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Vancouverの書店レポvol.1/家族写真のコレクションと詩の自販機と発禁本

 COVID-19でカナダがロックダウンになったとき、バンクーバーにある我が家の近所は書店と花屋が開いていました(もちろん制限付きではあったけど)。日々の暮らしの中で、本と花の優先順位が高い街。よくよく見渡すと、バンクーバーにはユニークなインディペンデント系書店がたくさんあります。そんなお店約10軒の紹介シリーズ、のつもりが、書店員たちがインタビューで語ってくれたのは、本への愛、そしてこれからの暮らしに活きる”幸福論”のようなものでした。

①レジ画像

バンクーバーで”本のしおり”としてよく使われているもの

「バンクーバーの人たちは、なぜか家族写真を本のしおりに使う習慣があるんです」
ダウンタウンのど真ん中、かつて書店通りと呼ばれたW.Pender st.に2013年から書店『The Paper Hound 』を構えるKimは、とあるアルバムを見ながらそう話した。

「これね、全部持ち込まれた本の中に挟まっていた写真なの。そうそう、写真以外にも色々なものがあって、そこのポールに飾りつけてあるのはそのうちの一部なんですよ」

②家族写真画像

③レシート画像

④しおり

他書店のしおり、家電のレシート、何かのメモ、そしてお化けのQ太郎までーー。なかには思いっきり個人情報では?と思うものもあったが、それらを本に入れたまま気づかずに売ってしまうゆるさが、この街らしくて面白い。「これだけ集まると、なんだかセンチメンタルでしょ」。
 
 2019年12月、家族で東京からバンクーバーに移住した。この街は、どこか特殊だ。ダウンタウンの十字路で信号待ちをしていると、あらゆる人種が世界中から集まっているのを体感できる。すれ違う人々の言語も多様。かといって、東京ほど人が多いわけではまったく無いし、街の情報量も少ない(広告や、無意味に流れている音楽もない)。

 例えば、バスに乗るとき、うちの息子がグズっていると運転手がお菓子(というか、タッパに入ったにんじんスティック)をくれたことがある。降りるときは、みんな運転手に「サンキュー」と言う。わりと大きめの声で。皆子どもや障害のある人たちにとても優しく、そういう教育を小さい頃からされていると、カナディアンの友人から聞いた。そして何より、家族との時間を最優先する。だから、土日を前にした金曜日は、夕方から皆浮つき始める(仕事の手が止まる、らしい)。そんな街のど真ん中に、『The Paper Hound』はある。

⑤外通り 画像

本を売ることは私の天職

「うちは新刊と古本の両方を取り扱っています。『The Paper Hound』という店名の由来? 書店をブラブラするのって、”狩り”と似てると思って、だから”Hound dog(猟犬)”から取ったんです。猟犬ていつも何かをクンクンと嗅いでるでしょ? ほら、(1冊取り出した本をパラパラとめくりながら)紙の本てなんていい香りなの!」

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そう笑うKimは、生粋のBookworm(本の虫)だ。ブリティッシュコロンビア州の首都ヴィクトリアが誇るインディペンデント書店『Munro’s books』で働いた後、今のお店からも程近い『Albion Books』で3年、そしてバンクーバーの伝説的な古書店『Macleod’s Books』で10年のキャリアを積んだ。
「なぜ自分で本屋を始めようと思ったの?」とたずねると、「『Macleod’s Books』を辞めたとき、違う仕事をしようと思ったんだけど全然見つからなくて! 本屋の店員て潰しが効かないのよね」と冗談めかして言った。

「でも、いつも『Maleod’s Books』の同僚だったRodと、理想の書店について話をしていて。あらためてここまでの自分のキャリアを振り返ったら、本を売ることは私の天職かもしれない、と思うようになって。で、彼とこの店を始めることにしたの」

詩の自販機から問題の”発禁本”まで。全て自分の”好き”の延長

「規模が小さいって本当に楽しい。私たちはたったふたりだから、お店に関わるすべての決断は自分たちでできる。マーケティングは必要ない。そういうのは大きなお店に任せるとして、そもそも本を売るビジネスって、Tシャツや、暮らしに不可欠な、例えば食べ物を売る八百屋のような場所とは違う意義があると思うから」

 モットーは”small is beautiful”。自分たちが好きなもの、いいと思う本を、コツコツと棚に並べていく。大切なのはそこからブレないこと。そうして書店としての”顔”が出来上がっていって、なんとなくその顔が好きな人たちが集まってくるようになる。

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「お金じゃないところに利益がある、と思ってるの。書店の醍醐味は、お客さんとの交流ね。お店に入って来て、この狭い通路をぶらっと歩いて、ときには私たちとおしゃべりしながら探してもいなかった素敵な本と出会う。これってもうある種のマジックでしょ。その瞬間、うちのお店とお客さんが同じ波動で引かれ合っているんですよね。そんな経験って、ふだんの生活でなかなか無い。違う?」 

 本のジャンルは幅広い。けれど、1冊ずつていねいに選ばれ、並べられている印象を受ける。ぶらっと入って来たお客さんたちは、どの棚の本に手を伸ばすことが多いのだろう。
「”哲学”に関する本を目当てに来てくれる人が多いかな。あとはドラッグ、サイケデリック、マリファナ関連の書籍も伸びてますね。そうそう、私、猫が好きなの。3ヵ月前、何百冊もある猫に関する本のコレクションを購入することができて。だから猫本のカテゴリーは充実してますよ」

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⑨ドラッグ

 驚いたのは、詩のジャンルにとても大きなスペースが割かれていたこと。Kimも言っていたけれど、バンクーバーでは詩が人気。詩の朗読会のイベントも盛んで、我が家の近所のドーナツ屋でも毎週金曜日夜19時から、ポエトリーリーディングのイベントが行われていた。

10 詩の自販機

「これは『Poetry dispenser』。詩の自動販売機です。2ドル硬貨を入れて、そう、そこを回してみて。はい、詩が出てきた笑。

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そのとなりの『Banned Books』は、発売禁止、もしくは出版に関して何らかの規制を被った本たち。ソソるでしょ? でその上にあるのは”Smoking Section”。タバコにまつわる本たちね」

11 発禁本1

11 発禁本2

12 喫煙本

自由。店内のすべてが、彼女の”好き”の延長にある。
「日本の本も最近は仕入れていますよ。川上未映子、津島佑子、遠藤周作。多和田葉子の『The naked eye』は素晴らしかった! あとはもちろん村上春樹も最高ね、なんだか読んでいてウキウキする」

 あっという間に約束の1時間が経った。最後にインディペンデント系書店の未来についてどう思うか、聞いてみた。
「Covid-19で客層は変わりました。去年まではアメリカからの旅行者がとても多かったけど、今は近所の人、もしくはビジネスマンがほとんど。うちの売り上げは大半がお店で、オンラインはたったの5%なんです。世の中にはたくさんの本があって、Amazonは使いやすいけど、やっぱり直接書店に来ることの”マジック”は変わらない。これからは、よりお客さんとのコミュニティにフォーカスした書店が増えていくんじゃないかな」

 そんな話をしていると、威勢のいい男性がお店に入って来た。Kimが今取材を受けていることを告げ、自分も自己紹介をする。彼は『pulp fiction』という書店のスタッフだった。「先週取材のオファーをしました、返事はまだいただけてないですが」と彼に告げると、「オッケー、オーナーに伝えておくよ。でも、返事がないことを悪く思わないでくれ、うちには毎日何百通ものメールが来ているから」。
 Kimは笑いながら言った。「バンクーバーでは今、インディペンデント系の書店が小さな小さな(繰り返して)ブームなんです」
 面白くなってきた。しばらくその小さなブームの中に身を置いて、彼らの言葉を記録してみよう。

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💡SHOP DATA
The Paper Hound 
344 West Pender St.  Vancouver, B.C. 
604 428 1344        
https://paperhound.ca/about    

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