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臀物語

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タイトルをしりとりで繋げる物語、です。 「しりものがたり」と読みます。 第1,第3,第5日曜日に更新予定です。 詳しくはプロフィールに固定してある「臀ペディア」をお読みください。
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2022年12月の記事一覧

ドーナッツ

「本当にお邪魔しちゃっていいの?」
「もちろんよ。楓が早く会わせろ早く会わせろってうるさくて。」
涼は笑いながら言った。
「そうなんだ。じゃあ、お言葉に甘えて。」
お昼休みが終わる頃、涼から、今日遊びに来ないかと誘われた陽乃は、突然の誘いだったためにはじめこそ渋ったが、せっかくの誘いなのでと乗ることにした。
「なんか持っていった方がいいかな?」
「え、いいよいいよ。手土産なんて。」
「でも急に行っ

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プライベート

打ち合わせと言えばあの喫茶店。それが二人の中での暗黙の了解、というか、もちろん実際に打ち合わせをするとなれば事前に約束はするわけだが、あの喫茶店で行うのが当たり前のことになっていた。
しかし今日は違う。珍しく出版社内での打ち合わせであった。
いくら人気作家の一人といえど、慣れない場所となればやはり緊張するもので、朱里のアドバイスで珍しく正装をした雨相は高層ビルを前に一度深く深呼吸をし、そしてゆっく

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寄付

夕方前の喫茶店。少し慌ただしかったランチタイムも終わり、店の中には落ち着きと静寂が戻ってきた。
いわゆる洒落た喫茶店と言えど、やはりランチタイムは書き入れ時。オシャレだからこそ、SNSで発信され、それを見てくる客も少なくない。
ここは最低限の料理しか振舞っていなかったが、それでも、それこそがオシャレだと、たくさんの人で連日賑わうのだった。
そんな喫茶店の一席に座る男が二人。この店の常連とても呼ぼう

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 長く熱い連取が終わりを告げた。「仕事も遊びも真剣に」というモットーをかかげているわけではないが、どんな日であっても練習で手を抜くことは決してない。
 外はすっかり寒い時期だというのに、長時間の練習をやり切った猛者たちの全身には滝のような汗が流れていた。
 清志が持っていたタオルで汗ばんだ顔を入念に拭いていると、誰かが近づいてくる気配を感じた。
 顔をあげればそこにいたのは角田であった。
「お疲れ

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