ドーナッツ

「本当にお邪魔しちゃっていいの?」
「もちろんよ。楓が早く会わせろ早く会わせろってうるさくて。」
涼は笑いながら言った。
「そうなんだ。じゃあ、お言葉に甘えて。」
お昼休みが終わる頃、涼から、今日遊びに来ないかと誘われた陽乃は、突然の誘いだったためにはじめこそ渋ったが、せっかくの誘いなのでと乗ることにした。
「なんか持っていった方がいいかな?」
「え、いいよいいよ。手土産なんて。」
「でも急に行っちゃったらさすがに……」
「大丈夫大丈夫。」
「そうかなあ。」
「うん。また遊びたいなと思ってたし、それにさっきも言ったけど楓がね。」
涼はやれやれと言った表情を浮かべた。
「じゃあとりあえず放課後に。」
「うん、お邪魔します。」

お昼ご飯の直後、5時間目はどうしても睡魔との戦いである。
授業を真面目に受けている陽乃であっても同じことで、何度かうつらうつらとしながらもこの後の楽しみを胸に乗り切るのだった。
一方の涼はと言うと、ぐっすり夢の中。これもまた仕方ないことである。
6時間目を終える鐘が鳴り響く。先生が教壇を後にすると涼が近寄ってきた。
「よし、行こっか。」
午後の授業をゆっくり寝て過ごした涼は元気ハツラツ。
「うん。」
「いやあ、ガッツリ寝ちゃった。」
「そうだね、見てたよー。」
「わあ、バレたか。」
「そりゃああんなに机に突っ伏してたら分かるよー。」
二人はそんな会話で笑い会うのだった。

「お邪魔します。」
「どうぞどうぞ。入って入って。」
玄関での音を聞き付け、誰かが走ってくるのが分かった。
「あ、陽ちゃん!」
そう言って駆けつけてきたのは、もちろん楓だった。
「楓ちゃん、久しぶり。」
「また来てくれたのね!」
「うん、また来ちゃった。」
「どうぞー。」
「こら、楓。」
そんな会話をしていると奥から風香がひょっこり顔を出した。
「あら、陽乃ちゃん。いらっしゃい。」
「あ、お邪魔します。またお邪魔しちゃってすいません。」
「いいのよ、全然。あとでお菓子持ってくからお部屋でゆっくりしてて。」
「ありがとうございます。」
「ほら、行こう陽乃。」
「うん。」
靴を揃え、二階に上がろうとする陽乃たち。その後ろを楓が着いてこようとする。
「楓。」
風香がゆっくりと呼ぶ。
「なあに、ママ?」
「宿題は終わったの?」
「それは……」
「まずは宿題から。そのあとで時間があったら遊んでもらいなさい。」
「はーい。」
楓は少し悲しそうな顔でリビングの方へと戻っていく。
「楓ちゃん。」
楓が振り向く。
「後で遊ぼうね。頑張れ!」
陽乃から励まされてよほど嬉しかったのか、楓はパーッと嬉しそうな表情を浮かべてリビングにスキップをしながら戻っていった。

何気ない話をしながら部屋で過ごしていると、ドアをノックする音が。
「はーい。」
「お菓子持ってきたわよ。」
扉を開けると、お盆を持った風香。
「今日駅前で久しぶりにドーナッツ買ってきたから食べて。」
「ありがとうございます。」
「ありがとー。」
すると、ひょっこりと楓が顔を出した。
「あ、楓ちゃん。宿題終わった?」
楓は誇らしげな表情を浮かべる。
「おお、すごいねー。」
「もし良かったら、相手してもらってもいい?」
「そんな、もちろんです。楓ちゃんおいで。」
楓は走って陽乃に飛びつくのだった。

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