==包む話==


「お風呂の中で動くと、身体にまとわりついていた水が動いて、その動きを体とか波で感じ取ることができるじゃない?腕を動かすと、少し遅れて足の方に来たり。
それはね、たぶん空気も一緒で。
空気じゃないな。
空気だと当たり前すぎる。空間ね。
空間でも同じことが起きていて、だけどね、水の中と違うのは、人はみんなたぶん1メートルくらいの大きさの薄い膜でできた繭のような空間に包まれていて、その見えない繭の中で生活してるの。
あ、言っておくけど、わたし変なセミナーとか変わった神様信じてるわけじゃないからね。
ま、いいや。でね、その繭は人を守ってくれるとかそんな大層なものじゃないのね。
ただあるだけ。プルンともサラッともしてないからたぶん誰も気づかない。
で、人が動くとその繭も一緒に動いて、その時に周りの空間に小さな波が生まれるの。小さな小さな波。その波は小さな波紋を作って周りの空間を伝わって行くの。
その波紋はどこか遠くへ飛んで行っちゃったり、消えちゃったり、あと、いろんなところで波紋は起きているから干渉しあって打ち消されたり。
だけどその中で、たまたま周期があったりしたものが増幅したり、後押ししたりして遠くに伝わったり、強くなったりするの。
まあ、それもどこかトンチンカンな方向へ飛んで行っちゃったりするのがほとんどなんだけどね。月に行っちゃったり。
まるで見たかのようなこと言ってるけど、そう思っただけだから。
でもね、たまーに。本当にたまーに同期する繭があるの。
それは全く予測は付かなくて、その時も場所もわからないの。とても弱いから同期した瞬間だってわからないくらい。
だけれど、その同期は強く空間を歪ませるから、そのひずみがそこに残るの。その歪んだ繭と繭に。
そうするとその歪んだ繭は、その歪んだ形で空間に小さな波紋を作るの。その波紋は、さらに変な形だから、変な形同士がわかりやすくなるのね。
これは、人と人とのロマンスの話だけじゃなくて、この世界で起こりうるすべてのことに当てはまると思うんだ。
さっき、人って言ったけど、人だけじゃなくてすべてのものかな。
そう。空間で起こるすべての物事に生まれる現象で、すべてのものに起こるとは限らないものなの。
そういう予測が全く付かない現象が時々世界で起きているのね。
これね、前に新聞を切り抜いた重力波の記事を、昨日読み返して思ったの。
すごいよね」
彼女は一気に喋り終えると、ショートケーキをひとくちたべた。

2017/1/12

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