見出し画像

プロは「世界観」をどうやって作るのか

創作でちょうどよい「世界観」を作る方法

世界観を作るというのは、いろいろな分野で求められているものの、避けられているものでもある。

デザイナーにとって、クライアントから言われる「世界観」というのは死刑宣告みたいなものだ。
クライアントから「うちの世界観を表現してくれ」とだけ言われた日には、それでいてしかもリテイクが理不尽な相手なら、ぶん殴りたくもなるだろう。

ほとんどが過剰設定

専門学校では授業として世界観を構築することもある。
創作を行う分野にとって、これは重要なことのひとつには違いない。

ところで専門学校の低学年あるいは初期段階の世界観の授業を見てみると、特に漫画やストーリー考案が必要な学科においては「なるべく簡単にしろ」ということが徹底されている。

5つほどのその手の専門学校等の授業内容に参加あるいは見学したところ、すべてにおいてそうだった。

どこも「より設定を増せ」なんてことは無いのだ。

そう、学生や生徒といった類の人々に世界観を求めると、ほとんど設定過剰、あるいは好きなところだけすごい膨らんでしまう等などで崩壊してしまうのがオチだ。

学生はストーリーテラー(teller)ではなく、ストーリーテラー(Terror)になりがちだ。

とにかく放っておけば環境が崩壊するほどの重圧な物語が作られ始め、途中で大抵は崩壊してしまう。

現実では世界観は結構淡泊

一方で世界観の実際の生産現場はどうかというと、ものすごく薄くて無難だ。

もちろんサブカルチャーの第一線では、作り手も考案側も練度の高いプロなのだから、そういったことはない。

世界最高峰のジブリスタジオなどのみならず、多くのアニメやゲームは重厚なストーリーでありながら制作崩壊もしない絶妙なバランスで成り立っている。

しかし、それは世の中のごく一部の話であって、ほとんどの世界観需要は「薄く」作られている。

例えば自治体のキャラクターや企業のウェブサイトだけで活躍する自社キャラクターなどだ。

彼らは特に深いストーリーは必要とされていないとはいえ、至極「ありがち」なものになっている。

それは別に自治体や会社の指導者が高齢者だから芸がないから、というわけではない。

ゆるキャラには外部から提案されているものもあるし、会社のキャラだって多数の人々が会議した結果決まっていることもある。

ではなぜあんなにも薄くなるのか。

それぞれの世界観というのは、バケツのように容量が決まっている

自分が考える世界観は無限大である。それを表現しきれないとしても、脳内で考えたり自分だけの世界に浸るなら無限の設定を用意しても問題ない。
しかし、相手がある場合、それは難しくなる。

世界観が溢れすぎて地獄の行軍になる案件でよくありがちなのは、小説の漫画化やらメディア化だ。
あるいは小説出の人がゲームのシナリオライターになったりするときに起こったりする。

それは小説家がシナリオ作りが下手なのではなく、現場が異なるから起きている。

世界観を作り、クライアント(あるいは課題として出されたなら先生)に納品するという場合、実は必ず見えない容量が指定されている。
新聞の紙面のように、扱える情報量は指定されていて限りがあるのだ。

例えば自治体のゆるキャラを作る。という案件があったとする。
相手の目的はゆるキャラで自治体を宣伝したい。ゆるキャラを活用して集客〇人以上をお祭りで達成する。予算は〇〇まで。などと指定がある。
同時にその指定は世界観の上限(バケツ)量だったりもする。

例えばゆるキャラを活用する場が祭りと自治体のYoutubeチャンネルの5分動画、30秒CMのみとする。

となると、30秒以内に視聴者に理解される程度の設定(世界観)でないとならない。と理解できるはずだ。

もちろん、注意を引き付けてWeb検索に結び付けるなどの高度なテクニックもあるが、あくまでテクニックであり、難しい設定は無意味なのは同じこと。

となると必要な世界観(キャラ設定)はかなり極薄にする必要が出てくるだろう。

長編であっても同じ

これはアニメなどでもそうで、原作なしのアニメオリジナルの場合、アニメの放送時間と回数のうちにすべてを理解させねばならないから、自ずと設定できる世界観の規模は決まって来る。

例外はあるが、あくまでアニメ以外で設定を語る場合はそれを見なくても済む範囲に留めていくのが一般的だ。

つまり世界観を仕事として作る場合、クライアント側の指定によって世界観のバケツ(量)は決まってしまい、その量に収めるべく作ることになる。
世界観作りは相手を見定める能力が必要だ。

自分だけの創作でも上限は決めるべき

もし自分が漫画ないし小説を書くためだけの世界観を設定するなら、世界観から考えてはならない。と思っても良い。

自分しか当事者が居ない場合、クライアントは自分自身である。あなた自身がプロデューサーとなり、全体の音頭を取る。その場合、自分の力量、発表媒体、工数などを考えて「世界観のバケツの量」を決める。

例えばクリア3時間の同人ゲームを作れる。自分のファンは「なろう系」を理解している読者だ。という場合は土台となる設定(テンプレート)をなろう系の世界観にした上で、プレイ開始から5分以内に大方の世界観の説明を終えられるようにしよう。

と仮に計画したとすれば、その間に加えられる設定、絶対に省略できない重要な設定を書き出し、上限を最初から決めた上で組み込むなどをすれば事故も減りそうだ。

丁度いい世界観

丁度いい世界観とは、自分にとって重要なことではなく、客クライアントのKPI(目標数値)を達成するために必要な情報を考えて組み込むこととなる。

そして相手の求めるバケツを考え、さらにその相手の相手(視聴者など)が理解できるよう、量を調整しつつ設定を組み込むことになる。

おそらく、多くの専門学校等でシナリオライターなどを夢見る生徒にとっては絶望するかもしれないが、世界観を作る仕事は、あまり自由に創造的なことはできないことは覚えておいて損はない。

この記事が参加している募集

#仕事について話そう

110,303件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?