!私の部屋は、陽当たりのいい南向きにしてよね」


ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ

明白だろ? 僕らの愛は ずっとここに
1年なんて話じゃなく 永遠と1日を共に
ラジオや電話 映画なんかは 一時の幻に過ぎない
すべてが時間と共に消え去っていくんだよ

でもね 愛しい君よ 僕らの愛は ずっとここに
僕らは一緒に これから長い長い道を行くんだ
ロッキー山脈が崩れ去り ジブラルタ海峡は消える
だってすべては幻だもの
でも僕らの愛は 永遠にここに
(日本語訳:小倉麻未)


Love Is Here To Stay
Lyrics : Ira Gershwin

It's very clear, our love is here to stay
Not for a year but ever and a day
The radio and the telephone and the movies that we know
May just be passing fancies and in time may go

But oh, my dear, our love is here to stay
Together we're going a long, long way
In time the Rockies may crumble, Gibraltar may tumble
They're only made of clay
But our love is here to stay


この曲には、驚くべき誕生秘話があります。

天才作曲家のジョージ・ガーシュウィンは、この曲を作っている途中で倒れ、38歳の若さで亡くなります。

その後、兄のアイラが歌詞をつけ、弟子が作曲を引き継ぎ、この素晴らしい曲が完成したというのです。

ロッキー山脈がなくなっても続くほどの、永遠の愛・・・。
兄弟の強い絆も、感じることができますね。

今回は、アリソンちゃんの歌う動画をご紹介しました。

ジャズというよりPOPSっぽい雰囲気ですが。
可愛いので、ま、いっか!


※このショートショートは、ジャズスタンダードの曲にインスパイアされたもので、作詞家の意図とは異なります。

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