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結婚式は誰のもの?

このエッセイは記事の3分の1を無料公開しています。このエッセイの概要や書いた理由、購入された方からいただいた感想は次の記事「自分の過去をなかったことにせず、認めて前に進むと起こること」をご参照ください。

 私と韓国人夫は人生で2度、結婚式を挙げている。2人とも20代の頃、それぞれ別の人と所帯を持ち、私は3年、彼は6年で結婚生活に終わりを告げた。

 学生時代から付き合っていた男性と結婚することになった時、新幹線で2時間ほど離れた相手が暮らす街に引っ越すため、私は仕事を辞めた。いわゆる寿退社というやつだ。

 結婚式は多くても50人くらい、家族・親戚・親しい友人たちだけを招いてこじんまり済ませたかったこともあり、新居の近くにあった山の上のレストランでガーデンウェディングを行うことにした。ところが、新郎側の職場が近かったため、職場の上司を一切招かないというわけにもいかず、1人招いたら「あの人もこの人も」と増え続け、最終的には90人近く招くことになってしまった。

 さらに、当初やる予定ではなかった2次会も、結婚式に招くことができなかった新郎の職場の人たちを招くという名目で、私の知らぬ間に開催されることが決まっていた。

 私の家族や親戚、友人たちは皆、新幹線や飛行機に乗って来てくれる予定だったので、夕方から夜にかけての披露宴が終わった後は、みんなの泊まる宿舎を訪れてゆっくりお茶でも飲みながら話をしたかったのだが、22時頃に始まった2次会を終え宿舎に戻ったのは、午前1時を過ぎた頃。翌朝、北海道から祝辞を述べに駆けつけてくださった大学時代の恩師を駅まで見送ろうとロビーに行くと、もうすでにチェックアウトされた後で、直接お礼を告げることもできなかった。

「え、あのレストランで結婚式したの?花火も上がるところでしょ」
 
 誰一人知る人がいない街での暮らしが始まり、少しずつ親しい人が増えてきた頃、その街で生まれ育った女性に「どこで結婚式挙げたの?」と聞かれ答えると、冗談とも本気ともつかない哀れむような反応が返ってきた。「あそこで結婚式した人たちってさ、結構みんな離婚してるんだよね」と。その人の言葉通り、私は3年でその街を去ることになった。

 でもそれは、その曰くつきのレストランで結婚式を挙げたからじゃない。ロケーションも料理も抜群だったし、サービスで花火まで上げてくださって感謝しきれないくらい。担当してくれたウェディングプランナーさんは今でも忘れられないほど最高に素敵な女性だったし、彼女のおかげで意見の食い違う新郎、新婦は婚約破棄をせずに済んだのだ。

 「招待状は両家の父親の名前で出したい」という新郎と、「招待状は新郎と新婦の名前で出したい」という新婦。双方まったく譲り合う姿勢を見せない2人を前に、プランナーさんが提案してくれたのはこうだった。

 「招待文の後に両家のお父様のお名前を書き、その次に新郎・新婦からの言葉を添えて、最後にお二人のお名前を書かれたらどうでしょうか?」

 それなら、と私が折れる形でその折衷案を採用し、無事招待状を発送したのだが、結婚式の準備をしながら私が感じた違和感は式当日にもいたるところで形になって現れることになり、悲しいかな、結婚後も違和感は大きくなるばかりで消え去ることはなかった。

 こんなこと思い出したのは、今朝、結婚式に関するある記事を読んだからだ。

 記事を要約すると、2024年7月に結婚式を挙げたばかりの25歳の女性が「半年間の準備期間、夫婦共に疑問を抱いたり、モヤモヤすることが多かった」ため、結婚式で定番のブーケトスはやらず、WEB招待状を作成。ご祝儀はPayPay、写真はGoogleで共有。お互い苗字を変えずに済むよう事実婚を選択したという。

 また、「今まで生きてて、短期間でこんなにジェンダーバイアスを感じたのは結婚式が初めてだった」とも告白。ジェンダーバイアスとは、「男らしさ」「女らしさ」など男女の役割を勝手にきめつけてしまう偏見のことで、例えば、WEB招待状の自己紹介は男性が先、女性は後の方がいいとか、謝辞は2人で言うのではなく新郎が言った方が締まるとか。何かを決定する時、最終的に新郎側に許可を求めるニュアンスの場面が多い、など。さらに、新郎の父が一番上、親族の配席などでも家父長制を強く意識させられたそうだ。

 これを読んで、16年前の最初の結婚の時に感じたさまざまな違和感を思い出さずにはいられなかった。私の場合は、もう最初から結婚観が違っていたのだ。「招待状を両家の父親の名前で出したい」という発言からもわかるように、相手は「女は育った家を出て男の家に嫁ぐもの」という考えを持つ、家父長制を絵に描いたような家庭で生まれ育っていたのだから。

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