カバ

カレーを蔑む人 13

2年前ごろの寒い時期、

奈々から「私とカオリが一緒に写っている写真を、FBで見た、知り合いから、カオリの事を紹介して欲しいって言われて。」 

「彼、銀行マンで 駐在員で、会ってみない? 彼とは仕事で知り合って、そこまで詳しく彼の事知らないんだけど。彼が、カオリさえ良ければって言うから。どうかな?」


私は、友達から、男性を紹介されるのが、とても苦手だ。しかも特にブラインドデート(知らない人と1対1)。自分でも、なぜかわからないけど、無性に苦手なのだ、紹介されると言う事は、本当はとても喜ばしい事で感謝すべき事あって、だいたいの事にはこだわらない仏の心を目指す私としては、その部分だけ顕著に欠落していて、病気だと思っている。私、ADHDだからかな?だから、未だに独身なのも充分に承知している。

自然と友達として紹介された時は、大丈夫だけど、恋人になりませんかの紹介は、友達に迷惑をかけそうだし、意識しすぎてフェイクの自分しか出せない、無理矢理明るくしようとして、大量にお酒を飲み、酔っぱらい、夜営(夜の営み)だけして、私から逃げるという可能性もあり得る。

しかも、日本の大銀行の方々なんて、人生で1度もデートした事がない、 高学歴とか言われれば言われるほど、ただただビビる。私と合わなそうな事この上ない、

少し昔のバブル時代の3高(高学歴、高収入、高身長)を望む女性達は、何を思って、それを、3高を望んでいたのだろう。たしかに、その昔、高学歴=高収入だからなのだろうが。時代は変わったのだ、とにかく、高学歴の方々となに話したらいいのか、わからなすぎる。

エリートで思い出す。大学時代の頃、都内の大学に通っていた私は、学業はもちろん、バイト、遊びにも勤しんでいた、けれど、極力、両親の前では、遊んでいる感じを出さず、いつものカオリを演じていた。

友人と飲み明かした次の朝も、始発で家にかえり、両親と供に朝食をとり、ひそかに、飲酒後の体に染み入る、あの炭水化物、炊きたての白米、そして程よい塩分のシジミのみそ汁と焼き鮭のブレックファーストを大いに堪能していた。(お母さんありがとう)

父が、「明日、軽い登山に行くぞ、」と言えば、前夜にクラブで遊んでいようが始発電車で眠り、Vivian Westwoodのロッキンホースを脱ぎ捨て、トレッキングシューズに履き替え、「おはよー」と幼い弟と父のハイキングに付き合い、山頂ですがすがしく、おにぎりとポットに入った熱いほうじ茶を飲み、「やっぱり、山登りって最高だね!」なんて言っていた。(若くて、体力あったー) 

そんな父がある日、なんの前触れも無く、知り合いの病院で働く若いインターンのお医者さんを2人を家に招待したのだ。(彼らが、もちろん悪いわけではない。)帰宅すると、2人の青年が応接間にいた、2人は揃いも揃って同じ眼鏡をかけ、もやし風にひょろ長く。ものすごく似ていた。見た目だけでなく、行動も似ていて、眼鏡をかけたもやしが、風に揺られて同じ方向へそよいでいる様に見えた。父は、私と妹へ、紹介したかったのだろう。私は2階の自分の部屋へすかさず逃げた。(その頃、ファッション系の大学に通っていた私は“個性的”である事、そして“アヴァンギャルド”さを圧倒的に崇拝していて、2本のもやしに興味を抱く事ができなかった、そして、頭の良い眼鏡男性は好きだが、自分の脳のレベルが合わない事への恐れと、そもそも私の事タイプじゃないだろうし。and 父からの紹介男性は避けたかったのだろう)。

少し考えて、私は「うーん、1回ぐらいなら。いいか、奈々にはお世話になっているし。」と、自分の病気を克服するために、オファーを受ける事にした。


こういう場合、私のデート時のファッションポリシーTPOM(Time 時間, Place 場所, Occasion 場合, そしてMan男)から推測する限り、日本の女子アナの様な服装がいいのだろう思われたので、ネットで女子アナのファッションの画像を見た。どれも、あまり持ち合わせてはいないし、女子アナ服をあまり買いたくない。幸い、私は髪が長いので、シンプルな膝丈ワンピースとエレガントな小振りのジュエリー、あまり高くないヒール、シャネルのマトラッセでも合わせておけば、その場はやり過ごせるだろうと踏んだ。

彼とは、MOMAの横のThe Modernでディナーの約束となった。うー、素敵なレストラン!。さすが某大銀行、でも、ますます緊張する。

その日は、7時ぐらいに待ち合わせ。レストランに着くと、彼は、バーの所で、スツールに座って待っていた。

まあ、さわやかで良さそうな人だな、日本テレビの藤井アナウンサーに似ている感じ。やさしそう。身長は、170センチぐらい、向こうも緊張しているのか、瞬きが多い。

私「こんにちは。」

彼「こんにちは、はじめまして。清水です。」

彼が勤めるのは某有名銀行で、東大や、京大の人ぐらいしか社内にいないらしい(うわ、こちらは逆に、東大、京大、なんて周りにいた事も無い。ハイ、違う惑星の人。)

そして、彼以外の同僚達は、みな既婚者らしく。

彼は「だから僕、会社では、ゲイと思われてしまっているんだ。はは」と言った。

私は、何を話していいのかわからず、「ゲイって、母親のお腹の中にいる時に決まるので、後天的なものでは無いらしいですよ、それを考慮すると、男、女、ゲイの人の3つの性別にしてあげるべきですよね。トイレとか。」と答えた。

ウェイターが ロブスターソーセージのお皿にクリーミーなオレンジ色のロブスタービスクを注いでくれて。

私の話しも少しした、

キャラメルパルフェの上に、夕方の空色のシフォンスカーフの様なキャラメルトゥイールが架かった、マンゴラビオリとタピオカとシャーベットのデザートを味わっている時、

清水さんが、「今度、セントラルパークの近くにある自宅で、食事会を開くから、奈々さんも誘っていらっしゃい」と誘ってくれた。


次の週、セントラルパークの少し西側にある、彼の住むビルディンングを奈々と一緒に訪ねた。 白を基調とした広々としたエントランスにはドアマン、ロビーにはコンシェルジュがいる。それにしても凄い。

高層階の彼の部屋のドアを開けると、独身には広すぎる3LDKの部屋が見えてきた、ウォークインクローゼットは私が一人住める広さだ(ただで住ませて欲しい。)玄関にはゴルフセットが2組もある。 高級革の濃い茶色のソファ、広いアイランドキッチン。

私が、「すごい素敵なお部屋ですね〜」と言うと

清水さんは「あぁ、うん、会社が払ってくれているから。」と答えた。

食事会に何か持って来てとお願いされていたので、早速、紙袋からカレーと唐揚げを出した、すると、

突然、清水さんの表情が曇り、「えっ、僕、ワインパーティーって言ったよね? カレーの臭いがキツすぎて、ワインの香りを消してしまうんだけど。怒」顔が赤くなり、こめかみの血管が浮き出て。怒りをあらわにし始めた。

「えっ、食事会って聞いてたから。一品なにか作って来てって、、、」カレーでこんなに怒られたの初めて。え、今すぐ帰りたい。日本人の会だし、せっかくと思って作ったカレーを、彼は汚物を見る様な蔑んだ目で見ている。

泣きそうになっている私に、追い打ちをかけて

「しかも唐揚げとかワインに合わないし。ったく、」

「ごめんなさい、ワインパーティーって知らなくて。」

そして、私が、この、“ごめんなさい”を言ってしまった、事が、彼のドS心に火をつけたのか。

清水さんは私に、「そのナプキンそこの位置じゃない!」と、オラオラ感をだし「早くそれ取って!」と命令しはじめた。

周りの人が、カレーもいいじゃない、と言ってくれて、その場は落ち着いたが

その後も、清水さんは、私の事を役立たずの嫁扱いしてきた。
きっと周りの人々は、私が彼の事が大好きで、一生懸命尽くしている女と思ったことだろう。

その後、カレー事変という苦難を乗り越え、まったくなごやかな雰囲気では無く、そのワインパーティーがスタートした、

自己紹介が始まり、

男性は、清水さんの後輩の鈴木君(既婚者)、バツイチの外資証券マンの林さん、外資銀行マンの田中さん(既婚者)。

女性は、清水さんの知り合いの、商社の駐在員の緑さんと裕子さん、そして 私と奈々。(全員独身)。

今日の会の前に、清水さんから「合コンじゃないよ!食事会だよ、」と何度も言われてはいたが、言葉通り、本当にこのパーティーは清水さんの為の合コンであって、それ以外の私達にとっては食事会の様だ。

後輩の鈴木君は、「いやー、本当に清水さんと一緒に飲めるなんて光栄です」

林さんは、「清水さんは、将来、頭取、間違い無しですよ〜」

田中さんは「清水さんって、本当に凄い方なんですよ〜」と一様に清水さんを褒めたたえていて。

まだ状況を飲み込む事の出来ていない、女性達の目は、漆黒のナノレベルに小さい点になった。

この会は、独身の清水さんの為に独身女性を集め。清水さんを褒めたたえる既婚者の知人で脇をかため。清水さんが思う存分に女性達の前でカッコいい所を見せる為の舞台だった。

清水さんが奥からとっておきの最高級ワインを出して来た。 これはブルゴーニュ産の赤で、、、熟成、まろやかさ、カシスとすみれの香り、フルボディ、芳醇な、、blah blah blah(などなど)、のウンチク大会が始まった、

しばらくして、

ジョン コルトレーンの『In a sentimental mood』が流れて、酔って顔が火照り冷気が欲しくなったので、水を取りに行く振りをして窓の方に歩き、冷たい窓ガラスを少しさわって、マンハッタンの夜景を眺めながら、一息ついた。

みんなが飲んでいる席に戻り、清水さんの方を見ると、彼のワイングラスを持つ手の小指は、遠く天空を指差していた、あんなにピンと張った小指を見たのは初めてだ、コントだ。

ガッシャーン!

キッチン棚からグラスを出そうとた奈々が、バカラのグラスを3つくらい落として、割ってしまった。「あぁーーー。」清水さんの怒りは、さっき、おのれの小指が指していた天空に達した。

奈々、「ごめんなさーい!」

周りの男性達も、物は壊れるものだし仕方ないよ!と言ってくれたけれど。

清水さんの顔は、ひきつりを押さえられない。「しょうがないから、こっちのグラス使って!」と他のグラスをテーブルの上に雑に置いた。

I guess it's just not our day Today. huh...(どうやら、今日は、みんなツイて無い日みたいね...)

清水さんの、3時間の最高級レッドワインの説明会、そして、彼の後輩や友人達の清水さんへの謎のヨイショ後援会に、さすがに疲れてきた。

窓が開いていない部屋と、酔った人々のひといきれ、自慢とみんなのヨイショ、私の人生にはどうでもいい赤ワインのウンチクで、吐き気がしてきた。

すると、駐在員の女性の緑さんが 突然すっくと立ちはだかり

「てめーさっきから、聞いてれば、偉そーなんだよ!私かえるわーー!」と言って、ここからの脱出のチャンスを作ってくれた。(よっしゃ!)

私達もここぞとばかりに、「私達もこれで、、今日はごちそうさまでした、ご招待ありがとうございました。」と彼の部屋を出た。

エレベーターに乗り込むと、かなり泥酔した、緑さんがうつむいてしゃがみ込んだ、彼女はエレベーターのドアが開くと、小走りでコンシェルジュがいるフロントを通過しエントランスを出た瞬間、耐えきれなくなてって、木の植え込み付近で吐いた。 

清水さんが 「やめてーーー!そこは無理ーーー!!!」と叫んでる声が上から聞こえてくる。

緑さんは、吐いたら、すっきりして、「あーすっきりした、もう大丈夫、ゴメンね!どこか、口直しに、どこかに飲みに行こう!」と言ったので。

私は、特に緑さんが口直しした方がいいと思ったので、「そうですね、どこかに行きましょう!」と笑顔で答えた。

その後、緑さん、私、奈々、裕子さんとミッドタウンの居酒屋で、気楽な、ウンチクの無いウーロンハイを飲んだ。

2か月くらい経って、清水さんから、何も無かったかのように連絡がきたが、返信はしなかった、


*物語中に掲載されたレストラン

The Modern ニューヨーク近代美術館 9 W 53rd St, New York, NY 10019

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