見出し画像

2023年に観た映画 (85作品)を振り返る


 今年も通例通り、一年間で鑑賞し印象深かった映画について語っていきたい。
 noteで映画関係の投稿を始めて約三年目になるが、今年は例年ほど多くの作品を観れなかったことが非常に悔やまれる。それに伴いレビュー記事の投稿も滞っていたため、今回の記事で一気に振り返っていくつもりだ。

※部門は勝手に設定したものです。項目によっては「次点」があります。
※劇場鑑賞作品は26本(旧作再上映含む)、サブスク鑑賞作品は59本でした。
※個人的趣向により、鑑賞作品は娯楽映画に偏っています。
※役者・監督名は敬称略にて表記しました。
※過去の「年末映画まとめ記事」はこちら↓です。




◯鑑賞作品リスト・諸注意


<諸注意>
※鑑賞順に表記しました。
※過去に鑑賞済みの作品は「●」を付し、今回の選考からは除外しました。
※劇場で鑑賞した作品(再上映企画も含む)は太字にて表記しました。
※タイトル表記・制作年はFilmarks上のデータを参考にしました。
※映画並みの尺、あるいは劇場で上映されたOVA等の映像作品(例:「天使のたまご」「ガールズ&パンツァー 最終章」)も幾つか鑑賞しておりますが、以下のリストには掲載しておりません。

「DAICON FILM版 帰ってきたウルトラマン」(1983年)
「VERSUS ヴァーサス」(2000年)
「レッドソニア」(1985年)
「ネイビーシールズ ローグ・ネイション」(2021年)
「ニンジャ・アベンジャーズ」(2013年)
「THE FIRST SLAM DUNK」(2022年)
「耳をすませば」(1995年)
「On Your Mark」(1995年)
「アンビュランス」(2022年)
「鹿の王 ユナと約束の旅」(2020年」
「アントマン&ワスプ:クアントマニア」(2023年)
「サイコ・ゴアマン」(2020年)
「鋼の錬金術師」(2017年)
「ウィリーズ・ワンダーランド」(2021年)
「千年女優」(2001年)
「6アンダーグラウンド」(2019年)
●「ホワイトハウス・ダウン」(2013年)
「シン・仮面ライダー」(2023年)
「ブレット・トレイン」(2022年)
「浅草キッド」(2021年)
「レッド・ノーティス」(2021年)
「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」(2023年)
「オクトパスの神秘:海の賢者は語る」(2020年)
「夏への扉 ―キミのいる未来へ―」(2021年)
「チリンの鈴」(1978年)
●「男たちの挽歌 II」(1987年)
「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1「罪と罰」」(2019年)
「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」(2023年)
「クリーチャー・デザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち」(2015年)
「グリッドマン ユニバース」(2023年)
「無敵のドラゴン」(2019年)
「男たちの挽歌Ⅲ アゲイン/明日への誓い」(1990年)
「クリード 過去の逆襲」(2023年)
「狼/男たちの挽歌・最終章」(1989年)
「48時間」(1982年)
「狼たちの絆」(1991年)
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアンモンキー」(1993年)
「ザ・フラッシュ」(2023年)
「新・片腕必殺剣」(1971年)
「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」(2023年)
「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」(2023年)
「バイオハザード:デスアイランド」(2023年)
「君たちはどう生きるか」(2023年)
「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」(2023年)

「サーキットの狼」(1977年)
●「ゲド戦記」(2006年)
「劇場版 Gのレコンギスタ IV 激闘に叫ぶ愛」(2022年)
「リズと青い鳥」(2018年)
「劇場版 響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」(2016年)
「劇場版 響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ」(2017年)
「劇場版 Gのレコンギスタ V 死線を越えて」(2022年)
「劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」(2019年)
「バック・イン・タイム」(2015年)
「特別編 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト」(2023年)
「羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来」(2019年)
「トランスフォーマー/ビースト覚醒」(2023年)
「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」(1984年)
「MEG ザ・モンスターズ2」(2023年)
「るろうに剣心 最終章 The Final」(2022年)
「るろうに剣心 最終章 The Beginning」(2022年)
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(2022年)
「PATHAAN/パターン」(2023年)
「天狗飛脚」(1949年)
「おやすみ オポチュニティ」(2022年)
「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -」(2019年)
「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」(2020年)
「ジョン・ウィック:コンセクエンス」(2023年)
「グレイマン」(2022年)
「新少林寺/SHAORIN」(2011年)
「隔たる世界の二人」(2020年)
「劇場版 天元突破 グレンラガン 紅蓮篇」(2008年)
「イコライザー THE FINAL」(2023年)
「劇場版 天元突破 グレンラガン 螺巌篇」(2009年)
「ドミノ」(2023年)
「ゴジラ-1.0」(2023年)
「ANIARA アニアーラ」(2018年)
「沈黙のパレード」(2022年)
「CUTIE HONEY キューティーハニー」(2003年)
「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」(2023年)
「暴走機関車」(1985年)
「北国の帝王」(1973年)
「ウィッシュ」(2023年)
●「ファイブスター物語」(1989年)

●「花の詩女 ゴティックメード」(2012年)



◯ベストアクション(実写) 「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」



 総じて戦闘・アクションシーンが素晴らしい本作であるが、とりわけ洞窟内のドラゴン戦が出色の出来。骸骨の山が作り出す傾斜、床を吊るす巨大な鎖、その影響で不安定な足場……。あらゆる要素が必然性をもってアクションシーンに絡んでくる構成は見事と言う他ない。手塚治虫の『ブッダ』第一部ラストを想起させる、擬似長回しカットの「動物連続変身逃亡シーン」も印象深かった。


 次点、「ジョン・ウィック:コンセクエンス」。アクション映画シリーズの最高峰なだけあってどの場面も素晴らしいが、特に「大阪コンチネンタルホテル」厨房におけるケイン(ドニー・イェン)の立ち回りが面白かった。フィクションにおける「視力を失っている達人」は「視力を失った状態を一切感じさせない(見えている状態とさほど変わらない)動き」を披露するケースが多いが、ケインはしっかりと「視力が無いなりの戦術」を駆使しており、新鮮な殺陣を見ることができた。


◯ベストアクション(アニメ)  「羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来」


 本作は「能力バトルアクションものアニメ」の最適解とも言うべき映画だった。スピーディーかつダイナミックな動き・キャラクター達の能力の明快さと面白み・各々の位置関係把握のしやすさ……。どこをとっても魅力に溢れている。可愛らしい絵柄のキャラクターが所狭しと暴れ回る、そんな作品がお好きな方に本作は確実に刺さる。


 次点、「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」。全体的にはそれほど激しい動きがない上、比較的地味かつ陰惨な映画(褒め言葉。心を抉るような名作でした)ではあるが、中盤に訪れる裏鬼道衆vsゲゲ郎=生前の目玉おやじの迫力は半端でなかった。どことなく香港映画の味を感じさせる、連続性と爽快感のある素晴らしいアクションが拝めたことは大変印象深い。


◯ベスト主題歌 「THE FIRST SLAM DUNK」


 より、The Birthdayの「LOVE ROCKETS」。初っ端のベースの爆音、そして一つ一つ重なり合っていく各楽器に心を掴まれ、「これからとてつもないクオリティの作品が始まる気がする……!」との期待を抱かざるを得なかった。実際、本編自体も紛れもない傑作と言えよう。世間的には挿入歌兼EDテーマ:10-FEET「第ゼロ感」の方が流行しているそうだが、「LOVE ROCKETS」も今以上に聴かれてほしい。

↓本編レビュー記事。


◯ベスト挿入歌 「グリッドマン ユニバース」



 本作には複数の挿入歌があるが、特に「SSSS.DYNAZENON」の主題歌だった「インパーフェクト」を挙げたい。流れ出した瞬間、明らかに映画館の熱度が高まっていた。歌詞の内容・曲のテンションと場面が完全一致しており、「ベスト挿入歌」としか言えない素晴らしい使われ方をされていた。


 次点、「劇場版 天元突破 グレンラガン 螺巌篇」より「空色デイズ」。「TV版の主題歌は絶対に良い場所で流れるんだろうな……」と思っていたが、期待していた通りのとっておきの場面で使ってくれた。ロージェノム(筋骨隆々なおっさん。元敵かつヒロインの父)のテーマ曲みたいじゃねーか!とのツッコミは無粋か。
 なお、「夏への扉 ―キミのいる未来へ―」の「CROSS ROAD」をこちらに挙げることも考えたが、諸事情により後述させていただく。


◯ベストアバンタイトル 「るろうに剣心 最終章 The Biginning」



 作品を重ねる毎にアクションのクオリティが高まっていく「実写版るろ剣」シリーズ。ダンスのような剣戟(揶揄ではなく褒め言葉である)がシリーズの魅力となっているが、本作のアバンタイトルは三池崇史版「十三人の刺客」ばりのバイオレンスアクションに振り切れていた。耳を噛みちぎり、口に咥えた短刀で敵を突き刺し、次第に辺りは血の海に……。「人斬り時代の剣心」の脅威が一切の説明台詞もなく伝わる、完璧な掴みと言っても差し支えない名場面だった。


 次点、「PATHAAN/パターン」。「拘束された状態からの大暴れ」といった点では上記の「るろうに剣心〜」と同様だが、本作の場合はバイオレンスさよりも豪快な娯楽性に特化しており、映画全体が向かっていく方向性(ロジャー・ムーアやピアース・ブロスナン時代の「007」に近い)を堂々と示してくれた。


◯ベスト主人公 「イコライザー THE FINAL」


 より、ロバート・マッコールさん(デンゼル・ワシントン)。そもそも、「イコライザー」シリーズ最大の魅力はマッコールさんのキャラ造形にある……と俺は考えている。心に傷を抱えた元CIA職員であり、強い強迫観念から来るルーティーンに苛まれながら、心優しい市井の人々と共に生きようとするマッコールさん。社会で苦しみ虐げられる者には救いの手を、彼らを苦しめる悪には影から裁きの鉄槌を……。そんな「舐めてた相手が殺人マシンでした」キャラの最高峰とも言えるマッコールさんを「ベスト主人公」に挙げない理由はない。
 本作では「敵側視点によるマッコールさん」の脅威がより強調されており、「行きすぎた正義」ともとれる彼の行為を相対的にしてくれた。それでもなお「悪は断固として悪」として描かれ、マッコールさんが成敗してくれることによりカタルシスを得られるのが本作の良さである。


 次点、「ゴジラ-1.0」。中盤に訪れる「銀座の悲劇」以降、鬼気迫る雰囲気を発する敷島浩一(神木隆之介)が忘れ難い。終始苦しみを味わい続けた彼に、安息の時が訪れることを願う。

↓本編レビュー記事。


◯ベストサブキャラクター 「シン・仮面ライダー」


 より、「仮面ライダー2号」こと一文字隼人。準主人公をサブキャラクターと呼ぶのは誤りかもしれないが……。
 嫌味のない飄々としたニヒルさ、そして捨てきれない義理堅さが魅力的。バランス調整を一歩誤れば単なるキザ野郎と化してしまう恐れがあるが、そういった要素は一切感じられなかった。演者(柄本佑)の技量の賜物だろうか。作品そのものは少々歪な点が多くて両手を挙げた絶賛は厳しいのだが、この一キャラ造形に関しては全力で「素晴らしい!」と称えることができる。主人公:本郷猛=池松壮亮のアンニュイさも良いが、「ヒーローの佇まい」としては一文字隼人に軍配が上がった。


↓本編レビュー記事。


◯ベスト敵キャラクター 「THE FIRST SLAM DUNK」


 より、山王高校選手・河田雅史。試合前半で湘北高校に立ち塞がる彼が大写しになった瞬間、未だかつて映画鑑賞中に味わったことのない威圧感を覚えた。柔道部員だった高校生時代、「組み合った瞬間、いやそれ以前の時点で勝てないとわかる」オーラを発する選手を沢山目にした(俺が弱かったから感じただけかもしれないが)。川田から感じた印象はそれに近い。
 先程威圧感について書いたが、実際にはスクリーン上から質量までも伝わってきた。アニメから、ひいては映画から質量を感じたのは生涯初である。まことに刺激的な体験だった。


 次点、「北国の帝王」より車掌:シャック(アーネスト・ボーグナイン)。無賃乗車犯をハンマーで殴り(もしくは転落させ)次々に殺害していく車掌であり、主人公:Aエース・ナンバーワンのライバル的存在。言動も表情もとにかく恐ろしく、否が応でも「彼に逆らったら命はない」と思わされてしまう。

◯ベストドキュメンタリー 「クリーチャー・デザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち」



 フィル・ティペットやギレルモ・デル・トロ等々、錚々たるメンツが集った映画美術製作ドキュメンタリー。作り手の美術愛、プライド、そして多幸感が伝わってくる作品だった。
 「コマ撮り撮影職人」として「ジュラシック・パーク」に起用されたはずのティペットが、作品の大幅な方針転換(コマ撮りを廃しCGを活用する)に何を感じていたのか……?というセンシティブな話題にも切り込んでおり、長年気になっていた彼の切実な感情を知ることができた。この点だけでも本作の価値は大きい。「アナログとデジタル=特撮とCGは敵同士ではない、適材適所の問題」という帰着も素敵だ。

 次点、「おやすみ オポチュニティ」。90日間(火星換算)のミッションを全うする……はずが5000日以上も稼働し続けた火星探査ロボットの実話。事実は創作より奇なり。

◯サブスクで繰り返し観まくった特定のシーンがある 「グリッドマン ユニバース」


 より、「あの人」の登場+変身シーン。一応公式的な情報解禁はされているが詳細は伏せておく。情報解禁前に劇場で観れることができたため度肝を抜かれた。
 Amazonプライムビデオによる無料配信開始後、俺はこのシーンを何度も自宅で見直してニヤニヤしている。この際の表情を絶対に他人に見られるわけにはいかない。


 次点、「リズと青い鳥」の主人公二人に関わる「大好きのハグ」のシーン。特に中盤、みぞれが希美にハグを拒否される場面は何度も何度も繰り返し再生した。割れ鐘のようで不安なピアノの劇伴が緊張感を盛り立てる。決して心地良い場面ではないはずなのに、俺は何故このシーンを繰り返し観たのだろう?
 後述する通り「リズと青い鳥」は俺の人生におけるベスト級の映画であったが、その良さの本質・どこに魅力を感じたかを上手く言語化できず、感謝直後にレビュー記事を書くことができなかった。

◯掘り出し物! 「チリンの鈴」




 本作は「アンパンマン」のTV放映が始まる約10年前に劇場公開された、やなせたかし原作による絵本のアニメ映画化作品である。信頼できる筋の方がSNSで絶賛していたことを受けて鑑賞したが、とてつもなく骨太な一本だった。絶賛評を知るまで作品を知らなかったため、今年最大の「掘り出し物映画」と言わせて頂きたい。
 両親を殺害された仔羊のチリンは、あえて両親の仇の狼へ弟子入りし、彼を殺すために修羅の道を歩む……。そんな本作は壮絶な復讐譚であり、チリンと狼の間に芽生えた不思議な絆──いわばストックホルム症候群を扱った物語でもある。決して単純明快な娯楽作ではないが、心の底から観てよかった……と思える程の内容だった。
 台詞やナレーションのパンチが妙に効いていたことも印象的で、本作が只者ではない作品だと端的に伝えてくれた。その一部を以下に紹介する。

「死ぬか生きるか、ここは戦いだけの世界だ」
「僕も貴方と一緒に地獄へ行こうと決めたのだ」
「気●いのように突進するチリンの姿は、まるで悪魔のように凄まじかった※」
「故郷など俺にはない。あるのは獲物を求める血潮だけだ」

※作中では伏字なし。当時は禁句扱いではなかったのだろうか?


 次点、「天狗飛脚」。こちらも信頼できる筋からの絶賛を受けて鑑賞。べらぼうに脚が速い飛脚が主人公の痛快人情時代劇で、少々強引ながらも「脚」だけで全てのトラブルを解決し迎える大団円はカタルシス抜群。爆走シーン同様に作品のテンポも非常に良く軽快。令和の時代でも通用する娯楽作品だった。
 なお、本作は俺がこれまで観てきた邦画の中で最古の作品(1949年公開。次点は1954年公開の「ゴジラ」)となる。タイトルロゴ脇に、GHQによる検閲済みマークが付いており驚いた。


◯名台詞! 「千年女優」


 クライマックスより、「だって私、あの人を追いかけてる私が好きなんだもの」。主人公:千代子さんの人生の総括とも呼べる台詞だ。その愛は狂気的だったかもしれないが、爽やかな余韻を俺に与えてくれた。


◯思わず真似したくなる! 「サイコ・ゴアマン」


 より、主人公:ミミさんが時折発する「Crazy Ball!」(彼女が考案した「謎球技」の名称)。カタカナ表記すると「クッッレイズィーボォォール!」。発音の耳馴染みが妙に良いため、つい独り言で真似しそうになってしまう。
 ミミさんは思わず「さん」付けしたくなる程に強烈なキャラクターなのだが、悪役的な印象が強すぎるので「ベスト主人公」からは省かせて頂いた。許して下さい、ミミさん……。

↓「クレイジーボール」ルール説明動画。ミミさん同様、子ども時代「謎スポーツ」を作った経験がある方も多いはず。


◯ミスチルファンから一言! 「夏への扉 ―キミのいる未来へ―」



 一応紹介しておくと、本作は有名SF小説『夏への扉』を基にし、舞台設定を日本に置き換える等のアレンジを加えた映画である。映画自体の評価はさておき、一介のMr.Childrenミスチルファン(オタク)として、要所要所で挿入歌に使われる「CROSS ROAD」の引用の上手さ、そして最終的な勿体無さについて記しておきたい。


 物語が展開される1995年当時の日本において、ミスチルは前年に「innocent world」「Tomorrow never knows 」等の絶対的ヒット曲を発表し、第一次黄金期を迎えていた。そんな中、本作のヒロインは更に一昔前のヒット曲「CROSS ROAD」(1993年末にリリースされた、ミスチル初のミリオンヒットシングル)を繰り返し聴き続けている……との描写が成されている。この点だけでも興味深いキャラ付けが出来ているし、「インモラルで気まずい歌詞」を意中の人と一緒に聴いた際のリアクション等、楽曲使用シーンにおける物語や演出とのリンクが上手く機能している。既存曲の使い方としては非常に理想的だ。
 ……しかし、残念ながら途中からミスチル要素が完全消滅。重要アイテムと言えるはずの音楽プレーヤーも劇中終盤で完全に放置され(半ば捨てられ)、せっかく積み重ねてきた丁寧な演出が無駄と化してしまったように思える。まるでヒロインを捨てるかのような描写となっており(実際はその真逆なのに)解せない。せめてエンディングテーマとして流してくれれば納得したものの。


◯あらすじ最高! 「北国の帝王」


<「北国の帝王」あらすじ>

 巨匠ロバート・アルドリッチ監督が描く究極の男のロマン!男と男の魂が激突する命がけの闘い!
 1933年、アメリカ大不況のさなか、列車に無賃乗車しながら移動する“ホーボー”たちの存在を、オレゴン州ウィラメット・バレーを通過する19号列車の鬼車掌シャックは決して許さず、非情な鉄槌を下し続けている。しかし、Aナンバーワンだけは常に彼の裏をかいては19号列車に乗り込み、周りから“北国の帝王”と崇められていた。
 そんなある日、彼の王座を狙おうと、若いホーボーのシガレットが行動を共にするようになるが……。

20世紀スタジオ公式サイトより引用。


 ……如何だろうか、このあらすじ。無賃乗車犯に鉄槌(物理的)を下す鬼車掌:シャック、彼に挑む主人公:「北国の帝王」ことAエース・ナンバーワン。ネーミングセンス(「A・ナンバーワン」が異名なのか本名なのかは作中で判断できず)も相まって、期待を抱かざるをえないあらすじだ。観ない理由が存在しない。
 映画本編も決してあらすじ負けしない良作だった。「午後のロードショー」辺りで放映され、多くの方に知れ渡ってくれたら嬉しい。

◯早く続きを! 「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」



 スパイダーマン大集合アニメ「スパイダーバース」二作目。本来はさほど間を置かず三作目「ビヨンド・ザ・スパイダーバース」が公開される予定だったはすだが、米俳優組合ストライキの影響で延期してしまったようだ。
 本作は「ビヨンド〜」の公開を前提とした「前編」的な映画であり、クリフハンガー展開+続きに期待を持たせる内容で締め括られている。その期待値があまりにも高まりすぎて我慢ができない。本作中ではさっぱり出番がなく「一作目でお役御免か……?」と思われたペニー・パーカーちゃん(ジャパニメーション的な絵柄の日系人スパイダーマン。ロボに乗って戦う)の活躍にも期待できそうで嬉しい。


 次点、「PATHAAN/パターン」。作中の「列車脱出シーン」でも示唆された通り、今後「インドスパイアクション映画ユニバース」的な作品群が製作される予定らしい。未履修の過去作を追いかけながら、主人公達の新たなる活躍を待ちたい。さぞかし賑やかで楽しい娯楽作になっていることだろう。


◯恐ろしすぎる 「ANIARA アニアーラ」


 本作を凄くざっくり喩えるならば、「ウォーリー(ディズニー/ピクサー)が来なかったアクシオム号の成れの果て」を描くSFホラー映画である。
 直接的なゴア描写も恐ろしいのだが、じっとりとした精神的な追い込みがとにかく辛い。「宇宙を永久に漂流するしかない」という極限状況の中で乗員は正気を失い、完璧かつ簡単であったはずのインフラ維持さえ行われなくなり、船内はゴミで溢れ、水はよどみ、光は失われる……。人心と世界が荒んでいく過程にリアリティがあり、尋常でない恐怖感を覚えた。鑑賞後に心底暗い気分に陥り、食事さえ喉を通らなかったのは、本作が優れたホラー映画だった証だろう。


◯珍作 「CUTIE HONEY キューティーハニー」


 監督:庵野秀明がアニメ的表現を実写映画に落とし込もうとした意図(絵コンテに沿ったアクションシーン等)は凄く伝わる。だが……ごめんなさい。あらゆる場面の演出が不自然で「演技の段取り」が目に見えてしまい、上記の試みは完全に失敗していたと感じざるを得ない。即興的に撮ったシーンが多いらしい「シン・仮面ライダー」とは真逆の方向性に思え、本作の出来に対する反省や後悔があったのだろうか?と邪推してしまった。
 それはそうと、本作は大暴れする片桐はいり(怪人)・ヤケクソ気味にカラオケをする市川実日子・巨大化する京本政樹……等々、妙にネタ要素が多かったため「珍作」とさせて頂いた。未見の方も多いと思われるが、観れば必ず記憶に焼き付くはずだ。


 なお、本作はOP等の要所要所で「天元突破グレンラガン」「キルラキル」「プロメア」を手掛けた今石洋之によるでアニメパートが挿入されており、非常に見応えがある。どうやらこのアニメを発展させたOVAが作られていたらしく、こちらは真っ当に面白そうな気配がする(総監督:庵野秀明、シリーズ構成:中島かずき。今石洋之も監督として参加)。いずれ観たい。


 次点、「無敵のドラゴン」。格闘アクション映画…・であったはずだが、ラストバトル衝撃的すぎる展開が訪れる。その情景を、あえて絵文字で説明したい。

🐉🐉🐉🐉🐉🐉🐉🐉🐉

 ……今「何言ってんだこいつ」と思われた方も、本編を観れば高確率で納得して頂けるはずだ。
 それにしても、主演:マックス・チャンには作品に恵まれてほしい。「イップ・マン外伝 マスターZ」並みの名作にもっと出て欲しい。本当に華があり、もっと世に知れ渡るべきアクションスターと思っているので。


◯2023年サブスク鑑賞作品No.1  「リズと青い鳥」


 2023年夏以降、俺のマイブームは「響け!ユーフォニアム」だった。TVアニメを一気見し、原作小説を買い揃え、京都駅構内の京アニグッズ売り場に通い、劇中使用楽曲を幾度も聴き……。そのきっかけは本作(「響け!〜」の先輩キャラクター二人のエピソードに焦点を絞ったスピンオフ)を観たことに始まる。


 「響け!〜」本編を未見の状態で本作を見た理由は、本作があの・・吉田玲子脚本担当作品だったためだ。俺は「若おかみは小学生!」を観てからというもの、脚本家:吉田玲子に圧倒的な信頼を置いている。その状態で猛烈に高まっていたハードルを、本作は易々と超えてくれた。人生で鑑賞した約1600作品の作品中、TOP20に入るほどに素晴らしい名作だった。


 本作は今年俺が鑑賞した作品中でも、最大級に地味と言ってよい。人は死なない。刺激的なアクションがあるわけでもない。音楽映画らしい大規模なコンサートシーンもない。人が叫んだり泣いたりするエモーショナルな描写もほぼない。そもそも、本編内で発生するイベント数自体が異常に少ない気がする(作中に登場する物語「リズと青い鳥」のアニメパートに時間を割いている影響もあろう)。


 中心的に描かれるのは、二人の吹奏楽部員:みぞれと希美の交流── 友情、愛情、愛憎。掛け合いを担当するからこそ浮き彫りになってしまう実力の差。隠し通せないコンプレックス。選ばれなかった者の苦悩。「青春の一ページの表と裏」とも呼べる物語が展開されていくが、絵柄の透明感と落ち着いた演技(「響け!〜」本編よりも抑えめ)のお陰か、不快感を抱くことなく物語を堪能することができた。
 結局、二人のコミュニケーションは微妙に噛み合わないまま終わる。それでも幸福そうな笑顔を浮かべるみぞれの姿が、強烈かつ心地良い余韻を俺に残した。そんな本作が、今年のサブスク鑑賞作品No.1だ。公開時にリアルタイムで鑑賞しなかったことが悔やまれる。




◯2023年劇場鑑賞作品No.1  「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」


 俺はTVゲーム──とりわけRPGロールプレイングゲームと共に生きてきた。幼少期にSFC版「ドラゴンクエスト3」を遊んで以降、約30年間もひたすらRPGを遊び続けてきたことになる。そんなTVゲームRPGの元祖がTテーブルトークRPG、とりわけ「ダンジョンズ&ドラゴンズ」であると知ってはいたものの、中々触れる機会が無いまま日々を過ごしてきた。なのでこの度の映画化は、俺にとって最高の「ダンジョンズ&ドラゴンズ」入門編であったように思える。


 本作はド直球の王道ファンタジー映画であると同時に、娯楽映画として非常に優れていた。「ネバーエンディングストーリー」「コナン・ザ・グレート」「ロード・オブ・ザリング」「ハリーポッターと賢者の石」……といった過去の王道ファンタジー映画と肩を並べるほどの傑作、と言って差し支えないだろう。


 「塔型刑務所」や「立体迷路搭載型コロシアム」等の魅力的なロケーション。「ここそこの杖」等のクセのあるアイテム。お調子者の吟遊詩人バードをはじめとする魅力的なパーティ。それらが織りなす冒険の旅はとにかく楽しく、三十路過ぎの男である俺の胸をも躍らせてくれた。「冒険にワクワクさせられる」体験は、TVゲームRPGでも滅多に味わえるものではない。幼い頃にドラクエを遊んだ際、脳内で繰り広げられていた妄想にも等しい多幸感を与えてくれた本作が、今年の劇場鑑賞作品中ダントツのNo.1だ。



 以上で、2023年の映画鑑賞総括を終えたい。来年も劇場・サブスク共々、心に残る映画に沢山出会えることを願っている。

この記事が参加している募集

映画感想文

映画が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?