見出し画像

#9 “大企業・日本型雇用”を手放した、ベテラン経営者の人生

NUTSの代表であるヌマオは、会社員として働くことが今より安定していた90年代に独立してオンラインショップを立ち上げました。当時、何を考えて独立を決めたのでしょうか。

<物語のある雑貨店NUTS>は、東京・青山を拠点としたセレクトECです。このnoteの連載では、NUTSの現在に至るまでのお話を、8回にわたって書き連ねてきました。ヌマオのインタビューの内容が濃すぎて、気づけば全部で2万字超…(笑)もはや一冊の本が作れそうなくらいですが、もう少しお付き合い願います。

そもそもこの連載を始めたのは、20代の編集担当・カタヒラが、10年以上勤めた大企業を辞めて会社を立ち上げたヌマオが、どのように今日までを歩んできたのか知りたいと思ったことが発端。

今回はいよいよ経営者としてのヌマオの生き方の部分に迫ります。読んだ人が前向きになれるような、そんな記事になれば嬉しいです。

<話し手:NUTS代表 ヌマオ/聞き手&考察:note編集担当 カタヒラ>

○こんな人におすすめ!
・いつか独立してみたい人
・働き方に迷う人
・他人の考えからインプットを得たい人

挑戦してきた経営者を“突き動かしてきた考え方”

ヌマオさんは90年代後期、38歳というご年齢で大手時計メーカーのSEIKOを辞めて独立をしました。30代後半といえば、会社でもそこそこのポジションが見えてくる頃。それに、90年代ならまだ“新卒一括採用・年功序列・終身雇用”の信用も厚かったはず。どうしてヌマオさんは、独立という大きな決断ができたのでしょうか。

「僕が会社を辞めた頃は、“退職=転職”という意味でした。起業なんてするな、という空気感があった。出身である慶應大学の知人にも0から起業した人なんて、ほとんどいないね。お父さんの会社を継いだ人なら慶應には沢山いるけど…(笑)

僕は性格上、あんまり先のことを考えないんです。独立を決めたときも、失敗することなんて考えてなかった。

まだ起きていない失敗ばかり考えてたら、何も実行できないもん。だから先にお話ししたリチャード・ブランソン(詳しくはこちらの記事)の話のように、僕にとっても人生は成功か失敗かではなく、“楽しいか楽しくないか”なんだよね。

反対に、先のことばかり考える人は僕みたいに会社を辞めて起業することはできないと思う。そういう人は、『ダメだった時はどうしよう』ってあれこれ考えていくうちに、辞めるのを止めようってなっちゃうから。

でも、悶々と緻密な計画を練ったところで、この先どうなるか分かりはしないでしょ。

これから何が起こるか、なんて考えるのは無駄だと思う。生きていると変化ばかりなんだから。

僕たち人間も、いつ死ぬかなんてわからないんだよ。若くたって事故や災害に遭って、明日死んでしまうかもしれないし。

“いつかやろう”なんて言うのは、まあ絶対やれないよね。

社会人になって結婚して子供がいたり、例えば家のローンとか背負うものがあると、一歩踏み出せなくなることも多い。だから若くて、身軽な時こそ挑戦すべきだと思うよ。」

——人生において、ただ一つ決まっていることは何?

以前、とあるベテランのフリーランスの方から、こんな質問を投げかけられたことがあります。聞いた瞬間にピンとくる人もいるかもしれませんが、私にはその問いが難題に思えてすぐに答えを出せませんでした。正解はシンプル。

——それは、“死ぬこと” です。

この問いが表すのはヌマオさんのお話と同じように、人はいつかは死ぬもので、どうせ死ぬのだからやりたいことはやった方がいいし、楽しんで生きた方がいいということ。

なるほど、たしかにそうだな、と私としてはまあまあ大きな衝撃を受けました。(25年間、今まで考えもしなかったのは、周囲の人に支えられて生かされてきたからなのかもしらない。)

それからというもの、この考え方は私にとってのお守りに。何かに悩んで押しつぶされそうなとき、“いつかはみんな死ぬんだ” と心の中で呟くと、なんでもできるような気分になる。

読んでくださる皆さんもこの考え方を心に据えておくのは、けっこうおすすめです。

日本人はしがみつく

「40〜60代で、会社に所属してて周りから見ると成功してるような人は、かえって、がんじがらめになってることも多い。僕はそれで楽しいのかなって思うけど。

たまに、そんな立場でいることはもう嫌だといって、次の人にポジションを譲ることを決めあっさり辞める人もいる。まあ、そこまでいくと割とお金があるからね。アメリカでは“アーリーリタイア”と言って、早い人だと50歳くらいに辞めてしまうの。

でもまあ、日本人ってしがみつくよね(笑)

もちろん会社での仕事が楽しければ、続けてもいいよね。だけど楽しくないのに、しがみつこうとするのはどうなんだろう。それこそ何歳まで生きられるかわからないし、もし80歳まで生きるのならそれなりに楽しみがないと(笑)

アーリーリタイアも見えてくる50代以降の日本のサラリーマンは、会社を辞めたらやることが見つけられないっていうことも多い。だからなんとなく続ける人が多いと思うんだよね。

最近よく不思議に思うのは、リタイアしてから下の世代の手助けをする人が日本には少ないこと。例えば、新しいビジネスを資金面で支援したりね。

欧米の方は、積極的にそういった若い芽に力を貸すんだよね。自分が頑張って稼いできた分を下の世代に還元するというか。そういった風潮はやっぱり歴史なのかな、明らかな違いがあるよね。

僕がいずれやってみたいのは、犬が好きだから、例えば保護犬施設とか盲導犬団体のようなところの支援かな。ブリーダーやペットショップの問題も深刻だよね。生まれてまだ1ヶ月程度の仔犬を、人がわんさか来るお店に出してしまうのは本当によくない。

人間と一緒で生まれたての赤ちゃんは、静かな所で親と一緒に過ごすのが1番いいんだよね。

日本型雇用が崩れたと言われて久しい。働き方が問われ、いわゆるミドル層と呼ばれる40代後半〜50代のサラリーマンの所在に様々な声が飛び交っています。

一方私たちの世代は、ミレニアルとかZ世代などと言われるみたいですが、学生を卒業していざ社会人になろうというとき、多くの大人から『会社というものは、もういつ失くなるかわからない場所になった。会社に頼っていてはいけない。』といったようなことを刷り込まれてきたように思うんです。

そうはいっても教育や社会がそうさせるのか、社会人1年目あたりは“入社=ゴール”という感覚は抜けきらず、会社は労働者を守ってくれるものだと思っていました。

でも、このコロナ禍で色んなものの転換が起きたのではないでしょうか。噂よれば、長年かけて現実味を帯びてくるはずだった問題が、コロナ禍によりここ1、2年にぎゅっと凝縮されたといいます。会社は然り、心置きなく身を委ねられる場所があるのかさえもわからない世の中で、私のような若手も状況をだんだんと理解してきました。というか、いまや若手の方がこの社会からのメッセージを敏感に受け取っているのかもしれません。

そんないまの社会を目前にして、将来に希望が持てないのが正直なところ。でも、ヌマオさんの話のように、先のことばかり考えて動きが止まってしまうのはよろしくありません。

うっすらでもいいから未来を思い浮かべて、一歩一歩描いた社会や自分像に向かってできることをやっていければ良い。今の積み重ねが未来をつくるんだと、そう信じていきたいです。


(取材 編集・カタヒラ)

【過去の連載記事】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?