送粉者(Deseo)
──私は
多くの人間を手玉に取ってきた。
全てが在り来りでそこら中に有り触れて見えた。
少し『魔法』を掛けてやると。
皆、目の色を変え近寄ってくる。
「何奴も此奴も全て同じだ」
「抱き締めてやろうか」と言わんばかりで差し出す岩のような手で撫でられる為に生まれてきた女どもに。呆れ興味も無さそうな納戸色の目で、視線を向け薄笑を浮かべると、白い人生を諦め悟られぬように屍のように、生きる灰色の長髪に彼女らは口付けを落とす。
暗闇の中で歪な輝きを魅せる光沢の黒いタキシードを着た私は、女どもを悦ばし自らの貪欲をも満たす。
言わば世界の愛玩具と言った所か。
それとも世界の摂理と言えようか。
そんな世界に抵抗しながらそれが自分にはお似合いだと、吐き捨てるように人形共に玩具は甘い蜜を垂れ流す。
甘い蜜を求める蝶は
花が与える蜜を飲む
花はそれでも根から吸い取り光を受けて
消費と見せかけ永遠を搾取する
じっと動かず味を極めて
飢えた蝶の拠り所となる
まんまと引っかかった哀れな申し子は。
受粉を行う送粉者と変わらない。
虚像はすぐに手に入る。
鎖で首を繋ぐような、強い虚像ならば。
ただ、虚像を棄てる覚悟でないと。
実像は手に入らない。
花の命に冷凍睡眠を促せば。
永遠の耽美が手に入る。
しかし、その道を選ばないだけで──
「送粉者」
この3文字を女の存在に注ぎ
幾度壊しただろうか
解説
・普段は堂々と構え、いざとなったら手を差し伸べる人は男女問わずモテるるしい
・己を磨いて待ち続ける姿勢が魅力に繋がる
・本命に対しては蝶が冷凍保存された花の蜜を吸えないよう相手を汚せぬ感情を抱く人もいる
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