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猫のtrilogy

==ねこのはなし== 私は、ねこと呼ばれている。
もちろんあだ名であって「ちゃん」が付くか付かないかの違い程度で周りの人はほとんどがそう呼ぶ。
私自身、猫は好きでも嫌いでもないけれど、このあだ名は嫌いではない
本名のフキエよりは全然いい。
彼はいつもベッドの中で
「お前の腰のラインは、綺麗でしなやかで本当にネコみたいだな」
そう言いながら優しく撫で上げてくれる。
昨夜もそんなことをしながら寝ていた。
のどが乾いて目が覚めた私はキッチンの冷蔵庫までミネラルウォーターを取りに行

    • ==風のような話==

      気球。あの空に浮かぶ気球。
下から見ていると、空に放たれ冷たい風に吹かれたゴンドラの中はさぞ寒いだろうと思うが、ゆるい風に流されて空を漂う気球の中は風と一緒に動いているので全く穏やかな空間なのだ。
地に足をついている私たちのほうが空気の流れに逆らい冷たさに耐えているのだろう。 
- 状況を理解するのには少々時間を要した。
いや、理解は不可能だし理由もわからない。
自分自身、納得がいかないし、どうにもこうにもわからない。
むしろ家族の方がこの状況に対して理解を示していたように

      • ==内側の話==

        両親は割合と背が高いのに、私は細くてちっちゃい。
だから年齢よりも下に見られることがほとんど。お母さんたちは「若く見えるねー」とか言いながら(本当か嘘か知らないけれど)喜んでいるけど、私は小学生に見られたって全然嬉しくない。
「何年生?」なんて聞かれると、「もう来年は高校受験だよ!」と、心の中では思いながら「あの、中学生なんです」と、もぞもぞ答えたりしてる。
まあ、でも、この見た目のおかげで、お店に行くと、アメもらったり、キーホルダーもらったりするので。悪いことばかりでもない

        • ==少し暖かな話==

          いつも仕事に向かう道の丁字路の突き当たりに、可愛いお家がある。
木と塗り壁をうまく組み合わせた洋風の可愛いお家だ。
お家は通りからだと庭を隔てて建っていて、絵に描いたような小さな窓があるのだが、そこには可愛いさくらんぼの柄のカーテンがかかっていた。
それに気がついたのは今から3ヶ月前のことで今日も私は少しわくわくしながら歩いている。
そのお家の前を通るのは、7時05分着の電車を降りてから歩きで向かう途中で、大抵7時10分前後。
太陽の光は暖かでとても気持ちよく、風もない。住宅

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          ==同じだけど違う話==

          蛍の光が大好きだ。
夏になると光るあの光じゃなくて、日本ではお別れの歌として定着している、あの蛍の光だ。
別に歌が好きなんじゃなくて、あの歌が流れる時間がたまらなく好きなのだ。
その時間になると居ても立っても居られなくなって、自分のところに来たお客の買い物を10%引いてあげたい気持ちになる。
うちの場合は、7時55分ごろこの歌が流れ始める。
この頃になると、買い物のお客さんもまばらにはなるのだが、それでもまだ何人かが残っていたりする。
値引きになった商品を探すおばさんや、

          ==同じだけど違う話==

          ==思い出した話==

          80年代の初頭の頃だったと思う。ジェフリー・H・カーンズという写真家がいた。
いた。というのは、つまり、今はいないのである。
亡くなったのでもなく、皆誰もが、どこにいるのか所在がつかめないのである。
突如として現れ、ニューヨークのごく一部のギャラリストたちの中では50年に一度の才能と称えられ、その後約1年弱で姿を消した。
姿を消したというよりも、その名前と作品は 、太古の魔術師たちが執り行う儀式のように封印された。
当時は現代とは違い、インターネットは一般の知識の補助とするの

          ==思い出した話==

          ==包む話==

          「お風呂の中で動くと、身体にまとわりついていた水が動いて、その動きを体とか波で感じ取ることができるじゃない?腕を動かすと、少し遅れて足の方に来たり。
それはね、たぶん空気も一緒で。
空気じゃないな。
空気だと当たり前すぎる。空間ね。
空間でも同じことが起きていて、だけどね、水の中と違うのは、人はみんなたぶん1メートルくらいの大きさの薄い膜でできた繭のような空間に包まれていて、その見えない繭の中で生活してるの。
あ、言っておくけど、わたし変なセミナーとか変わった神様信じてるわけ

          ==包む話==

          ==まわる話==

          「ライオネル・リッチーってピアノごと回っちゃうんだぜ。知ってた?」 スーパーの帰り道、彼女は「セイユー、セイミー」と同じ箇所だけ歌いながらご機嫌に歩いてた 「回るってグルグル回っちゃうの?」 彼女は人差し指を立てた手を下に向け腕をグルグルと回した 「そんな、ろくろみたいなスピードでは回らないよ。せいぜい昔の電子レンジくらいの速さで」 彼女はクスッと笑いながら 「ならね。私もっとすごいの知ってるよ。ドラムの人が回っちゃうの」 「すごいんだよ」 「ヘビメタみたいな人たちでね、こう

          ==まわる話==

          ==叶わぬ話==

          「4日ぶりか?」
しわがれ声でマスターが言った
「今日はウーロン茶にしとくよ」
と言うと、「おごらねぇよ」という言葉と同時にボウモアのロックが出てきた。
なんて店だここは。
今日はヨシマサに呼ばれてここに来た
ヨシマサは10年近くの友人。ゲイだ。
「いまだに混同してるタコがいるんだけど、ゲイとオカマは違うのよ」
これは、一番初めにヨシマサと交わした会話だ。
デンマークと日本のミックスの彼は、はっきり言って美しい。
カルバンクラインアンダーウェアのモデルのように顔も、鍛え上げら

          ==叶わぬ話==

          ==真面目な話==

          「痛た!」
リビングの隅っこの方で彼女は普段よりもちょっと大きな声で叫んだ。
左人差し指の第二関節の背を口にくわえながら「いへへへ」と眉間にしわを寄せながら彼女は言った
「いははったー」
「大丈夫?うち 絆創膏あったっけ?」
という僕の問いかけに2人はしばらく沈黙し彼女が言った
「薬屋さん行こうか」 そのドラッグストアはうちから歩いて10分ほどの旧道沿いにある。
ティッシュでくるっと巻いた指を口元に当てながら、彼女はしゃがみこんで薬を物色している
「なんかいっぱいあってわかん

          ==真面目な話==

          ==冬の短い話==

          「『へのへのもへじ』っていうのは古代人の顔なのよね」
そういう彼女の指先には、見慣れない顔があった。
「パーツのひとつひとつが大きすぎるのよ。でもね、小さく描けばいいってもんでもないのよ」
「垢抜けていないのよ。ひとつひとつがね。わたしの顔みたい」
そう言いながら、彼女は指先のガラスに描いた顔を掌で擦って消した。
大きな窓の中にできた、彼女の擦った小さな窓から雨の日のような雫が5本垂れた。
「ねえ見て、あ、わかんないと思うけど、この眉毛もちゃんと整えないと西郷さんみたいなのよ

          ==冬の短い話==

          ==少し長いよくある話==

          隣に座った女がいきなり話しかけて来た 「ねえ、同じのもう一杯私にご馳走してくださらない?」 なにそれ?その三流のペーパーバックのようなセリフ。 「そしたら、お礼に面白い話聞かせてあげる」 なにこの、安っぽいハードボイルドみたいな展開。 「いや、別に聞かなくてもいいよ」 とぼくが返事する前に、しわがれ声のマスターが彼女にテオペペのソーダ割りを出してしまったので、ぼくは自分の意思とは関係なく彼女の話を聞かなくてはならなくなってしまった。ついでにお勘定も。 「あのね、きょうはすごく

          ==少し長いよくある話==

          ==優しい話==

          さみしくなるとトムウェイツが聴きたくなる 初期のブルージーな曲もいいし 中期の哲学者みたいな曲もいい さみしいぼくにはとても優しい それは包み込んでくれるような優しさじゃなくて 名前も知らないけれど、一緒に飲んでいたのに気がつくともう帰っていてお代まで払ってくれてたみたいな優しさ。 ぼくは、しわがれ声のマスターがやってる小洒落てもなく気が利いてもないという、大した取り柄もない、だけど時々作る酒がうまいバーで飲んでいた。 無口そうな、中年というより初老の男がカウンターの隣に座っ

          ==優しい話==

          ==noteを始める話==

          以前思いつきで書き始めた短い文章がある 本人は小説と称して悦に入って書いていたが、小説と呼ぶには程遠い雑文である。その雑文を読み返したら。つたない文字の隙間に少しだけいいことが書いてあった。手前味噌の雑な味付けの味噌汁を飲ませる。少し迷惑な味噌汁屋をnoteに作ろうと思った。 以前のものを少しづつ上げていこうと思う。上げ終わったら新しいものを。 2020/07/23

          ==noteを始める話==