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夏に聴きたいMr.Children──「少年」を語る



1、思い出の夏ソング達

 “夏に聴きたい曲”といえば、高校時代に聴いていた“夏ソング”ばかり思い浮かぶ。
 当時聴いていた印象深い歌を挙げると、例えばthe pillowsの「白い夏と緑の自転車 赤い髪と黒いギター」フジファブリックの「若者のすべて」サザンオールスターズ…は挙げたらキリがないが、特に「涙の海で抱かれたい」。高校時代はiPhoneはおろかiPodすら持っていなかったので、これらをMDで聞いていたことも思い出深い。




 そんな思い出の中には当然、大好きなMr.Children(ミスチル)がいる。記念すべき1stシングルの「君がいた夏」。そしてドラマ「コード・ブルー」の主題歌として人気を博した名曲「HANABI」。またカップリング曲の「1999年、夏、沖縄」「夏が終わる 〜夏の日のオマージュ〜」も、曲名通り夏を主題にした歌として印象に残っている。




 以上に挙げた歌も良いとは思うが、“夏に聴きたい曲”をどうしても一つに絞らなくてはならないとすると…個人的には高校二年生の時に発表された「少年」(2008年12月発売「SUPERMARKET FANTASY」に収録)を強く推したい。


2、「少年」の思い出


 「少年」はNHKで放送されたドラマ版「バッテリー」(2008年4-6月)の主題歌となった、夏の終わりを感じさせる歌詞と“ロックバンド”ミスチルの面目躍如ともいえる激しいメロディが魅力的な曲である。個人的にはミスチル全曲の中で五本の指に入る程の名曲だ。
 この曲が聴きたいが為に俺はドラマを視聴していた。主題歌として流れるのはラストの大サビのみ、という非常に惜しい構成であったが、回によっては挿入歌扱いとなり曲がAメロから使われていた。俺はドラマそっちのけで歌詞とメロディを聞き取ろうと躍起になりながら、正式な音源化を今か今かと待ち望んだ。


 2008年の夏季、ミスチルは「GIFT」(7月)「HANABI」(9月)を立て続けにシングルとしてリリースしていた。しかし、4月に公表済みの「少年」はシングルカットされる兆候がさっぱりみられない。
 俺は歯がゆい思いをしていた。夏をイメージした歌を夏に聴くことができないなんて…!結局このままシングルは発売されず、音源化は2008年12月のアルバム発売を待つことになる。




 ──待ちに待った2008年12月、遂に「SUPERMARKET FANTASY」の発売日が訪れた。世間はクリスマスが近づく時候。しかし俺の心は「少年」によって、夏へと誘われていた。


3、「少年」の魅力



 先に述べた通り、「少年」は明確に夏をイメージした歌である。以下に一部分を引用するが、全文はこちらをご参照頂きたい
 なお、公式の動画(PV)は残念ながら存在しない。俺の文章だけで、この歌の素晴らしさを上手く伝えられるかどうか不安である。

“ひまわりが枯れたって”“蝉が死んで行ったって  熱(ほて)りが取れなくて”
“僕の中の少年は汗まみれになって 自転車を飛ばして君に会いたいと急ぐ”



 さて、この曲で歌われるのは“ただの夏”ではない。楽しく希望に満ち溢れたものではなく、その終わりを予期させる非常に切ないものだ。
 また、歌われているのは季節感ばかりではない。

“君のその内側へと僕は手を伸ばしているよ”
“できるだけリアルに君を描写したいと思う”



 考え過ぎかもしれないが、この辺りの歌詞は隠語的に異性との関係に踏み込んでいるようにも思えて、どこか官能的だ。
 ただ、この“君”が異性を指すのか、また「バッテリー」の劇中で描かれるような友を指すのか、或いは自分自身を指すのか…それはリスナーの受け取り方次第だろう。
 ちなみに、自分と対峙する歌はミスチルの十八番である。以下に参考例を挙げたい。

“窓に反射す(うつ)る哀れな自分(おとこ)”
“いいだろう?mr.myself ”  
───「innocent world」

“僕を走らせてくれ 僕の中にある「es」” 
───「【es】〜Theme of es〜」

“胸の中の洞窟に住み着く魔物”
“甘えていた鏡の中の男に今復讐を誓う” 
───「優しい歌」

“僕だけが行ける世界で銃声が轟く”   
───「Starting Over」



 様々な表現を用いて、ミスチルは自己と向き合う歌を作り続けている。解釈次第では「僕の中の少年」も「君」も、やはり自分自身を指しているのかもしれない。





 歌詞だけではなく、「少年」はメロディも素晴らしい。音楽論に疎い俺はロッキンオンジャパンのような解説をできないので、ボキャブラリーの少なさはご承知願いたい。
 「SUPERMARKET〜」がリリースされた頃のミスチルはストリングスやキーボードばかりが強調されがちだった(この傾向は2012年発売のアルバム「[(an imitation) blood orange]」まで続く)が、「少年」はこの時期には珍しく、間奏でミスチル史上1、2を争う程に格好良いギターソロが拝める。ギタリストの田原健一氏が奏でるメロディはシンプルながら味わい深く、激しさの中に郷愁を感じる。まさに絶品だ。



 いつかライブでこの名曲を直接体感したいが、なんと2009年に開催されたツアー「 〜終末のコンフィデンスソングス〜」の一度しか披露されていない。ツアーに行く度にセットリストに加わっていることを願うものの、十年以上経過した今でもこの願いは成就していない。

 いざ実現した暁には、そのツアーが春夏秋冬のいつ開催されたとしても、俺の気持ちは夏へと誘われていくことだろう。高校二年生の冬、心に夏を感じたように。

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