RPA導入に必要な「視点」と「起点」
人間が行っていたPC作業を自動化するRPAの導入が進められている。RPAを目先の問題解決の手段としてしか見ていないと、結果的に中長期の問題を抱えることになってしまう。ITをデジタル、DXと言葉を変えても変わらない現状を踏まえ、AIや他のITツール導入にも通ずることをお伝えしてみたい。
あらゆる業界が人手不足のなか、企業は生産性の向上と働き方改革と対応を急がされている。そうした流れからRPAに取り組む企業が増えることは首肯できる。ただ、その導入の仕方には問題が多い。
RPA導入でNGケースとなる発想は以下の通り。
①とりあえずRPA
②とにかくRPA
③何でもRPA
RPA導入でNGケースとなる行動は以下の通り。
①「とりあえずやっといて!」の現場任せ
②「じゃあ、それで!」のITベンダー、ITコンサル任せ
③「嫌だったら後で変えればいいや!」の成り行き任せ
これはクラウドサービスやAIを導入する場合においても同じだ。
「RPA」を「クラウド」や「AI」という言葉に置き換えることができる。
こうなってしまう理由は経営層のITに対する認識が昔のままであることが多い。ITをデジタル、DX(デジタル・トランスフォーメーション)と言い換えても認識が変わっていない現状が窺える。
今のITは昔に比べて安くなった。導入も簡単で手軽になった。だから気軽に試すことができる。これ自体は良いことだ。
しかしその結果、今のITの本質を理解せずにor自社の再定義、中長期的な経営課題、複層する目的と手段の整合性、これらの整理を十分にせずにITツールを導入してしまうケースがますます増えたように思う。
ITで産業構造が変わり「本業」が脅かされる時代に、このままでは中長期的な競争力を企業は失ってしまう懸念がある。
経営者、経営企画・事業企画部門に相当する人たちのなかには、まだITを「業務効率化」の手段としてしか見ていない人も多い(現在を「起点」とする思考)。
こうした現在を「起点」とする思考では、現在の業務をそのままRPAに置き換えるだけに終始してしまう。これは結局、業務効率化にはならない。
業務を棚卸して見える化し、要/不要を検討、不要業務を削減、部署間・拠点間の重複業務の一本化を図ったうえで、RPA(IT)と人間の特性を踏まえてどの業務をRPA化(IT化)するのか吟味する必要がある(下図参照)。
(出所:T&Iアソシエイツ)
RPA(AIを含む今のIT)は人間の「代役」ではなく、人間の「余力/潜在力」を産み出す/引き出すものと位置付けた方が良いと思う。
産み出された「余力」で自社は何がしたいのか?
それがなければ今、人手不足でRPAを導入しても、いずれ企業は余剰人員に苦しむことになるだろう。
中長期的な問題を減らすために、業務の効率化/高質化→事業の高度化→経営の高度化へといち早くステップアップする必要がある。
(出所:T&Iアソシエイツ)
このとき、未来を「起点」に考えること(バックキャスティング思考)が求められる。未来から現在に逆算する思考で取り組むということだ。
社会情勢も技術も事業環境はどんどん変わって行く。将来の大きな変化に備える必要がある。
しかし、IT企業(ITコンサル含む)は従来、クライアントから出された「お題」(主に「本業」を支える業務効率化)に応えてきたため、「お題」をつくる(事業の高度化/経営の高度化)ことではクライアントを支援することができない。
今のITは「本業」を脅かす誰かの手段にもなれば、新たな「本業」をつくる自社の手段にもなる。
新たな「本業」をつくるにはイノベーション創出につながる多様な「視点」が必要だ。
多様な「視点」を持ち、客観的に、俯瞰的にものを観て助言をくれる新しい支援者をITベンダやITコンサル以外に企業は用意する必要があるだろう。
※上記の図表(ppt加工)は筆者が代表を務めるT&Iアソシエイツの講演資料からの抜粋です。