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過去の名曲に光あれ─ 「HERO」と「若者のすべて」

※人物名は敬称略にて表記しております。

 7月4日。Mr.Childrenミスチルのシングル曲「HERO」(2002年リリース)が、『ONE PIECE』109巻のイメージソングに起用された。

ずっとヒーローでありたい
ただ一人 君にとっての

※この動画には一部、
109巻の内容を含みます。
必ず109巻を読んでからご覧ください。

109巻発売記念MV - ONE PIECE×Mr.Children「HERO」〜きみの味方〜 概要欄より引用


 動画の注意書きに反し、俺自身は『ONE PIECE』を60巻程までしか読めていない状態にも関わらず動画を閲覧してしまった。その立場で偉そうなことは言えないが、得体の知れない不気味な敵だと捉えていた某キャラクターの半生と「HERO」の歌詞──親から子に向けられた愛情──が、奇跡的なまでに完璧なシンクロを果たしていたように思われる。ミスチルが主題歌(「fanfare」。2009年リリース)を担当した映画「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」よりも、楽曲と内容の一致度が高いのではないか……?とさえ感じてしまった程だ。
 なお、何と某キャラクターの初登場は、奇しくも「HERO」のリリース年と同じ2002年だったそうだ。キャラクターを創造した尾田栄一郎も、作詞を行った桜井和寿も、この両者が22年後に結び付くなんて考えてもみなかっただろう。
 そして、往年の両者のファンが懐かしむだけに限らず、原曲を知らない若年層に少しでも刺さる可能性がある今回の企画は、ミスチルファンとしても嬉しい限りだ。


 さて、時は少々さかのぼり、6月21日。ヨルシカのVol.suisスイがフジファブリックのシングル曲「若者のすべて」(2007年リリース)をカバーした。Netflixで配信中の映画「余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。」の主題歌に起用されたという。


 “最後の花火”というサビのフレーズが印象的で、歌詞も旋律も引っくるめた楽曲そのものが「去り行く夏」の象徴であるかのような名曲「若者のすべて」。この度のsuisによるカバー・映画主題歌抜擢に限らず、様々な場所から常に光が当たり続けている、類稀たぐいまれな一曲と言えるだろう。
 本作は桜井和寿のミスチル外活動・Bank Bandによるカバー(2010年リリース)を皮切りにほぼ毎年ペースで数々のアーティストに歌い継がれており、原曲自体もリリースから10年以上経過した2018・2021年にCMソングに起用されている。また、本稿を記す上で調べたところ、2020年にNHKにて、この楽曲を題材にしたドキュメンタリー番組まで制作されていたそうだ。“何年経っても思い出してしまう”という「若者のすべて」の歌詞は、楽曲そのものにも当てはまるかもしれない。


 かつてどれほどヒットチャートや動画再生回数ランキングを賑わせていた歌であっても、やがて時代の風の吹き溜まりで埋もれる運命にある。新進気鋭のアーティストが彗星の如く、そして絶え間なく現れているのだから当然かもしれない。音楽だけに限らず、「コンテンツが消費されるサイクルが年々速くなっている」との言説もよく耳にする。そして、「名曲」には遅かれ早かれ枕詞まくらことばが付されるだろう。「過去の・・・名曲」と。


 だが、たとえ「過去の名曲」と言われようとも、名曲であることに変わりはない。何年前にリリースされたとしても、何かの形で再度メディアに採り挙げられ、スポットライトが当たりさえすれば、その曲が持つ価値を改めて多くの人に知って貰えるはずだ。そう、「HERO」や「若者のすべて」のように。

 俺は決して懐古主義者ではないつもりだ。琴線に触れた曲は時代を問わず好きでありたいし、好きであり続けたい。「若者のすべて」の作詞・歌唱を行なった志村正彦が逝去した後のフジファブリックだって好きだし、ミスチルには「Tomorrow never knows」や「HANABI」等をも上回る程の知名度と売上を獲得し、社会現象にまでなり得る名曲がまた産まれることを期待している(あまりにハードルが高い要求だとは自認している)。


 つまるところ、好きなアーティストの名曲に対して新旧を問わず平等に光が当たり、それらが世代を超えて多くの人に愛されてほしいのだ。
 過去の名曲に光あれ。
 これは俺の単なるエゴであり、常に胸に抱き続けている切実な願いでもある。


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