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英語で落語◎噺家林家染太さんに聞く!(その3)...伝統的庶民文化の伝道師|英語にかかわる仕事をする人々(2008年掲載インタビュー記事)


はじめに


はじめに
様々な世代の人々が様々な場で、生涯を通して何らかの形で英語にかか わって仕事をしています。 英語は人それぞれ、その場その場で違います。このシリーズでは、英語 を使って活躍する方にお話を 聞き、その人の生活にどう英語が根付いているかを皆さんにご紹介し、 英語の魅力、生涯にわたる楽しさをお伝えしていきます。 英語はこんなに楽しいもの、英語は一生つきあえるもの。ぜひ英語を好 きになってください・・・For Lifelong English 生涯学習としての英語:英語にかかわる仕事をする人々|TOEFLメールマガジン

以上の趣旨で掲載した「 英語で落語!?噺家 林家染太さんに聞く! 」(その3)です。 (その1)(その2)に続き、落語を英語で発信す るというユニークな噺家・林家染 太さんのインタビューをお届けし ています。 最終回となる今回は、日本人が持 つユーモアの 文化や、落語と健康、英語落語で 描く今後の夢などについてお話を 伺いました。以下、2008年掲載時そのままお届けします。



日本人はユーモアが乏しい!?

鈴 木: 今あれだけ吉本興業などお笑いが若者カルチャーの中心になって いるのに、漫画がこれだけ世界中に広まっているのに、日本人は ユーモアが足りない、と思われている。

林 家: そうですね。国民性として引っ込み思案というか、あまり主張し ないと言われますね。 大阪に来たら正反対ですけど(笑)。海外へ行って落語をする と、多くの外国の方は「日本人がパフォーマンスやりますよ」と いうと、「え?何すんねん何すんねん」とすごく興味があるみた いです。特に落語なんか初めて聞く方ばっかりで、拍手喝さいで おもろかったってありがたいことを言うていただけるんです。 「今まで日本に対して、ビジネスに関してはプロだけど、笑いに 関しては乏しい民族だと思っていたのに、江戸時代、400年前か らずっとこんな面白い文化が あるなんて聞いて、今日はすごくびっくりした、楽しかった」と 驚かれたりします。

鈴 木: これからは、まず日本にユーモアがある、ということを発信して いかなければなりませんね。 まず笑ってもらわなくちゃ。そして日本語がわかるともっと面白 いぞと、思わせる。英語落語で日本のユーモアの世界を伝えると は、すばらしいことです。最後にオチをつけるこの日本の 機智はイギリス並だと思うんです。こう見えても僕は、アメリカ のコメディアンが大好きだったんで す。昭和30年代は落語、漫才が好き で、ラジオでずっと聞いていたか ら、落語とおつなユーモアをアメリ カのコメディ聞いた時に感じたんで す。ユーモアはどのカルチャーにも なくてはならない根本的なものです ね。僕は、アメリカの友達を笑わせるのが大好きです。英語で笑 わせる日本人は少ないですよね。僕もその仲間に入れてくださ い。

林家:(笑い)

鈴 木: 英語では古くからパニング(Punning: だじゃれ)があります。 たとえばシェークスピアの 『ヴェニスの商人』でシャイロックが靴底でナイフを磨くのを見 て、「お前はsole(靴底)じゃなくてsoul(魂)を磨いたらどう だ」なんていうくだりがあります。昔はこれがウケたんですよ。 シェークスピアは、オチをつけるのが上手かったようです。シェ ークスピアの芝居には道化が なくてはなりません、punsを次々と飛ばして笑いをとりますが、 それが真理をつくのですよ。

林家: そういえば、「アイスクリーム」という英語小噺があるんですけ ど・・・
A: Hello.
B: Oh, you! Please come in. Have a seat.
A: Thank you. I am very hungry.
B:  You are hungry? 
A: Yes, I am very hungry. And I love ice cream.
B: What did you say?
A:  I love ice cream, I said.
B: I’m sorry .I don’t have ice cream.
A:  No ice cream? But I love ice cream. Ice cream loves me. We love each other, please.”
B: O.K. You love ice cream, right?
A:  Yes, I do love ice cream.
B: Come close. Come closer.  ”WAAAA…!”
A: Wow! are you trying to kill me?
B: Since you said,  "You love I  scream." So I screamed! What's wrong with that!

鈴 木: そう、まさにそれです。昔から歌にあります。I scream, you scream, everybody screams for ice cream. アイスクリーム 屋さんの歌で、一種のpunです。ここではscream for は 「叫び求める」ですが、染太さんはscreamで「キャット叫ぶ」と したところが凄い。

落語で笑って健康に

鈴 木: 言葉だけでなく、落語を見ていると、間があったり、表情があっ たり、それが何とも面白い。 たとえば、蕎麦をすするとか。

林 家: こうですか?(実演)

鈴 木: それです。あれで皆さん笑うでしょう?

林 家: そうですね。一緒にやってもらったりします。 「これは日本では 悪い作法ではないんですよ」と 教えながら。 使うのは、張り扇 (はりせん)と小拍子、手ぬぐいだけですが、字を書いている ところ、盆栽を切っているところ、さまざま表現できるんです。 お客さんにも喜んでもらえますしね。

鈴 木: 『間』はどうですか。ニューヨークと大阪では、ウケ方が変わり ますか?

林 家: いいえ、それがおもろいところで、変わらないんです。ボケ、ツ ッコミ、笑いという、この方程式は海外でも通用するな、と思い ましたね。英語落語するときは、 アクションの多いものを、 なるべく選んでやるようにしています。

鈴 木: 落語が好きな人には健康な人が多いと聞きます。いつも笑ってい るから。

林 家: そうですね。以前、少し体の具合の悪い方が、落語漫才を見る前 と後で採血して血の流れを 見たら、見た後の方が血の流れがさらさらだったと聞いたことが あります。

鈴 木: それは実際に、脳神経科の先生が研究されているようです。とて もよいリハビリです。 死亡率が低く、延命率が高くなってくる。心から笑って健康にも いい。言うことなし!ですね。

林 家: そのとおりです。

鈴 木: 今高齢化で、お年寄りが塞ぎこんじゃっていたりしますけど、お 年寄りの中には 英語のできる人もたくさんいるから、どんどん聞きに来て欲しい ですね。

林 家: ええ。よくお越しになりますよ、英語落語会の方にも。皆さん伝 統のある落語を英語で聞いて 笑えることが、すごく心地いいんですよね。僕も含め、あまり英 語ができない人でも、英語で 笑ってみたい、とい う人が増えたら面白いと思います。

今後の夢

鈴 木: これから英語落語のお仲間とどうなされていきたいですか? 林 家: まだまだ修行中ですから、どんどん芸を磨きつつ、世界中いろん な所へ行ってたくさんの人を笑わせたいですね。まだカナダとア メリカしか行ったことがないので、ヨーロッパ、アジアなども行 ってみたいです。英語落語もまだ発展途上ですので、ライフワー クとしてずっとやっていきたいです。

鈴 木: 林家さんのような、若い人で志望する人も多くなるでしょうね。

林 家: そうであれば嬉しいですね。 鈴 木: お弟子さんに日本語の落語を教えるのもいいですが、日本の落語 のスタイルの新作落語で コメディを流行らせるのは難しいですかね?これから伝統を作っ ていく意味でも。

林 家: 面白いと思います。発展性のあるいい話ですね。

鈴 木: 今、染太さんのお仲間の外国の方で落語を教えている人が、アメ リカの面白い小噺を落語調で日本人に話してくれたら、みんなウ ケるでしょうね。世界落語大会みたいな。

林 家: ワールドカップみたいなの、やりたいですね!夢ですね。ドイツ 人の細かな芸がうまいなとか、あそこのロシア人の人情話が凄い とか。

鈴 木: 林家さんもTOEFLテスト受けて、ぜひこれから英語落語を極めて いただきたいですね。 これを機に、僕も日本の重要な伝統文化、上方落語を発信するお 手伝いがしたいです。

林 家: 大阪から世界へ。夢はもうカーネギーホールで、どでかく。

鈴 木: アポロシアターで、津軽三味線なんか弾きながらやったら、みん な大喜びですよ。

林 家: ああ、やりたいですねぇ!

ここで染太さんの小噺


林家: 以前大阪で電車に乗ってたら、おっちゃんとおばちゃんが座って て、おばちゃんがちょっと おなか痛かったらしく、プップッとおならしはったんです。それがすご い車内に響いて。 そしたらそのおばちゃん、旦那さんに向かって「あんた、おなか痛い の?」と旦那のせいにしたんですよ! そしたらそのおっちゃんが、「ほんなら何か い、わしが腹痛かったらお前屁こくんかい」 言うて。

鈴木: そりゃ、英語で発信しなければ!万国共通の 笑いですね。 ネタだらけじゃないですか。

林家:大阪はユーモアの土地ですね。前にテレビのレポーター業で、ジ ャンジャン横丁にある 串かつ屋さんに行ったら、看板に「一串どれでも百円」と書いてあるん ですよ。 安いなー思うて「一串どれでも百円ですか?」「どれも百円やで」とい うわけで、一番高そうな大きな 車海老を「それ下さい」「あいよ」。そしたら車海老に串が5本刺さって いるんです。5本刺さってて5百円! こんなんやったら普通詐欺やと思うけど、大阪は「おもろい、おもろ い」て。

鈴木:(笑い)

鈴木の一口コメント

日本古来の落語は本当に重要な無形文化財です。アメリカのリチャー ド・プライヤーという有名なコメディアンは、彼が若かりし頃よく通っ たアフリカ系アメリカ人の小さなスナック・バーに通う人たちの会話を そのまま再現しました。それが面白いのです。人間模様が良く分かりま す。落語にも江戸時代の庶民のたわいない日常生活をそのまま描いて笑 わせるのがありますね。 染太さんと実際に会い、見て聞いて話すとたわいの無い話なのについ笑 ってしまいます。ラスベガスで 英語落語のショーも夢ではなさそうです。 


後記:笑いの伝道師(2024年6月1日)

現在インバウンドで外国から大勢の観光客が来ています。東京浅草、京都、そして大阪は大変な人気です。2008年より筆者は立命館大学に招かれ2014年までの6年を関西で過ごし、関西は日本の伝統文化はいうに及ばず外国の伝統文化も大事にする処だなという印象を強く持ちました。筆者の研究室にて林家染太師匠と話した時間は同席したTOEFL事業部根本斉氏とともに終始大爆笑。日本語でも英語でも自由に師匠独自の笑いの世界に聞くものを誘うあの天賦の才、大阪の一角で外国人観光客に向けて上方古典落語を披露されたらみな虜になること疑い無しです。英語に加え、他の言語でも少し分かれば笑いに変えられる特異の才能の持ち主、まさに、笑いの伝道師です。教育実習で言った中学校の国語の授業で英語で生徒を笑いに包んだ話、印象的です。英語でもない国語でもない言語の枠を超えた「落語」という多言語の世界。ところでなぜ「落語」というんでしょうか?聞くのを忘れました。師匠の話にはいつも「オチ」があったのでそこからきたのかな?今はやりのChatGPTでは無理です。師匠だけが創作できる意識の「間」に咲かせる多感覚の「華」ですから。「落語」は永遠です。師匠のご健勝を祈りつつ。


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