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みどりちゃん u5

 わたしたちは、海へ到着した。

 海とは云い条、砂浜ではなく港である。わたしはどっちも好きだけれど、兄は港の方が好きなのである。なぜなら、ほら静かにすると聞こえてくるでしょう。波が港のわきにぶつかって とぽん とぽん どぽん となる音が。これが耳に響いて心地よいのだそうだ。

 わたしたちは鎖をまたいでコンクリートの岸に足をさげて座った。

 きょうは早朝に水族館へ、それから両親の家を出てこの町へきて、(あの部屋のことは省略して)友人に誘われ公園へ、そしてここ港。といろんな場所をどたどたと移動したことを、わたしは汗を拭く仕草でもしながら兄に話した。兄は「がんばったね」と笑った。けれど、それから二人はすこし黙った。

 そして先に口をひらいたのは兄であった。

「最後の仕事があるんだ。最後はおれがすることになっていたんだけれど、強く立候補する人がいてね、新しくきた人なんだけれど、その人は……まあ、みどりに云う必要もないな。世の中に問うと云うことでは、ものすごく意味の強いものになる」

「あの、事件のことでしょ」

 わたしがそういうと、兄は五度ほど波が たぽん となるのを待って「うん」と短く云った。

「最後は誰なの?」

「最後は本当の問いだね。罪のない少女なんだ」

「普通の子?」

「そ。でも彼女は、自分の命に興味がないらしい」

「……ねえ、お兄ちゃんがほんとうにリーダーじゃあないんでしょ」

「みどり、なぜそんなことまで知ってるんだい」

「だって、おんなじ部屋に暮らしていたじゃない」

「そうか。まあ。謎の人の正体はおれはまだわからないんだ。それが誰かと云うと、そんな些細なことですら、おれしか知らないんだが、いつからかパソコンにメールが入っていてね、そこで話す相手なんだ。でも彼ともう直ぐ会えると思う。すぐそこまで近づいているんだ。彼と会ったら、話を聞いてね、おれは全てを文章に書こうと思うんだ」


 その夜はわたしたちは港近くのホテルに泊まった。晩ご飯はコンビニで買ったのを、二人でホテルの部屋でテレビを見ながらたべた。二人ともパスタであった。それとわたしは紅茶をのんで、兄はお酒をのんだ。そして彼はそのまま寝てしまった。

 わたしはひとりでシャワーを浴びて、そこで少し長く座っていた。別にこれといって、考えごとをしていたとか、ましてやオシャレなドラマぶってタソガレていたというのでない。疲れたのである。

 でもこうやって、向こうに兄は寝ているといえど、ひとりで狭いところで座っていると、心寂しくなるものである。わたしは、ひとりは苦手である。わたしは、すねの横に、すこし泡が残っているのをみつけた。それによって、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけいまはタソガレようと心に決めた。

 では、たそがれます……。


 ……と。

 朝起きたとき、兄はシャワーを浴びていた。昨晩、そのまま眠ってしまったから。

 わたしは服を着て(みなさんにだけ云いますが、下着で寝ちゃいました(≧∀≦)……ちょうどいい気温だったのです)それから出てきた兄と、ホテルをチェックアウトして街へ出た。

 それから一日の予定を、カフェでの朝ごはんがてら決めたのである。それというのは、ショッピングモールやら古着屋を巡るということであった。おりよくきょう一日空いている(空いているということは、相手いないということでもある)兄は、わたしに一日つきそってくれるというのである。ずっとむかしは、わたしの服を買うのにも、兄は必ずついてきてくれていた。そういうことを、わたしは思い出したのであった。


 わたしたちは、雑貨屋をみたり、服を試着したり、おいしい食べ物をたべたりしてあちこちと過ごした。兄はわたしの体力に驚いた。見てみると、確かに彼の顔は青くなっていた。それは昨日のんだからだと指摘すると、「あんな量で飲んだとはいわない」と彼は元気になった。

 最後に兄は「居酒屋行こう」と歌うように提案し、わたしの背中を押して店に入った。そこでわたしは初めてお酒をのんだのであった。兄とおなじようにのんでいったのであるが、なんということに兄の方が先に顔を赤くして、「ばあか」とわたしに云った。わたしはただ豆を食べた。それで帰りに兄はバイクを駐車場まで移動させて、それから電車に乗ってわたしと帰った。ふーふーと何やらしんどそうに息をする彼は、それでもわたしを導くつもりで家まで先に歩いたのであった。

 今日のいちにちはざっとこんな風です。彼はもう寝てしまいました。わたしは「酔っ払いポエム」なるものを少し記して布団にはいることにした。

 実はわたしもとても眠たいので、すぐに眠る。……明日は、五月一日である。わたしはいまだに、まったく実感がない。昔から決めていたこの日。明日にならなくては、まだわからないのかもしれない……。

にゃー