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小説

56
シリーズものでない小説はここです。
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#悩み

みどりちゃん u5

みどりちゃん u5

 わたしたちは、海へ到着した。

 海とは云い条、砂浜ではなく港である。わたしはどっちも好きだけれど、兄は港の方が好きなのである。なぜなら、ほら静かにすると聞こえてくるでしょう。波が港のわきにぶつかって とぽん とぽん どぽん となる音が。これが耳に響いて心地よいのだそうだ。

 わたしたちは鎖をまたいでコンクリートの岸に足をさげて座った。

 きょうは早朝に水族館へ、それから両親の家を出てこの町

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みどりちゃん u4

みどりちゃん u4

 空調の音が耳にはいった。

 また目が覚めて、今度は清潔な図書館のベンチに寝ているのに気づいたとき、果たしてこの頭にあるおぼろげな恐ろしい映像は本当かどうかと疑った。ここはどこかというと、わたしは知っている。わたしがはじめて謎謎くんとあったところである。馬鹿みたいな言い方をすると、謎謎くんとはじめましてをした場所である。けれど、謎謎くんもいなければ、丸植さんの笑い声もしなかった。

 しかしすぐ

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みどりちゃん u3

みどりちゃん u3

 さあ、それから丸植さんは、廊下へ一度はけると、そこからテーブルを引っ張ってきた。安そうな、骨の細い、不安定なテーブルである。彼はそのテーブルの方を確認することもなく、片手で引っ張りながら歩いてきた。とても雑な引き方で、テーブルの足は砂とこすれて雑音をならした。

「こういうドラマチックな仕掛けを……計画していたわけじゃあないですけれど……やっぱり楽しいですね。えへへ。タキさん、あなた不思議がって

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みどりちゃん u2

みどりちゃん u2

・・・・・・

「ん、起きたかな」

 と、目が覚めたわたしの頭は、コップの中のようであって、そこに声はくぐもった音で聞こえたのであった。

「ごめんね、でもね、こっちもこのまえ思いついて、いま突貫で動いているんだ。だから、ああいう短絡的な行動にまかせるしかなかったんだよ」

 丸植さん……、泥の残る意識で、わたしはこの聞き覚えのある声の正体を探り当てた。

「おお、気がついたね、山下さん、久しぶ

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みどりちゃん t6

みどりちゃん t6

「ねえ、みどりちゃんには、恋人みたいな人はいるの?」

「いないよ。しずくちゃんにはいるの?」

 聞き返すと彼女は照れたように首を傾けた。

「ぼくにはいるよ」とひっつき虫が云う。「ぼくのとなりにいたジェシカちゃんだ」

「あら、そんな風に名前がついてるの?」としずくちゃんが聞く。

「そりゃあね、ぼくだってなまえがあるさ。ぼくのなまえはリアン」

「かっこいい名前ね」

「うん」

「それでそ

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みどりちゃん t5

みどりちゃん t5

 水族館は、四角く大きくそびえ立つ。

 低い朝日に影になった水族館は、霧に溶けて、ぬっくりと揺れていた。わたしはその青い建築に竜宮城を思い出した。

 何時に開くのかわからないけれど、とりあえずわたしは入り口まで行ってみた。周りにはちょっと足がすくむくらい誰もいない。

 けれど別段そこで客を止めている風はなく、柵もロープも張り紙も看板もなかったので、いきおいわたしは空気流に逆らわずに進み、つい

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みどりちゃん t4

みどりちゃん t4

 ・・・・・・

 それからの数日間、わたしは何もせずにすごした。ハンバーグをちびちび食べたり、水を飲んだりの昼なかがいつともなく過ぎ、というより実は昼間は寝てしまっていて、午後にもいたるころに起き出し、夜中をテレビなんかを見てすごすことに費やしていた。

 母はそんなわたしを心配して声をかけたが、母や父の前では、できるだけ明るく振る舞っていたわたしであった。けれど、そのわたしの心についた闇という

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みどりちゃん t3

みどりちゃん t3

 次の日、わたしは云われた通りショッピングモールへ向かった。十四時なのか、午後四時なのかが記憶で曖昧に主張し合って不安だったが、とりあえず午後二時にいっていなかったら二時間後にも行こうと、それに間に合うように電車に乗った。

 そして十三時三十分くらいにショッピングモールについた。

 それでわたしは、昨日は本屋さんに行ったけれど、きょうは他の場所をみてまわろうと無目的に歩いたのであるが、そこであ

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みどりちゃん t2

みどりちゃん t2

 久しぶりに街を歩く。

 ここへ帰ってきてから「久しぶり」「久しぶり」とばかり云っているが、本当に久しぶりなのだから許してもらいたい。散歩についてであるが、わたしは、とりあえず近場をぐるりと周り、変わらない路と家並みや国道沿いをみると、それには満足して電車に乗った。今度はどこを行こう。とりあえず、数駅いってみることにします。と何らの計算もなく乗った電車の吊り革にぶらさがって、移り変わる景色を眺め

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みどりちゃん t1

みどりちゃん t1

『トリケラトプス』

 わたしのへやは昔と何も変わりなかった。

 離れていた時間の分のホコリが覆っていたりもしていない。両親がきれいにしていてくれたのだ。お気に入りの車みたいに。関係ないけれど、コーラってお好み焼きの味がすると思う。サーモンは食パンの味がする。

 とまあ、そんな余談はさておき、わたしはノートを開いて、またおためし小説を書いた。短い話。かつ今回は男の子を主人公にしてみた。けれど、

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みどりちゃん p20

みどりちゃん p20

 ・・・・・・

 きょうはデートの日である。格好つけてデートなんて云ってみたが、正しくいえばギンジくんとの約束の日。(約束の日、という方が格好つけて聞こえるかしらん)

 それとみてください、この動かない動かせない部屋と、倒れた兄。ここに説明を付け加えると、わたしは兄を殺したのではなくて、明日、引っ越しがあるので、それに向けて兄は朝まだ日の昇らないうちから部屋を整理していたのだ。それで倒れてしま

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みどりちゃん p18

みどりちゃん p18

 朝から丸植さんと一緒であった。わたしがまだ開店準備を終わらない前に、彼は静かにやってきた。気がつくともうエプロンをつけ、わたしの後ろに立っていた。

「ここのバイトはどれくらい?」

 と彼は聞いた。例の如くわたしは慌てるのだが、ここで一旦落ち着くことにした。右見てライト、左見てレフト。ふっと一息吸って、聞かれたことに一生懸命言葉で返すことをまず心に決めた。

「あんまり……」

「長くないのか

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みどりちゃん p17

みどりちゃん p17

 みなさんディー・エヌ・エーってご存知ですか。遺伝子つらなる螺旋の機械。わたしのからだの隅々に、そう云うものがひとつひとつあって、それぞれがものを考えているとしたら、わたしのからだはひとつの遺伝子です。わたしは湯船をかき混ぜた。湯流が腹に当たって、ふわっと熱を伝える。そういうものもすべてこの白い腹で考えて、それが頭に届けられるのでしょう。けれど、そういう考えが起こったら、こんどは、わたしの中に『人

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みどりちゃん p16

みどりちゃん p16

 メビウスさんと入れ違いに丸植さんがきた。例の新しい人である。メビウスさんはわたしに彼を手伝うように云い、彼にわたしを手伝うように云い残して帰った。おばばが来て、彼にきょうのするべき仕事の大まかを確認した。そしてまた去った。丸植さんは、小顔で、色白で、切れ目で、髪の綺麗な、漢国の美少年と云った雰囲気の人である。

 ポケットに手を入れながら仕事をする爽やかな風は、少し働く態度ではないと、この店以外

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