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幻想の終焉─ 「ファイナルファンタジー16」クリア後感想



<まえがき>


<筆者のFFシリーズプレイ遍歴>

●ナンバリングタイトル
FF1〜15迄、11以外は全てクリア済(7Rも含む 14は6.0までプレイ)
特に思い入れが強い作品……3(DS版)・5・7・9・10・12(TZAゾディアックエイジ
個人的な最高傑作……7 or 12(TZA)

●スピンオフ
10-2・13-2・LR13・T・TA・TA2・12RW・CC・CCリングオブフェイト・CCクリスタルベアラー・オリジン・ディシディア・光の四戦士・聖剣伝説・CCFF7・ DCFF7・零式(順不同 DCFF7のみ未クリア)
特に思い入れが強い作品……T・TA・CCクリスタルベアラー・聖剣伝説・零式

<諸注意>
※本文中の画像は、全て筆者が撮影したスクリーンショットです。
※本稿は「FF16」に関する様々な要素の感想を、賛否共に挙げております。大絶賛をする方々の感情に水を差す意図は一切ございません。何卒ご了承下さい。


 待望のシリーズ最新作「ファイナルファンタジー16(以下「FF16」)」をクリアした。全てのモブハント・サブクエストを終えた状態で、総プレイ時間は約40時間。まだ2週目の「強くてニューゲーム+高難易度モードファイナルファンタジーチャレンジ」や「石塔の試練」には挑んでいないが、ひとまず大半の要素を堪能できたと実感している。

7/13時点での取得トロフィー。もう少しやり込む予定。


 魔法が織りなす世界の終わり──「幻想の終焉」によって締め括られる冒険の帰着は、確かに感動的で深い余韻を残すものだった。ネタバレを喰らわずに結末を迎えられたことを、心から嬉しく思っている。前作「FF15」以上にアクション性が高まった戦闘も、歯応えと爽快感が両立されており大いに楽しめた。
 しかし。残念ながら、俺は本作に対して「全ゲーマーに勧められる名作!」「FFシリーズ最高傑作誕生!」といった言葉を掛けられない。総合的に点数を付けるなら50〜60点。楽しめたのは事実であり、幾つもの魅力を感じているものの、気になる点・ノイズも拭い去れずにいる。



 それでは以下より、俺個人の主観による「FF16」の様々な要素に関する評価を、ネタバレ全開で具体的に語っていきたい。

↓前作「FF15」のレビュー。愛憎入り混じっています。あえて点数を付けるなら本編(大規模アプデ前)は35〜40点、オンラインモードに関しては80点。

↓発売前の、不安混じりの期待を述べた記事です。

◎ 召喚獣合戦


黒くてゴツゴツした主人公イフリートの表皮は、誰もが知る怪獣王:ゴジラを想起させる。
ラスボス戦以上に大迫力だったバハムート戦。
青き星を背にした大気圏外での激闘は、まるで「クロノ・トリガー」のジール戦。


 召喚獣合戦(通称)。召喚獣へと変身した能力者ドミナントが大激闘を繰り広げ、従来のFFシリーズでは眺めるだけのムービーに過ぎなかった場面を操作するイベントバトルであり、間違いなく本作の白眉と言える。この要素ゆえに、本作は「中世ヨーロッパ風ファンタジーと怪獣特撮映画のジャンルミックス作品」とも喩えられよう。
 主人公の変身要素自体は過去作「DCFF7」にも存在したが、今回はより臨場感・重量感を増したアクションを体験することができた。特に中盤のタイタン戦・バハムート戦はスケールが圧倒的に大きく、心底夢中になってコントローラーにしがみ付いてしまった。「FF9」の名場面:アレキサンダーvsバハムートのムービーが気に入っていた方々ならば、召喚獣合戦を全力で楽しめただろう。
 ただ、上記のバハムート戦があまりにも盛り上がりすぎて、それ以上に派手なバトルが登場しなかったのは残念だった。本編で存在が示唆された未登場キャラクター「幻の召喚獣リヴァイアサン」と戦えるDLCが配信されたなら、俺は即日購入したい。


 余談だが、上記の「ムービー的な部分を操作する」という要素は、「FFCC クリスタルベアラー」が目指していたゲーム体験の完成形だと受け止めた。こちらは変身要素こそ存在しないものの、様々なイベントシーンをWiiリモコンを用いたQTE(「プレイアブルイベント」と称していた)で動かせることをウリにしており、Wiiの直感的操作も相まって没入感を味わえた。派手な戦闘シーンがほぼなく満足度に欠ける惜しい一本なので、いつか完全版を遊びたい。磨けば光るはず。


◎ グラフィック


 流石はグラフィックに長けたFFシリーズ。言わずもがな素晴らしい。景色は勿論、炎や氷などのエフェクト、クリスタルが砕け散る際の粒子の表現なども素晴らしかった。発売前は「画面が暗すぎないか?」との懸念を抱いており、実際視認性の悪いシーンも多かったが、不快感を抱く程ではなかった。また、人物には時折「不気味の谷現象」を感じたが、それでも「FF15」「FF7R」よりは違和感が減ったと思われる。



 さて、以下に魅力的なロケーションの一例を挙げよう。本作をプレイした方々は、ついスクリーンショットを撮影したくなる場面・場所に、必ず巡り逢ったはずだ。


◎ ロードが皆無




 地味ながら素晴らしい要素。本当に驚かされた。
 直近の作品「FF15」「FF7R」はロード(或いはロード時間を隠すための細い一本道)が多いゲームだったので、プレイ中にストレスを感じる機会が多かった。一方、本作はマップのファストトラベルでさえ3秒程度しか掛からず、何と「Now Loading」の文字さえ出ない。先に述べた通り、召喚獣合戦中に発生するイベントも、ロードを一切挟むことなくシームレスに展開が進行する。お陰で興を削がれずに物語へと没入することができた。PS5の性能の賜物だろうか。


◯ アクションと戦闘のバランス



 「FF15」同様にコマンド選択を廃した本作のアクション戦闘は、基本的にコマンド選択制ばかりのFFシリーズにおいて相当なチャレンジだったと思われる。
 冒頭でも述べた通り、個人的には非常に楽しめた。
特に回避行動と「タイタンのガード」がとても気持ち良く、同じスクエニ製のアクションRPGである「キングダムハーツ」シリー時等々とは別の感覚を味わえた。回避の際に感じた快感は、強いて言えば「NieR:Automata」と近いかもしれない。
 戦闘のバランス自体も良い。非アクションゲーマーの俺でも、サポートアクセサリに頼らずボスにギリギリ勝てる戦闘ばかりだった。プレイヤーが詰んでしまわないように、相当テストプレイを重ねたのだろう。
 相手の体力ゲージを削りきり、ダメージ倍率を上げながら強力な攻撃を叩き込むシステム「テイクダウン」も適切な塩梅と思えた。類似したシステムを持つ「FF13」「FF7R」の戦闘は体力破壊効果ブレイク・バーストの効果に偏重しすぎており、通常攻撃のダメージが貧弱になりがちという問題を抱えていた。一方、本作のダメージ最大倍率は僅か150%しかないため、ダウン時以外のダメージも無駄にならずに丁度良さを感じた。



 ただ、これだけ楽しい戦闘システムがあるにも関わらず、ラスボスをも凌ぐ「隠しボス」が居ない件には違和感を覚える。
例えば、「FF5」のオメガ&神龍。「FF8」のオメガウェポン。「FF12」のゾディアーク・ヤズマット等々、両手で数えきれない程の強敵たち……。集めた装備、つちかった強さとプレイヤースキルを総動員した隠しボス達との戦いは、(初期を除く)FFシリーズの多くに共通する醍醐味だったはず。だが、本作ではそういった敵・隠し要素は登場しない。DLCで追加される可能性はあるが、少なくとも2023年7月上旬の時点では未登場・未発表だ。
 2週目以降の引き継ぎ可能高難易度モード「ファイナルファンタジーチャレンジ」自体が隠しボスに該当するかもしれないが……これはある種の「ハードモード」であり、隠しボスとは異なる概念だと俺は認識している。1週目の範囲内だけでも、最低でもあと3体くらいは欲しかった。そのうち1戦は召喚獣合戦形式であったなら、尚のこと有り難い。


 なお、最終的な俺の装備は、攻撃用のフェニックス・回避と体力削り用のシヴァ・ガード用のタイタン。オーディンが非常に強力と聞いているが、必殺技「斬鉄剣」の発動が難しく、まだ上手く使いこなせていない。一番のお気に入りはタイタン。溜めパンチ「ワインダップ」で殴り抜ける爽快感が最高。


◯ キャラクター



主人公:クライヴ(壮年期)。少年期・青年期を経てこの無精髭スタイルに至る。


 メインキャラクター ──召喚獣に変身できる能力者ドミナント達は、ほぼ・・皆良い個性を発揮できていたと思える。
 過去の悲劇に対する復讐を誓いながらも、面倒見と人当たりの良さを発揮する主人公:クライヴ(=イフリート。彼のパーソナリティに関しては「ストーリー」にて後述)。クライヴの生き別れとなった幼馴染であり、再会してからは絶妙にもどかしい距離感を取るヒロイン:ジル(=シヴァ)。とある恋を胸に秘めた清廉潔白な竜騎士:ディオン(=バハムート)等々。一見すると従来のFFシリーズのキャラクターより没個性だが、皆ちゃんと個性が立っている。
 サブキャラも同様だ。お人好し過ぎて逆に裏切りを疑ってしまったガブ。気風きっぷのいい「マーサの宿」の女将。お茶目なバイロン叔父さん。人懐っこいムードメーカーのミド。このようにメインキャラクター以外でも印象的な人物は多く、物語・サブクエストに彩りを添えてくれた。


「体格のいい男」ことフーゴ。「ン」のカタカナ表記は、松野泰己氏(FFT等)リスペクトか。

 個人的に気に入っているキャラクターはフーゴ(=タイタン)。巨人に変身して戦場で剛腕を振るう一方、意外にも冷静な知将としての面も備える。しかし、ベネディクタ(=ガルーダ)のハニートラップに引っ掛かり彼女の虜に。その後、彼女を失い暴走し、陰謀による勘違いのままにクライヴの仲間たちを強襲・虐殺。結果的にクライヴたちからも恨みを買い、両腕を切り落とされた挙句、異形の怪物デビルタイタンと成り果ててイフリートに倒され絶命……。許されざる憎き仇敵でありながら、本作で最も人間臭さを感じさせるキャラクター造形だった。



 一方で、冒頭では大物感を漂わせていたバルナバス王(=オーディン)の小物っぷり、意味深な言動でクライヴを煙に巻く敵:ハールバルズとラスボス:アルテマなど、後半に焦点の当たる人物は前半と比較すると物足りなさを感じた。「ラスボスが抽象的になりがち問題」はFFの定番要素とも言えるため、アルテマについては「FFシリーズとはそういうもの」と捉えるのが正解かもしれない……。

特に気に入ったサブキャラはシドの義理の娘:ミド。
シドが早期退場する本作においては、彼女が実質的な「発明家ポジション」として、そしてムードメーカーとして大活躍。
声優:山根舞氏の少年のような声も良い。ナイスアクト。


◯〜△ BGM


 あくまでも俺の主観だが、本作は「さほど主張しないタイプの劇伴」が多かった。決して悪くはないがあまり印象に残っておらず、クリア直後の現段階では鼻歌を奏でられる曲はほとんどない。後々サントラをヘビーローテーションすれば印象が変わるかもしれない。
 ダンジョン内の戦闘曲がインタラクティブミュージックとなっており、元の楽曲からシームレスに移行していた点は良かった。通常戦闘曲が存在しなかった「FF12」の時代にこの技術があれば……と思えてならない。


 忘れ得ぬ素晴らしい楽曲も勿論存在するので、具体的に挙げよう。
本作における問答無用の個人的名曲は、「主人公のテーマ」とも呼べる熱いボスバトル曲「Find the Flame」。「FF13」の通常戦闘曲 兼 主人公のテーマ「閃光」のような、作品を象徴する名曲だ。本当に「ここぞというタイミング」にしか使われなかったので、勿体ぶらずにもう1・2箇所で流れてほしかった。「FFのテーマ」「プレリュード」のアレンジBGMは多様されていたのに……。


 米津玄師氏の主題歌「月を見ていた」も良かった。当初は落ち着き過ぎている気もしたが、静かなエンディングの描写と見事にマッチしている。本編のストーリーを参考に歌詞を作っていると公言していたため、歌詞を把握した時点で物語のオチを察することができてしまう問題はあるが、やむを得ないか(映画「シン・ウルトラマン」の主題歌「M八七」でも同様の感想を抱いた)。

↓楽曲制作に関するインタビュー。「FF12」を熱く語っている。俺は米津氏・「FF12」双方のファンなので非常に嬉しい限り。


 なお、本作のラスボスのテーマ曲として「FF1」のフィールド曲の旋律が使用されていたが、まだ俺は意図を読み解けていない……。


△ QTE



 残念ながら、以前の懸念は当たってしまった。
 関係者はインタビューで「物語の進行とともに徐々に少なくなる」と述べていたが、俺個人の感覚としては、序盤も後半もさほど大差を感じなかった。確かにダンジョン内のQTEは減った気がしなくもないが。
 ボスバトル・召喚獣合戦中のQTEは決して難しくなく、むしろ「チャンスタイム」的でラッキーだな、といった程度に受け止めていた。結果的に、QTEは有っても別に構わないが、さほど没入感には直結しなかったので無くても困らない……といった感想を抱いた。QTEの使い方が巧みで凄まじい没入感を生み出していた大傑作「Detroit:Become Human」並みのクオリティを求めてしまうのは、単なる贅沢だろうか。
 なお、PS5は状況によってR2・L2ボタンの重さが変わる機能「アダプティブトリガー」を有している。本作ではダンジョンの重い扉を開ける際くらいにしか使われていなかったが、重々しい動きが多い召喚獣合戦でこの機能を活用できていれば、QTEの楽しさ・没入感が上昇したと思われる。

ラストバトルの連打QTE。トドメはまさかの横っ面パンチ。
そしてトンデモなダメージ。
一部では猛批判を受けネタにされている演出のようだが、俺個人としては「開き直り」を感じて好ましかった。


△ ストーリー


今回は、アクションゲームとして尖ったものを作り、そこにド級のシナリオを積んで、超高速で突っ走るようなゲームデザイン。

プロデューサー:吉田直樹氏インタビューより抜粋。


 ストーリー。俺が本作において最も期待しており、開発陣がアクション要素と並んで最大級のウリにしていた部分でもある。
 今回は一本道のストーリーを追うことに注力されたゲームであり、まるで「遊べる映画/海外ドラマ」のような手触りになっていた。実際のところ、(「FF14」を除く)「FF13」以降飲み込み辛いシナリオが続いていたナンバリングタイトルの中では、本作の物語が最も上手く纏まっていたように感じる。人間関係は事前情報ほど入り組んでおらず、意味不明な造語もほぼない。
 仮にわかりにくい展開となっても、会話中に登場する単語・人物を即座に調べられる「アクティブタイムロア」が手助けをしてくれる。このシステムは非常に便利でテキストの読み応えも抜群なため、今後FFシリーズに限らず、様々なゲームのスタンダードになってほしいとさえ思う。少なくとも「FF13」がリマスター化されたら確実に実装して頂きたい。難解だった物語への理解度が増して、以前より楽しめるかもしれない。



 さて、肝心のストーリー「ド級のシナリオ」だが……。苦しいことに、非常に語り辛い。

 世界観としては、ヴァリスゼアという大陸の中でマザークリスタルの下に国が形成されていったというイメージです。現代風に言うと油田がそのイメージに近しいです。マザークリスタルは、魔法を生み出すエーテルを産出する場所で、そこにそれぞれ国ができ、栄えていきました。それと同時に、現代で言う核兵器のような存在として、各国のルールに則って召喚獣とドミナントというものが生まれ、それが代々受け継がれています。
 ところが、マザークリスタルから放出されているエーテルが枯渇し出すという状況になり、いままではギリギリ均衡を保っていた国どうしが、いよいよ他国のマザークリスタルに手を出し始めます。そこで禁断と言われていた召喚獣の激突が起こって……というのが今回の物語のベースになります。

プロデューサー:吉田直樹氏インタビューより引用。


 上記のインタビュー通りに「マザークリスタル・召喚獣」を現実世界へ当てはめると、各々「油田・核兵器」に相当する。資源を巡った争いの結果、「相互確証破壊」の均衡が遂に崩れ去る。それが「FF16」の物語と言えよう。
 また、「魔法使いベアラーに対する人種差別」も世界観の根幹を成している。いずれも、浅薄な理解と迂闊うかつな発言がはばかられるセンシティブな題材であり、深入りは極力避けたい……。
 よって、本作のストーリーは語り辛いのだ。多数の突っ込み所があろうとも。



 それでも、本稿ではせめて一点だけ、最も心に引っ掛かり続けた件について書き留めておきたい。
 詳しくは後述するが、俺はクライヴを好きになったので、彼の心情をできる限り理解したい。しかし、現時点では、どうしても行動への納得ができずにいる。
 クライヴはレジスタンスのリーダー:シドや仲間たちとともに、非道な扱いを受けている「ベアラー」の保護活動を行うようになる。「人が人として生きていくため」とのお題目と共に……。
 上記の活動と同時に、各国に点在する「マザークリスタル」なる巨大な魔力の結晶、いわば作中最大のインフラ施設(上記の通り油田のような存在。その汎用性の高さゆえ、発電所・水道関係施設も実質的に兼ねている)の破壊工作にも勤しむ。掻い摘んで説明すると、「大地からエネルギーを吸い過ぎており、大陸と人々の滅亡を引き起こす遠因だから」といった理屈だ。シリーズ中では「FF7」のメインキャラクターが序盤に行っていた「魔晄炉爆破テロ」に近い理屈と言えよう。

これを砕く旅。
闇取引もされている「携帯型クリスタル」。日常生活の必需品。
街・集落の井戸にはクリスタルが常備されている。

 冒険を続けていると、浄水の確保・火起こし・食料の保存など、様々な用途でクリスタルが重用されていることが見て取れる。同時に、クリスタルが無くても魔法を使える存在:ベアラーが、奴隷となって「生きた家電用品」のような扱いを受けている様をこれでもかと見せ付けられる。ベアラーとクリスタルが放つ魔法は、作品世界の生活必需品なのだ。
 マザークリスタルの破壊(=クリスタル依存からの強制的な脱却)は即ち、既存の社会構造を破壊し、大転換を人々に強いることに他ならない。それは一般的な人々に対しても、クライヴが保護活動を続けるベアラーに対しても同様である。



 現実世界で喩えてみよう。ある日突然、水道・電気・ガス・石油の供給がストップしたら?
具体例はあえて挙げないが、直近の十数年の間で極限状況を体験せざるを得なかった方々は非常に多く、その心労は想像に難くない。災害大国である日本に住む限り、将来的には俺も危機から逃れ得ないだろう。それが突然発生し、「電気が完全に使用不可能となりました」「焚き火で暖をとって下さい」「綺麗な生活用水は用意できません」──そして「これらは全て復旧しません、現状の生活を送り続けて下さい」と言われたら……。
 作中のモブキャラからは、「国家が保有するマザークリスタルの崩壊により政府中枢が機能を失い、クリスタルの供給が止まったことで社会的混乱が起きている」といった情報も得られる。作中の治安は現代日本より悪い。雇用形態の崩壊・社会不安・略奪……。さぞかし恐ろしい事態が発生しているはずだ。



 「FF16」は、そのような事態を主人公が積極的に引き起こしていく物語でもある。世界設定を鑑みれば、確かにクライヴの行動は作品内の人類の存続に貢献していることになる。マザークリスタルがある限り、大地は徐々に侵食され、大陸ヴァリスゼア中が草木も生えない死の土地となってしまうからだ。
 しかし、そこに至るまでの「プレイヤーの目に留まらない数多の犠牲」が、俺の心に引っ掛かりを残してしまった。


 クライヴが「長期的に世界を持続させるためなら、見知らぬ他人は切り捨てても良い」とまでドライに割り切っているなら、本作は「ダークヒーローの物語」として認識できよう。作中で「マザークリスタルを破壊した大罪人」と称されるくらいだ。ダークヒーロー的な側面に焦点を当てても違和感はない。
 だが、ゲームをプレイしている限り、クライヴは基本的に真っ当な善人だ。ベアラーと非ベアラーの区別・差別をせず、困っている人に手を差し伸べ、目上の人や恩人には敬意を払い、子どもには大人らしく見守る目線を向け、倒すべき敵にはしっかり刃を向ける。そして、交流した人々からは信頼を勝ち取り慕われる。俺基準ではRPGの主人公として100点満点だ。
 そんな彼の善き人物像と、守ろうとする人々(ベアラー・非ベアラーを問わず)に直接的な危険と犠牲を強いるメインストーリーが、どうにも噛み合わない気がしてならない。



 中盤の転換点:壮年期スタートの時点で、命を危険に晒された(囮にされた)ベアラー達からクライヴが誹りを受ける機会がある。「あんたが余計なことをするせいで!」といった旨の罵詈雑言で、クライヴが作中で喰らった数少ない批判意見である。ただ、これは自身が「ベアラー解放者のボスをおびき出す餌」として使われたことに対する不満であり、社会に混乱を招いている件に関する批判ではない。
 後者の旨の批判をメインストーリー中盤程で一度喰らい葛藤した上で、「それでも、俺の取る選択肢はこれしかないんだ……!」との結論を導き出せていれば、クライヴを今以上に好きになり、応援することができたかもしれない。

終盤のサブクエストで語られるクライヴの真意。本編シナリオ内で語らせてほしかった。
「クリスタルが完全消滅した後に民衆の生活基盤を維持するための努力はしている」と判明するサブクエストも有る。彼は無秩序を望んでいる訳ではない。
「マザークリスタル破壊の罪」については、ラスボスが精神攻撃の材料にもしていた。少しだけクライヴに効いていた。


 また、クライヴは「人の生き方、在り方」を説くが、この言葉の主語は途方もなく広い。彼の説く「人生論・人間感」は漠然としているので、いくら「人が人として──!」と繰り返し叫んだところで、「クライヴが理想とする生き方」の押し付けでしかないように思える。
 いや、あくまでも本作はフィクションなのだから、いくら押し付けられても全く構わない。それならば彼のエゴ──「世界中の人々から悪と憎まれても、信じた道を突き進む不退転の覚悟」を更に強調すべきだった気がする。



 さて、クライヴは多くの罪なき人を巻き込んで革命を起こしたダークヒーローなのか。それとも、市井の人々を見捨てられないお人好しの勇者なのか。このアンビバレントな要素を一致させる解釈を、俺はまだ見出せていない。もし2週目以降をプレイして納得のいく捉え方ができれば、俺の「FF16」のストーリーに対する評価は急上昇するかもしれない。

※明確な解釈違い・記憶違い・設定の捉え間違い・描写の見落としがある可能性も否定できません。もし明確な誤解がございましたら、ご指摘頂けると幸いです。

△ カタルシス不足?




 「ストーリー」に加えて書くべきだったかもしれないが、少々焦点がずれた話となるため別枠で語らせてほしい。
本作の雰囲気は海外ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の雰囲気の影響下にある、と以前スタッフが公言していた。俺自身も全8シーズンを鑑賞(スピンオフ・原作小説は未見)し、賛否分かれたファイナルシーズンも肯定的に受け止める程の大ファンである。



 あのドラマの見所は、重苦しい非情な展開や容赦ないバイオレンスシーンだけに限らない。それらはあくまでも「溜め」に過ぎず、後に待ち受ける圧倒的なカタルシスを楽しむための食前酒だ。多くの場合、過ちを犯した者には制裁が下るし、不幸に見舞われたメインキャラクターには状況の好転が待っている。
 ほんの一例を挙げよう。国の為に自分の妹を売り、我が物顔で傍若無人に振る舞った挙句に「黄金の冠(ただし高熱でドロドロに溶解した……)」を授けられる・・・・・ヴィセーリス。「全裸で市中連れ回し」という非道な仕打ちを受けた後、それを強いた関係者を城もろとも爆殺し復讐するサーセイ。どちらも倫理的にはNGであるが、フィクション内においてはガッツポーズを禁じ得ない展開である。即ち、胸糞の悪い展開を塗り替える圧倒的なカタルシスの存在が、「ゲーム・オブ・スローンズ」の面白さの根幹ではないか。そのように俺は考えている。



 「ゲーム・オブ・スローンズ」がオマージュしたくなる程の名作だからとはいえ、ダークな部分のみを抽出したとしても、それはあくまでも作品を構成する一側面でしかない。なので本作は「雰囲気だけの表面的なリスペクト」に留まらず、もっと良い部分の本質も取り入れて欲しかったと感じる。
 勿論、本作にもカタルシスを得られる場面は存在する。復讐を完遂するジル、復讐相手イフリートの正体が自分であることを認めて覚醒するクライヴ、身体に雷を纏わせてシドの決め台詞を発するクライヴetc……。なので、これはあくまでも「もっと有ればよかったのにな」という我が儘な意見かも知れない。


個人的に本作一の名台詞。普段は「てよだわ口調」のジルにしては珍しい発言。
元々PVでこの台詞は流れていた(はず)なので、発売前は好戦的なキャラクターかと思っていた。



× 少なすぎるカスタマイズ要素




 RPGの面白さを形作る要素の一つは「カスタマイズ性」だと俺は考えている。これはアクションRPG・シミュレーションRPGにおいても同様だ。

↓その一例。年初に遊んだ「ファイアーエムブレム エンゲージ」の魅力は豊富なカスタマイズ性にあった。他作品の参考例として「FF12」TZA版を挙げた。


 この楽しみは初代「FF1」から存在する。開始時に6種類の職業ジョブから主人公4名を選ぶのだが、当然ながら全ジョブを一度のプレイで味わい尽くすことはできない。また、この4名は同一ジョブでも構わない。あえてモンクを2・3人投入すると後半で楽をできる、と以前どこかで読んだ覚えもある。
 「FF2」の大量の武器・魔法、「FF5」「T」等のジョブ編成&アビリティ、「FF7」の多数のパーティキャラ&マテリアetc…‥。どのシリーズにおいてもほぼ正解はなく、選ぶ自由や楽しみを見出せる。最終メンバー・最強武器ともに固定されている「FF4」だけは例外だろうか?



 本作の重要なカスタマイズ要素としては、「身に宿した召喚獣のアビリティ」がある。この点については、確かに「悩む楽しさ」が一応あった。扱い易い初期召喚獣フェニックス、速さとトリッキーな動きがウリのガルーダ、ガードカウンターが楽しいタイタン、絶大な破壊力と使い難さを併せ持つオーディンetc……。これら7体の中から3体を編成し、1体の召喚獣に対して2つの技を装備する。この点は本作の重要かつ数少ないカスタマイズ要素であり、プレイヤーの個性が出る点でもあろう。
 過去の作品で例えると、「LRFF13」が最も近いのではないだろうか。操作は主人公のみ、3通り装備できる「ウェア(ジョブ)」の切り替え、アビリティの装備要素と時間によるリキャストなど、類似点を多数見受けられる。



 では、他のカスタマイズ要素を見ていこう。
 まず、武器の種類は「剣」のみ。槍や斧といった類のモーションが異なる他種武器は存在しない。また、武器と防具(2箇所)は段階的に一つずつ購入・強化していくだけで、何も考えることなく「少しステータスが高いものを選べばいい」ため、選択の幅に悩むことは皆無。歴代シリーズで例えるならは「FF8」のようなものだろうか(「FF8」は装備品が少ない代わりに、魔法と召喚獣を装備品として用いる特殊なシステム「ジャンクション」により、ファイガやアルテマといった魔法を実質的な武器として扱っていた)。
武器種が剣しかない件は百歩譲るとして、攻撃力を段階的に上げていくだけの現状の仕様は非常に物足りない。せめて「フェニックス状態でのみ技のリキャスト速度がアップ」「HP半減以下の際は攻撃力が大幅に上がる」「与えたダメージの0.5%だけHPが回復する」「攻撃力は低いが敵の体力《ウィルゲージ》を削りやすい」「見た目は面白いが能力が低過ぎるネタ・やり込み武器」……等々、何らかの付加価値を持った武器が存在すれば、プレイスタイルの幅がより広がり、楽しみも増しただろう。

 そして、装備枠が3つ存在するアクセサリ。本作のアクセサリの種類は豊富で、選び甲斐も悩む楽しみもある。しかし、アクション初心者向け補助アクセサリの「オート◯◯」系を装備すると、その貴重な枠が埋まってしまう。サポート要素に頼って遊んでいるプレイヤーは、必然的に装備の楽しみが失われてしまうはずだ。せっかく集めても装備不可能(もしくはサポートを諦める)となれば、収集・プレイのモチベーションが失せてしまう可能性がある。

 「アクションと戦闘のバランス」でも述べた通り、本作は相当テストプレイを重ね、丹念なレベルデザインを行なったと思われる。管理がややこしくなる要素を大幅にカットした、と捉えることもできよう。また、あくまでも育成や戦闘はストーリーを体感するためのおまけ要素、と割り切っているのかもしれない。だが、もう少し我々に「選べる余地」を与えてくれてもよかったのでは?……と感じる。


× 仲間との共闘感の薄さ



 本作は基本的にクライヴ+相棒の狼:トルガルのみを操作(命令)し、状況に応じてNPCが加入する。しかし、彼らの装備や技にカスタマイズ要素はない。これだけなら他作品のNPC(「FF12」など)も同様であるが、本作の場合はHPゲージ等の能力値、いやHPそのものさえ存在しない。また、戦闘がスピーディーで慌ただしいため、よほど意識を向けていない限り、AIで自動的に動く彼らが何をしているのか把握できない。彼らを一切意識しないまま戦えてしまうのだ。



 「FF15」は技の指令・連携攻撃と台詞の掛け合いの多さで共闘感を演出できていた。勿論、各々に装備・技・ステータスも存在した。オープンワールドを巡る際のどうでもいい雑談ボイス群も、今振り返ると「仲間が確かに存在している感」の演出に一役買っていた。
 ジョシュアやジル等、本作にはせっかく魅力的なNPCが登場する。にも関わらず、戦闘時と旅路における彼らの存在感が希薄になってしまったことは、本作が孕んだ大きな欠点と思えてならない。

× モチベーションが上がらない探索要素



 本作はオープンワールドこそ導入していないが、4つの広大なシームレスマップが存在する。それらは集落や美しいロケーションが点在しており、探索のしがいがある……と期待した。プレイして日が浅い頃は。



 フィールドに落ちている所謂「キラキラ」は大したことのない素材・小銭程度のお金ギル・時折回復薬といったものばかりで、途中から「収集は時間の無駄」と割り切って回収をやめた。
 ダンジョンやフィールドの各所に宝箱も存在するが、そもそも総じて背景に溶け込んでおり、存在を特定し辛い。更に中身も90%が素材、10%がアクセサリ等、といった具合だ。積極的にフィールドを巡って宝箱を探そう!といったモチベーションも起こらなければ、宝箱を見つけてもテンションが上がらなかった。せっかく美しくて広大なロケーションがあっても、単にチョコボで駆け抜けるだけの背景と化してしまったことが非常に惜しい。
 また、フィールドに蔓延る雑魚敵を倒すメリットもさほどない。経験値・アビリティポイントはサブクエストで十分稼げるし、レアドロップアイテムのようなものもない。レベル上げ・経験値稼ぎをせずとも進行に支障はないと気付き、やがて雑魚を無視してフィールドを巡るようになった。

終盤に拾った「キラキラ」でさえこの具合……。



 経験値・お金・アイテム・装備etc……。これらの報酬に対するモチベーションが上がらず、雑魚戦や探索等々の「RPGの冒険の最中に起こりうる一般的なイベント」の幾つかに楽しみを見い出せなかった件は、見過ごせない欠点と言えよう。


<総括>


 以上が俺の「FF16」1週目クリア後の雑感となる。
本当は余計なことを言わず、ただただ大絶賛をしたかった。「みんな、PS5本体と共に買って!ついでに4Kテレビ/モニターを導入して!それ程の価値があるから!」と言いたかった。それ程までに本作に期待を賭けていたからこそ、クリアした自分の感情に嘘は吐けない。
 楽しめる要素は確かに多く、本作ならではの魅力(召喚獣合戦など)も間違いなく存在する。だが、少なくとも本作は俺にとって、FFシリーズ史上最大の傑作とはならなかった。「ノットフォーミー」だったと言うべきだろうか。



 本作の世界的評価や売れ行き如何に関わらず、きっと「FF17」は発売されるだろう。FFシリーズは基本的に別チームによる並行開発が成されているため、既に企画は動き出しているはずだ。
 作中で語られたように、この世界FF16を「最後の幻想」とせず、次回こそ「究極の幻想」を見せて欲しい。いつ産み出されるやも知れぬ17番目の幻想を、俺は心待ちにしている。

タイトル回収の三段活用。この終わり方は凄く気に入っている。
最後に余談となるが、俺自身は上記書籍について「生存したクライヴによる仮託説」を採っている。
標題となったラスボスの言葉をジョシュアは聞いていない、クライヴの文筆活動がハルポクラテスのサブクエで示唆されている、フェニックスに蘇生能力はない(=クライヴは結局
ジョシュアを生き返らせられなかった)等々……様々な理屈は存在するが、きっとクリアした人の数だけ様々な解釈があるのだろう。


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