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『君たちはどう生きるか』の映画感想まとめ

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『君たちはどう生きるか』についてのすてきな映画感想をまとめるマガジンです。 #君たちはどう生きるか
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#宮﨑駿

宮﨑駿と夏目漱石

 宮﨑さんと漱石。  この二人について語るファン、研究者は多くない(少なくもないが)。実は結構、宮﨑さんに影響している作家の一人である、漱石は。  宮﨑駿と宮沢賢治、手塚治虫、サン=テグジュペリ、ゲド戦記、砂の惑星…、堀田善衛、堀田善衛から宮﨑作品を語る人も少ない。  おそらくきっと、「純文学作品」とされるものと、ファンタジーを作る宮﨑さんを、結びつけるのは難しいのだろう。  …夏目漱石は、と言えば、書くたびに作風(文体)を変える作家で、中には「幻想文学」のようなものも

ぼくたちは次にどの作品を観るか?

先日のブログでは、このたび 宮﨑駿さん監督映画のブルーレイ作品集を購入いたしまして、 せっかく購入したからには、ジブリ作品を あんまり観たことがない一緒に住んでいる母とも 観ようと思い、まずは何を観るかを母と話し合いながら 『崖の上のポニョ』を観たことを申しました。 ここで『ポニョ』を選んだ理由としてはね、母はこのごろ、 昨年地元ケーブルテレビ局で放送されていた 『フランダースの犬』及び、現在放送中の 『あらいぐまラスカル』のアニメを好きで観ていて、 その流れで「パトラッシ

君たちはどう生きるか から一年。

映画終盤、純白の積み木が登場する。 異世界の創造主いわく、それが世界を形作っているらしい。 このメタファーは、監督が、スタジオ近くの幼稚園の子どもたちを見ながら思いついたのではないだろうか? ドキュメンタリーを観ながら、そんなことを思った。 映画初見中、自分は、友達とサッカーをして過ごすのが好きだったが、一方で時々(なぜかは覚えていないが)、幼稚園の室内で積み木をしていたことを思い出した。 「この丸いのどこで使えばいいんだろう?」 「この三角二つ並べて、上に横長い四角の置

【後編】校閲記者がうだうだ考える「宮崎駿」と「宮﨑駿」

前編はこちら▼【以下後編】字体統一のメリットとデメリット新聞のルールで名前の字体を変えた結果、その人が普段使っている表記や他のメディアでの表記と異なることで、「同じ人物」を指すことが分かりにくくなってしまうとすればデメリットと言わざるをえません。 新聞は「分かりやすい」記事を旨とします。普段「臺」を使っている人の名前を「台」にすると、字体は「分かりやす」くなりますが、「臺」と「台」が〈字体が異なる同じ字種である〉という知識を読者に要求する、という点では「分かりにく」くなって

【前編】校閲記者がうだうだ考える「宮崎駿」と「宮﨑駿」

「宮﨑 駿 監督作品」泣く子も黙るスタジオジブリ作品「君たちはどう生きるか」が公開された2023年夏、校閲部内(の一部)に動揺が走りました。 宮崎駿が「たつさき」になっている…ざわ…ざわ アシタカ「じいじ、何だろう」 じいじ「分からぬ。人ではない」 アシタカ「村の方はヒイさまが皆を呼び戻している」 じいじ「来おった……タツサキだ!!」 アシタカ「タツサキ!?」  ♪ デッデー、デデデッデー 映画ポスターの監督名表記がこれまでの「宮崎駿」から「宮﨑駿」にさりげなく変わって

海外へ向けて説明したい『君たちはどう生きるか』のポイント

とあるご縁から、海外向けに『君たちはどう生きるか』の記事を書くことになった。バイリンガルの翻訳家と一緒に映画を鑑賞し、どんなポイントが海外の方にとって伝わりづらいかを話し合ったのだが、いつもと違う視点と考え方で、新鮮かつ非常に面白い。 そこで英語に翻訳される前の日本語記事(少し日本用に整えたもの)を下記に掲載してみた。日本人による日本の解説は「当たり前」と思われる部分もあるかもしれないが、本来は海外向けであるので広い心で読んでいただきたい。 ▼ここから記事(翻訳前) 宮

岩倉博『吉野源三郎の生涯 平和の意志 編集の力』 (2022、花伝社)を読む

吉野源三郎と言えば児童小説『君たちはどう生きるか』の作者であり、その作品が宮﨑駿監督作の映画の発想の元になったことでその名も改めて周知されることになった。改めて、とあえて記述したのには意味がある。本書を読むと第二次世界大戦後の日本社会において、吉野がいわゆる進歩的知識人・言論人・編集者・作家として歩んだ生涯の足跡の大きさ、もっと言えば偉大さを感じる。しかし、私自身は宮﨑監督作を観るまでは、これまで特に吉野自身に注目したことはなかった。不勉強ではあるが、1981年にその生涯を閉

【6500字無料】鳥と飛行機——『現代思想』の『君たちはどう生きるか』特集を読む(2)

*Kindle Unlimited でもお読みいただけます!! 雑誌『現代思想』の『君たちはどう生きるか』特集について、紹介しつつ、特集についての感想&映画についての感想を喋ったダイアログです。 0〜5の全6回の記事に分けてお届けします。 (今回は第2回! この記事だけでも読めます!) 第0回『現代思想』とは? 第1回 自己模倣する宮崎駿 第2回 鳥と飛行機(この記事です) 第3回 『君たち』小説版とジブリ映画版の比較 第4回 『さみしい夜にはペンを持て』を『君たち』と読

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#45【劇評・賛】『映画窓ぎわのトットちゃん』(ネタバレあり)

観てからずいぶんと時が経ってしまいました。 言わずと知れた大ベストセラー『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子/講談社 講談社HPへリンク)のアニメ映画化作品です。 子どももおじさんも口紅を付けたようなキャラクターデザインに最初はびっくりしましたがすぐになじみました。母に聞いたら昔の少女向けイラストはこういう感じだったそうです。『赤い鳥』(広島県立中央図書館HPへリンク)や、『きいちのぬりえ』(小学館HPへリンク)のイメージでしょうか。 映画として素直にすごくよかったです。原作

[日記]【‘‘漂泊の抄’’】

先日、宮崎駿氏の「君たちはどう生きるか」がゴールデングローブ賞を受賞した。 ゴールデングローブ賞の特徴というのは、エンターテインメント性や華やかさを重視する傾向にある作品に与えられる作品であり、アカデミー賞の前哨戦とも呼ばれている。 「君たちはどう生きるか」についての考察、感想は私が以前に書き記したものを参照して頂けると、お分かりになると思います。 *『揺蕩う素養』Ⅳ.心の遍在/参照↑ ゴールデングローブ賞の作品の特徴としては、前述の通りでありますが、アカデミー賞の特徴

2023年ベスト映画 トップ10

劇場公開から配信までの間隔がどんどん狭まって、年末には9月公開くらいの映画ならば(特にU-NEXT)配信で観れちゃうようにはなってるのだけどこうして振り返ると劇場鑑賞のインパクトはやっぱ強い。来年は恐らくここまで映画館には行けなくなるはずなので、このトップ10を大事に噛み締めます。 10位 正欲 欲望が共有されない寄る辺なさ、欲望を共有することで生まれる信頼、という点でとても根源的な問いにまつわる話として観た。新垣結衣が凄い。スクリーンに映ってるのが誰か分からなくなるガッ

【めんどくせえな】タタリ神…

人間が自分と向き合い続ける時… 狂うようなことが起こるのは 分かるような気がします 人間を生きている人間が どう生きるかを問い続け 何で生きているのかを問い続け 何歳になろうが問い続ける姿勢 そしてその時には 必ず誰かしらが関わっている背景 色々な生き方があることを 有名な方々は教えてくれます 誰ひとりとして 同じ生き方はできません 誰ひとりとして 同じ体感覚はありません けれどわたしたちは 思っている以上にこのことを 許せない生き物のような気がします… 個人

プロフェッショナル仕事の流儀「宮﨑駿」感想記「わかることと、わからないこと」

わかりにくい映画についてのわかりやすい番組だった。決して不満ではない。一瞬たりとも目を離さずに見終えた。そんな番組はそんなにない。 番組を見ながら、色々なことをグルグルと考え続けた。そんな時間も嫌いではない。 満足もあり、不満もある。不満というか、納得できない気持ち、というのだろうか。うまく書けるかわからないけれど、何かを書いてみたいと思う。そんな気持ちになる番組も久しぶりだから。 番組は「君たちはどう生きるか」ができあがるまでの2399日。あの、極めてわかりづらい映画のメ

20231219長い通夜

noteのアイコンにしているのは、私が高校生の頃に撮った、母方の祖父母の家で飼っていたコーギーだ。物心つく前からそこに居た彼はチャンピオン犬で、小麦色の毛並みが本当に美しくて、つやつやの目をしていた。名前をごんちゃんという。母の兄、私にとっての叔父が無許可で飼ってきたもので、赤ちゃんの頃は耳が折れていた。かなりの食いしん坊で、食パン一枚まるまる祖母からもらっている様子を見たとき正直引いた。 ごんちゃんには相方が居た。母の妹、私にとっての叔母が飼っていたパピヨンのポコちゃん。