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幸せの欠片。

「おばあちゃんの将来の夢って何?」と幼かった私は祖母に尋ねた。「ハッハッハッハッ。今がおばあちゃんの将来や」祖母は笑いながら答えた。何だか複雑な気持ちになった。「私の将来は何か大きな事にチャレンジする」そんな想いを胸にしまった。自分が大人になるにつれ、何て無神経な質問をしてしまったのだろう…と後悔した。

2006年ニューヨークに引っ越し、仕事は順調に行き、友達も沢山できた。初めての2年くらいは寝る間を惜しんでパーティーに出かけた。週末は友人達とホームパーティーをする。そんな刺激的な日々を過ごしていた。

年末ギリギリまで仕事をして、翌朝のフライトで日本に帰った。実家で過ごす時間の流れはまるで違った。ご飯を作くる祖母の姿を見ながら、「私はニューヨークで夢を追いかけているのに、田舎で静かに暮らすお婆ちゃんは何だか可哀想」と後ろめたい気持ちを忍ばせ手伝いをした。

ある日、祖母と夕飯の買い物に行った。子供の頃に自転車通学で使っていた旧道は草木が生い茂り、時間がタイムスリップしたかのようだった。その道を祖母と一緒に歩いた。二人でこの道を歩いたのは何年ぶりだろう。自転車の補助輪を外す練習をしてもらった時以来だろうか。

祖母はゆっくり歩く足を何度も止めては「今年もキレイに咲いたなー」と満面の笑みで木々の間に咲く花を見つめる。そんな姿を見て私の胸はギュッとした。おばあちゃんの笑顔が本当にキレイで幸せそうだった。幸せの形は人それぞれなんだ。どんなささやかな事で心がトキめいたら幸せを感じられるんだ。と胸がいっぱいになった。

それ以来、自信を持って田舎の出身だと伝える。「自然が豊かな素敵な町です。」っと付け加える。その度に、あの時の祖母の笑顔が浮かんでくる。

コロナ以降、日本には約3年帰れていない。近々、祖母が老人ホームに通い始める事になった。出来ることならば今年の春には実家に帰り、また祖母と散歩をしたい。

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