見出し画像

短編小説 |校庭のたんぽぽ5/6

第五章:予期せぬ飛躍

朝日が病室の窓から差し込み、美咲の目を覚ました。リハビリ生活が始まって3ヶ月が経過していた。この日、美咲は特別な期待を胸に秘めていた。定期的な機能評価の日だったのだ。

「おはようございます、伊藤さん。」田中看護師が明るい声で部屋に入ってきた。「今日は大切な日ですね。頑張りましょう。」

美咲は緊張しながらも、決意を込めて答えた。「はい、全力を尽くします。」

午前中、木村理学療法士の指導の下、徹底的な機能評価が行われた。歩行能力、手の巧緻性、バランス能力など、様々な項目が細かくチェックされた。

「伊藤さん、信じられないほどの進歩です!」木村さんは驚きの表情を隠せなかった。「右上下肢のMMTが3/5まで回復しています。これは予想をはるかに上回る回復速度です。」

美咲は自分の耳を疑った。「本当ですか...?」

木村さんは嬉しそうに頷いた。「ええ、間違いありません。あなたの懸命な努力が実を結んでいるんです。」

午後、佐藤医師との診察が行われた。佐藤医師も美咲の回復ぶりに驚きの表情を浮かべていた。

「伊藤さん、素晴らしい回復ぶりです。」佐藤医師は満面の笑みで告げた。「このペースで回復が続けば、予想よりもかなり早く社会復帰できる可能性が高いですよ。」

美咲の目に喜びの涙が浮かんだ。「ありがとうございます...でも、完全に元通りになることは...」

佐藤医師は慎重に言葉を選んだ。「完全な回復は難しいかもしれません。しかし、現在の回復ぶりを見ると、十分に教壇に立てるレベルまで回復する可能性は高いです。」

その言葉に、美咲の心は希望で満たされた。

夕方、高橋ソーシャルワーカーが訪れた。「伊藤さん、素晴らしいニュースを聞きました。おめでとうございます。」

美咲は照れくさそうに微笑んだ。「ありがとうございます。でも、まだまだ課題はたくさんあります。」

高橋さんは優しく頷いた。「そうですね。でも、ここまでの回復を見せたあなたなら、きっと乗り越えられるはずです。ところで、新しい可能性について考えてみませんか?」

美咲は首を傾げた。「新しい可能性...ですか?」

高橋さんは続けた。「はい。あなたの経験を活かして、障害を持つ生徒たちへの理解を深める特別授業を行うのはどうでしょうか。あなたの体験は、生徒たちにとって貴重な学びになるはずです。」

美咲の目が輝いた。「それは...素晴らしいアイデアですね。」

その夜、美咲は窓際に座り、今日一日を振り返っていた。予想外の回復と、新たな可能性。彼女の心は希望と興奮で満ちていた。

翌朝、美咲は新たな決意を胸に、リハビリに向かった。

「おはようございます、伊藤さん。」木村さんが明るく迎えた。「今日はどんなことに挑戦しますか?」

美咲は強い意志を込めて答えた。「今日は、杖を使って歩く練習をしたいです。そして...特別授業の構想も練りたいんです。」

木村さんは嬉しそうに頷いた。「素晴らしいですね。では、始めましょう。」

美咲は慎重に杖を握り、一歩一歩前に進んだ。最初は不安定だったが、徐々にリズムをつかんでいった。

「素晴らしい!」木村さんが声をかけた。「バランスが随分良くなっていますね。」

美咲は汗を拭きながら答えた。「ありがとうございます。まだまだですが、必ず教壇に立てるようになります。」

午後の作業療法では、鈴木作業療法士の指導の下、パソコンを使った作業に挑戦した。

「伊藤さん、キーボード操作はいかがですか?」鈴木さんは優しく尋ねた。

美咲は集中しながら答えた。「少しずつですが、できるようになってきました。特別授業の資料作りにも使えそうです。」

鈴木さんは嬉しそうに頷いた。「そうですね。あなたの経験を生かした授業、きっと素晴らしいものになるでしょう。」

夕方、美咲は病院の図書室でインターネットを使って調べ物をしていた。そこで彼女は、海外では障害を持つ教員が活躍している例が多くあることを知った。

「私も...こんな風に活躍できるかもしれない。」美咲は心の中でつぶやいた。

その時、佐藤医師が図書室に入ってきた。「おや、伊藤さん。熱心に調べ物をしているようですね。」

美咲は少し驚きながらも答えた。「はい。障害を持つ教員の活躍について調べていたんです。」

佐藤医師は興味深そうに聞いた。「それは素晴らしい視点ですね。あなたの経験は、きっと多くの人々の励みになるはずです。」

美咲は決意を込めて言った。「はい。私の障害を隠すのではなく、それを強みに変えたいんです。」

佐藤医師は優しく微笑んだ。「その考え方、素晴らしいです。医学的な観点からも、そういった前向きな姿勢が回復を促進することがわかっています。」

その夜、美咲は家族にビデオ通話をした。

「お母さん、すごい進歩だね!」娘の美月が嬉しそうに言った。

息子の翔太も加わった。「僕、お母さんの特別授業、絶対に聞きたいな。」

夫の健太郎は優しく微笑んだ。「美咲、本当によく頑張ってるな。俺たちも、全力でサポートするからな。」

家族の言葉に、美咲は勇気づけられた。「みんな、ありがとう。必ず、元気な姿で帰るわ。」

翌日、美咲は早朝から特別授業の準備を始めた。彼女は自分の経験を、どのように生徒たちに伝えるべきか、真剣に考えを巡らせた。

「おはようございます、伊藤さん。」高橋ソーシャルワーカーが訪れた。「特別授業の準備は進んでいますか?」

美咲は嬉しそうに答えた。「はい。少しずつですが、形になってきています。」

高橋さんは優しく微笑んだ。「素晴らしいですね。ところで、学校側から連絡がありました。あなたの特別授業の提案を、とても前向きに検討しているそうです。」

美咲の目が輝いた。「本当ですか?ありがとうございます。」

その日の午後、美咲は久しぶりに車椅子を使わずに、杖をつきながら病院の中庭を散歩した。新鮮な空気と陽の光が、彼女の心を明るくした。

「伊藤さん、素晴らしい歩きっぷりですね。」田中看護師が声をかけた。

美咲は嬉しそうに答えた。「ありがとうございます。少しずつですが、確実に前に進んでいる気がします。」

夕方、木村理学療法士と鈴木作業療法士が美咲の病室を訪れた。

「伊藤さん、明日から新しいリハビリプログラムを始めたいと思います。」木村さんが説明した。「教壇に立つことを想定した、より実践的な訓練です。」

鈴木さんも加えた。「黒板に文字を書く練習や、教科書を持ちながら歩く練習なども含まれています。」

美咲は期待に胸を膨らませた。「ありがとうございます。全力で取り組みます。」

その夜、美咲は窓際に座り、星空を見上げながら思いを巡らせた。予想外の回復、新たな可能性、そして待っていてくれる家族と生徒たち。彼女の心は、希望と決意で満ちていた。

「必ず...必ず乗り越えてみせる。」美咲は小さくつぶやいた。

翌朝、美咲は新たな決意を胸に病室を出た。廊下では、佐藤医師が優しく微笑みかけた。

「伊藤さん、今日も一日、頑張りましょう。」

美咲は力強く頷いた。「はい、新しい自分を見つける旅に出発です。」

美咲の回復への道のりは、新たな段階に入った。予想外の回復と、障害を持つ教員としての新たな可能性。彼女の前には、まだ見ぬ挑戦が待っていた。

しかし、美咲の心には強い決意があった。どんな困難が待ち受けていようとも、必ず乗り越えてみせる。そして、より強く、より優しい教師として、再び教壇に立つ日を目指して。

美咲の新たな挑戦は、ここから始まる。彼女の物語は、まだまだ続いていく。そして、その先には、きっと輝かしい未来が待っているはずだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?