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福祉施設の夜勤 5


今日も朝方に眠るのが困難だった。薬を飲んで眠気も感じているのに寝付くのが朝8時頃になってしまう。15時までには起きたいので、そうなると睡眠時間が短くてしんどい。只今の3時頃などは特に。

出勤するなり「誰かの叫び声が聴こえた」と怯えながら僕達に伝えてきた利用者が居た。最初は自分が居る範囲には何も、声1つ聴こえておらず、その人は統合失調症傾向があるので「誰も叫んでないよ」とほかの世話人さんは否定した。
しかしその数分後には実際に「ワァ!」みたいな叫び声がどこかの部屋から出てきて、「ほら、叫んでますよ誰か」と利用者は言った。

普段は温厚で何かと感謝の言葉述べる人なのだが、その時は「僕は他の利用者に恨まれているから」などの被害妄想的発言が出ていた。過去に夜中彼自身が叫んだりしていた記録もあり、結局叫んだ人は特定できなかったけれど、まあ彼自身が自ら叫んだんじゃないかなと個人的には思う。

彼はこういうことが時々あるので、管理人さんは「貴方は本当は来週退去の予定だったんですよ」と説教していた。反省して謝ってはいたが記録を見る限りまたやるんだろうな、と多分世話人は皆思っている。少なくとも僕はそう思った。
勤務の2.3回目でちゃんと彼の良くない行動は綿密にチェックしていたから、大して驚きもせず、僕は夕食の準備にひたすら集中していた。

彼は軽くパニックになっていたので、頓服のジアゼパムを要求して貰っていた。僕もその手の症状がここまでではなくとも酷い時期があったので気持ちは分かる。けれど彼には物を盗んだりたまに激怒する傾向があるので同情は余りできない。

同じ統合失調症を持っている別の利用者で「いつここを出れるんですか」と毎日のように職員に問い詰める人が居る。僕は今日その標的となったのだが、キッパリと理由を説明できる「その人のその発言へのマニュアル」のようなものを熟知していたので対応はできた。やはり利用者の記録を熟読しといて良かった。

管理人が帰る際に「このファイルには利用者さんのこと詳しく書いてあるから良かったら。また、精神病・知的障害の研修資料もあって」と教えてくれた。多分僕がテスト勉強をする様に利用者の情報を読み漁ってメモしているのに気づかれている。精神病・知的障害の研修資料は途中まで、存在を初めて知った利用者の細かいファイルは一通り読んだが面白かった。良い時間潰しになる。

僕と利用者さん達は紙一重だな、と改めて感じる。薬に頼っている部分は圧倒的に僕の方が強いし、うつ病と言えるほどに精神が酷くなってからもう5年は経っている。
凄く失礼なことを言うが、「ヤバいやつにはそれを超えるヤバい対応をぶつければその場が収まる」理論を冗談半分でする人は割と居る。そんな感じでヤバい自分を余裕に超えられて、「これは自分がしっかりしなければ」という意識が勝手に産まて、まともを演じやすくなる。

坂口安吾の「白痴」で焼夷弾なんかが落ちた時の人の様子が描かれていたが、人はとんでもない危機になった時、泣き叫ぶだの大きな感情を出すような反応の域を超えて、ただ生き延びることに必死になる。その事象が大きすぎると脳が処理しきれないのか、そういう感情の回路が変わるのか。

だから帰った後や働く前の寝る時になってから、遅れてストレスがやって来るのだと思う。働く時以外は完全に仕事内のことを忘れてしまうのが良いんだろう。

早くも利用者に対する同情心というのはかなり無くなってきてしまった。身体障害だけの人は除き全員何かしらの大きな落ち度が過去にちゃんとあって、その鱗片が勤務時に段々と分かってくる。相談した際に母親が言った通り、利用者の証人等が冷たくしたり距離を離そうとせざるを得ない事情がある。普通だったら捕まっているようなことをしてしまったことがある利用者も居る。

飲む薬の量が増えすぎて自分自身の事も心配していたが、今の所身体の黄色信号は出ておらず、意外と大丈夫なんだと安心している。過呼吸はたまに出ても自傷行為までには及ばない。つまり大学時代よりマシであるという認識で良い。前みたく自傷行為が習慣化し始めたらこの仕事は辞めようと思う。

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