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ノスタルジーは思い出の中『わたしたちが孤児だったころ』

わたしたちが孤児だったころ

いろんな時代、いろんな場所をあつかっているカズオ・イシグロですが、500ページ越えの長編『わたしたちが孤児だったころ』は1930年代のロンドンと上海が舞台です。

主人公のクリストファーはロンドンで探偵として名声を得ています。探偵といえども浮気調査や人探しなどではなく、拡大鏡(いわゆる虫眼鏡みたいな)を手に持ち殺人事件を解決したりするシャーロック・ホームズみたいなやつです。このあたりフィクションっぽさが混ざっていて面白いですよね。社交界でもチヤホヤされていて華々しい活躍です。

そんなクリストファーですが、影があるというか、少年時代に両親と離ればなれになっている過去があります。

この小説、大人としての生活の合間に、少年時代の回想がちょいちょい入り、情報が小だしに公開されていくのですが、読み始めは面白かったものの、一読者としてだんだんまどろっこしく感じてきます。物語がなかなか前進しません。

上海の思い出

ざっくり説明すると、クリストファーは少年時代、上海に住んでいます。父親は中国に阿片を売るイギリスの貿易会社で働いているのですが、母親はそのことを恥じていて、しょっちゅう父親を責めています。
経済的には裕福なのですが、家庭環境は不穏なところがあります。で、そこから父親が失踪し、しばらく経って母親も姿を消します。
そんなわけでクリストファーはロンドンの伯母にひきとられるわけですが、そこでの思い出はほとんど語られません。

終盤では怒濤の展開

小説の半分くらいのところで、やっと主人公は上海にもどってくるわけですよ。父母の失踪事件を解決するために。そこからの展開もわりとスローリーなのですが、400ページを過ぎたあたりで怒濤の展開でした。先が気になりすぎて一気に読んでしまいましたよ。

事件は驚きの結末をむかえるのですが、ふだんエンタメ小説ばかり読んでいる方からは「さんざん引っ張っておいて、そんなオチかい!」と本を壁に叩きつけてしまいそうな結末です。ですが、ぼくは文学が好きなので、時代のうねりや人生の残酷さ、皮肉さを感じさせ、柏手を打ちたいほどの結末でした。

他にオススメはたくさんあるが

カズオ・イシグロを初めて読むという方には綾瀬はるか主演で連続ドラマにもなった『わたしを離さないで』や渡辺謙主演でSPドラマになった『浮世の画家』など、ほかにオススメがあります。
カズオ未経験者には『わたしたちが孤児だったころ』は少しオススメしにくい。

ですがカズオ・イシグロを数冊読んでいるような人には、迷わず読んでほしいです。


#読書の秋2021

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