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問題「発見力」大全 (イシューデザイン#2)

こんにちは。OGIです。
ますます大切になる問題「発見」力を高める上で有効なアプローチを、様々な分野から拾い上げ再編集する試みの第二弾です。
(原則、実際に自分で現場で試して有効だったものだけ取り上げてます。)

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今回は問題「発見」(イシューデザイン)のアプローチの2つ目、#2『「理想」を描きまくる』です。

(#0 の問題「発見力」大全の全体像(4つのアプローチ)はこちらをご覧ください。)

このアプローチは、恒例?の『映像研には手を出すな』(個性バラバラの3人の女子高生がアニメを作っていく話)のキャラ例えでいうと、主人公の「浅草みどり」かなあ。

主人公の女子高生で、半端ない妄想力と想像力と雑学で、アニメの世界観や設定をあふれる泉のようにどんどんイメージを膨らませて、想像しながら架空の世界やストーリーを紡いでいく、ちょっと不器用でシャイな愛されキャラ。

そんな彼女の『自分の意志で楽しそうに妄想を膨らませ、現実の断片や思いつきを自由に組み合わせて、世界観を想像しきり、描き切る力』は、今回のアプローチに大事な力。


#2『「理想」を描きまくる』の概観

前回の#1『「現状」を感じ尽くす』で、「理想」は常識や感覚でなんとなくわかっているけど、「現状」をよりよく知ったり、明確にしたり、捉え直すことで、問題を発見するアプローチの概要をまとめました。

今回の#2『「理想」を描きまくる』では、「現状」を眺めるときに、「理想」(こうあるべき、こうあったら素敵という体験や美学やイメージなど)があると「現状」に対して感じることのできる建設的な違和感やインスピレーションが半端なく高まり、問題「発見」(イシューデザイン)力が飛躍的にのびます。

なぜ問題「発見」(イシューデザイン)に「理想」や「現状」を多面的にもつことが重要なのか、そもそもなぜ問題「発見」が重要かは、(#1を読んでいない方は)#1『「現状」を感じ尽くす』の目次にある『「理想」と「現状」が意外とわかっていない』をご参照ください!


「”理想”を描くなんて、めっちゃ難しいし、別にいらないんじゃない?」

自分のクリエイティビティに(今以上に)自信が無くて、問題解決脳しかなかった20代前半の自分は、そういう考えでした。

実際、常識的な理想状態や誰かが決めてくれた明確な目標を元に問題を設定していれば、まあまあな仕事はできました。

ただ、顧客の課題を発見するにしても、組織や業界やコミュニティの課題を設定・再定義するにしても、常識や決められた目標と「現状」のギャップを探して解決するだけだと、他者とかぶりやすいし、単調になりかねない。(山口周さんがよくおっしゃってますね)

なので、それだけではなく、「こんな状態になったら素敵じゃない?」という気づかなかった、考えてもいなかった理想を提示して、現状をそこに近づける解決策を自分や他の人を巻き込んで実現できればもっとやれることが広まります。

#2『「理想」を描きまくる』の具体的なアプローチで扱うテーマは、

1)「アート思考」と「スペキュラティブデザイン
 (無意識の固定観念を探して、見つめ直す)
2)リベラルアーツ
 (美学と共通善から見える風景)
3)シナリオプランニング
 (未来予測が未来を作る)
4)「ストーリー」と「ナラティブ
 (余白の作法)
5)「妄想力
 (SFとアニメ、新結合と強制発想、意味のイノベーション)


1)「アート思考」

友人のアーティストが「もうバズワードっぽくて嫌だ。」と嘆くくらいに「アート思考」という言葉を頻繁に聞くようになりました。

「世の中に浸透して、何かを成し遂げる新しい概念」は、新しい技術が経験するハイプサイクルのように、一度モテ期が来て、バズワード的に表面的な理解と誤解と偏見にまみれ、がっかりされて、その試練を乗り越えた後に真価を発揮するってサイクルだよね、って話したら気を静めてくれました(笑)。)

さて、「アート思考」ってなんでしょうか。
厳密な定義論を展開しても仕方がないので今回のテーマの#2『「理想」を描きまくるの具体的なアプローチのヒントになりそうな点に絞って考えてみたいと思います。

すっかり有名になったデザイン思考は、”デザイナーのように”「考え」て(人間中心など)、デザイナーが問題解決する「プロセス」(共感→課題設定→広義のプロトタイピングなど)を他の分野にデザイナー以外も取り入れること、という捉え方が一般的な印象を受けます。

アート思考も、”アーティストのような”思考態度と行動プロセスをビジネスパーソンなども取り入れることを指していることが多いようです。

色んな方にお話を聞いたり、書籍を数冊読んだりしました。色んな表現されてい難しかったですが、共通していて、かつ重要だと思う特徴は下記です。

自分だけの「モノの見方・感じ方」と「興味・情熱」にのみ
 突き動かされ、考え、つくる

 ・内面から湧き上がるものに従い、他人の評価や要望から始めない。
 ・アート思考で一番大事なのは、アート作品自体やその知識ではない。
  その作品が生まれる情熱と探求の「態度とプロセス」である。

②したがって、他人が決めた問題の解決ではなく、
 「問い」から自分で生み出す


「考える」ではなく、「感じて、表現」する。
 ・「考える」(概念によるロジカルな思考)は、概念という使い古され
   手垢のついた固定観念を積み木のように積み重ねるだけ。
 ・「感じる」は、概念になる前の自由な感性から入り、自分なりに概念化   することになるので、より自由で、より今ないものが生み出せる。

じゃあ、アート思考を、#2『「理想」を描きまくる』の具体的なアプローチとしてヒントにする方法は何か?

(皆さん多種多様な考えをお持ちでここで全ては説明しきれませんが、)一つには、「無意識な常識の相対化」が、やってみると今までにない「理想」を描くことにいい感じでつながりました。

具体的なステップはまた日を改めてご説明できればと思いますが、我々が「事実、常識、リアル、べき論」として無意識のうちに前提にしていることを見つけ出し、取り出します。(まずここが大変であり、アート思考が生きる部分だと個人的には思います。)

そして、その「事実、常識、リアル、べき論」を、一旦ゼロベースで考えて、自分なりの見方と感じ方で言葉や絵や形にし直します。

そうすると、今まで見えていなかったものや側面が、粘り強く繰り返していると見えてきます。その中で、ワクワクするもの、誰かに提案したり、形にしてみたいと思ったものを、文字や絵や形で磨きます。

その状態から、現状や常識を眺めて、解決したいギャップを感じたら、それは問題発見(イシューデザイン)の第一歩です。

ちなみに、近い概念(そういう言い方すると怒る人もいそうだけど)で、「スペキュラティブデザイン」という思想とアプローチがあります。

通常のデザインのように問題解決ではなく、問題提示のために、理想の状態を実際に形にして提示する考え方です。
ヨーロッパのいくつかの国では定着していて、イギリス政府にはスペキュラティブデザインを専門にやる部署もあるそうです。

アート思考との違いは、実現可能性の有無です。
アート思考で描く理想や未来は、(一旦は)実現可能性や世に広まるかは問いません。
しかしスペキュラティブデザインは「ありそうでなかった、起こってもおかしくないし、望ましい」という実現可能な未来を描きます。

ただ、「現実の延長線上の未来」ではなく、現実味があるし起こってもおかしくないけど、「想像もしていなかった面白い未来」という絶妙な立ち位置で未来を描きます。

このスペキュラティブデザインは、後述する「シナリオプランニング(未来予測)」や「SF・アニメ」や「ルールブレイキング」にも通じるものがあります。

参考情報
ミミクリデザインさんのWDA(ワークショップデザインアカデミー)
 ※「スペキュラティブデザイン」と「意味のイノベーション」の説明がわかりやすい。
・『アートシンキング 未知の領域が生まれるビジネス思考術
・『ロードアイランド・スクール・オブ・デザインに学ぶ クリティカル・メイキングの授業 - アート思考+デザイン思考が導く、批判的ものづくり
・『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考
・『世界観をつくる 「感性×知性」の仕事術
・『ハウ・トゥ アート・シンキング
・『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN
・『スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。—未来を思索するためにデザインができること

2)リベラルアーツ(美学と共通善)

The past does not repeat itself, but it rhymes.
歴史は同じようには繰り返さない、しかし、韻を踏む。)
by Mark Twain
(マーク・トウェイン、「トムソーヤの冒険」の著者として有名)

歴史そのものは繰り返さないけど、その背後にあるメカニズム、人間の心理や行動や変化など、何千年経っても変わらない学ぶべきものはあるという、ある方から教わった好きな言葉の一つです。

今回のコロナの状態を見て、過去流行ったペストやスペイン風邪と同じことが起こる!という反応は、個人的には浅薄で、思考停止を生む考えだと思います。(歴史は同じようには繰り返さない

しかし、その時と現在の違いを見据えて、冷静に学ぶべきところを読み解き思索、行動することには意味のあることだと思います。(しかし、韻を踏む。)

リベラルアーツとは、日本語では教養と訳され、人によって様々な定義がされますが、文字通り「自由(リベラル)になるための知識と素養」だと理解するならば、これも#2『「理想」を描きまくる』の具体的なアプローチとしてヒントになります。

時代や国や立場を超えて、共通する真善美(真実、善いこと、美しいこと)があったりします。
しかし、それはそれぞれの文化圏や時代やコミュニティで、ルールや常識として無意識に絶対視されてしまいがちです。

それを相対化するにはリベラルアーツとして、自分が今属しているコンテキスト(時代や文化圏)を超えた真善美(真実、善いこと、美しいこと)を学ぶことは自分たちの無意識の思い込みを見つけ出し、相対化する感性と表現力を与えてくれます。

そこから、我々は「こうあってもいいんじゃないか?」という原点回帰や新たな理想(候補)の提示につながります。

参考情報
・『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」
・『おとなの教養 私たちはどこから来て、どこへ行くのか?
・『「死」とは何か イェール大学で23年連続の人気講義
・『「教養」とは何か


3)シナリオプランニング(未来予測)

シナリオプランニングという言葉も、とても色んな人たちが色んなテイストで語っていますが、基本的には「未来予測&そのためにシナリオ作り」です。

例えば、「国内旅行の市場は2035年にはどうなっているだろう」、というような問いに対して様々な手法で考え、描いていきます。結構大変ですが、やってみると楽しいし、問題発見(イシューデザイン)として、とても効果的です。

「未来は予測するものではない、自分たちで実現するものだ。」
「そもそも未来なんて予測できない。」

と思う方もいらっしゃるんじゃないでしょうか?
私も最初にシナリオプランニングに触れた第一印象(というか拒否反応)はそんな感じでした。

ただ、シナリオプランニングは上記の考えと矛盾せず、未来を作っていくために、「ありえそうで、意味のある未来って何か」を、「現実の延長線上と実現不可能な未来の間の絶妙なポジショニング」で描いていくスタンスです。

そうやって、ありえそうで望ましく面白い未来を描いたら、そこに向けて第一歩として何をしていくべきかを考えます。

具体的な進め方は、また別の場で説明したいと思いますが、その壮大なプロセスをすごく端折って言うと、

①未来予測したい領域を特定
(2035年の国内旅行市場、2040年の地方自治体など。広すぎず狭すぎず)

②その領域が持っている「機能的価値」と「意味的価値」をあぶり出す。
(国内旅行の機能的価値は、移動と体験プログラムの提供。
 意味的価値は、脱日常と共有記憶の結晶化、など)

③その価値は今後どのように変わりそうか、変わらない部分は何かを整理。

④今後可能になる新しい技術で、それらの価値がどのように実現しうるかを”既存の市場の線引きに囚われずに”描く

⑤その結果として起きうる未来像を複数パターン短編小説のように記述する。

⑥その中から、実現したいビジョン(未来像)、備えたほうが良さそうな流れ、一か八かでかけてもいいギリギリありえる未来などに分ける

⑦それぞれの未来ごとに、そのために今日私たちは何ができるのかを言語化してアクションプランに組み入れる

わー、端折ったのに長い(笑)。そのくらい壮大な取り組みですし、そのくらい時間をかけてやる意味があるプロセスだと、実際にやってみて思います。

自分一人ではなく、ワークショップとしてやると色んな視点が得られたり、チームで共通の未来像が得られたりして、チームビルディングとしても有効で、オススメです。意外な未来を描けたりします。


参考情報
・『シナリオ・プランニング ― 未来を描き、創造する
・『2060 未来創造の白地図 ~人類史上最高にエキサイティングな冒険が始まる
・『社会変革のシナリオ・プランニング ― 対立を乗り越え、ともに難題を解決する


4)「ストーリー」と「ナラティブ

理想やビジョンを描ける人をビジョナリーと呼んだりします。今回のテーマの#2『「理想」を描きまくる』にも通じるものがあります。

ちなみに、問題発見のための「理想」は、どこまでガッチリ固めるべきでしょうか?

ストーリーとは、語り手が明確に物語やビジョンを作って語り伝えるもの、
ナラティブは、ストーリーを聞いた受け手が、ストーリーに含まれる解釈やカスタマイズの「余白」に自分色を入れて、独自に語り出す話を指します

問題発見や問題再定義はもちろん、問題解決をどのように進めるかは、その「理想」をストーリー中心にこだわるか、ナラティブ中心に自律的で多様な解釈と問題解決を図るか、どちらを作るべきか、作りたいかに意識的になるべきでしょう。

ストーリー型は、原理主義的にきっちり定めて、それを元に問題を定めて解決していく方法も多いですし、有効なことも多い。Appleがそんなイメージ。

逆にナラティブ型は、ゆるーく決めて、理想の聞き手や受け手に、解釈やカスタマイズの「余白」を用意して、作り手も想像がつかない広がりを生み出すと同時に、受け手にも自分事(自分も当事者であり作り手に参加)として捉えてもらう。

これは商品やサービス、ブランドのコンセプトはもちろんのこと、企業のビジョンや文化の作り方としても大切な側面です。

どちらが正解ということはありませんが、どちらを見据えるかで、待っている未来とすべきことが全く変わります。


5)妄想力

いよいよ、問題「発見」(イシューデザイン)のアプローチの2つ目、#2『「理想」を描きまくる』の最後の項目、「妄想力」です。

今まで説明した理想を描くアプローチ以外で、理想を描くのに有益な力で、何かのきっかけや素材から、誰も見たことのない世界観や用途や形やコンセプトを紡ぎ出す力です。

これも語り出すと、(実際の現場での実験してみた方法に限定しても)長くなるのですが、文字数の関係で、ここでは軽く触れるに留めます。

まず、「新結合と強制発想」。
イノベーションの権威のシュンペーター先生も、アイディアの権威のジェームス W.ヤング先生も、新しい発想は、既存のものと既存のものの新しい結びつき新結合)と看破していらっしゃいます。

理想を描く時に、関連する切り口でありながら、相互に関係のないテーマで商品やビジネスモデルや業界などを並べて、ランダムで組み合わせを作って、その二つで何かを作るという強制発想は意外と有益だし、妄想力を鍛えるいいトレーニングになります。

他にも、「SFやアニメとの向き合い方」、「意味のイノベーション」などありますが、長くなってきましたので、またの機会に詳細ご説明したいと思います。

実施方法
テーマが壮大なので、かなり端折りつつ説明しましたが、実際の問題発見アプローチの実施などに興味があれば、Facebookメッセンジャーなどでご連絡ください。


次回は、問題「発見」(イシューデザイン)の4つのアプローチの3つ目、#3『解決策から「逆算」してみる』です!

出てくるキーワードは、「プロトタイピングとMVP」、「架空の世界シナリオ」、「「昔の常識」の変遷、」、「アクションドリブン」などなど。

お楽しみに!

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