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[#レトリカル食レポ]楽しい美味しさを、口に運ぶ、その至福。野菜フレンチSuzu。

“江ノ電”が一般道を走る、さながら路面電車の趣を醸す
「江ノ島」-「腰越」駅間。その藤沢市と鎌倉市の境近くに、
窓から江ノ電が見える「野菜フレンチSuzu」がある。
席数10席、ご夫婦で営む小さな店内は、味わううちに
食のよろこびに満たされていく。

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天然の色彩が演出するアペタイザー

この日のディナーショートコースも、
Suzuの顔とも言える特別な前菜から始まる。


丸い大きな木の皿に、小さく小さく切られた鎌倉野菜が、まるで金平糖を
散りばめたように色彩豊かに、現代アートの如く置かれる(写真)。
白色なら大根、と思ってカリリと噛めば里芋だったり、小さな意外性との
出合いを重ねて食べ進むうちに、ほとんどが生野菜であるなかに
わずかに混じったピクルスがフェイントをかける。
ひと口にも及ばぬ小ささだけに、歯で噛み下で味わうとき五感が
いつになく研ぎ澄まされる。
二人なら、言い当て合いをしながら、あるいは先に食べた方が相手に
すすめながら、互いの皿に自分が食した野菜を探す
パズルプレイも楽しめる。

次は冷菜。茎ブロッコリーとも呼ばれるスティックセニョールやセロリのグリーンに、ホタルイカと桜エビの海の色が天然の濃淡を加え、その色合いをフォークで絡め、重ねて上げて口に運べば、舌の上で、
素材同士が新たな味を生み出すかのように寄り添い、
口元はうれしそうにほころぶ。

スープは、新玉ねぎのポタージュ。
新玉ねぎから生まれた白色のそれは、まろやかともなめらかとも違う、
やわらかな綿のような食感と、しとやかな甘みで舌の奥まで包み込み、
春の豆類やカシューナッツの歯ざわりが、
賑やかに旨みのアクセントを刻む。

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濃厚な快感が際立つメインとデザート

メインに私が選んだのは、山口県産「むつみ豚」肩ロースのロースト。
深い旨味を艶やかな良質の脂身が引き立て、添えられた筍の燻製の薫りを
まといながら味覚中枢をくすぐるような快感で充たす。
そこに、肩ロースという部位を感じさせない、やさしい柔らかさが、
さらに味覚の至福へと導く。

デザートは、フォンダンショコラとハチミツアイス。
コロンビア産カカオ70%のとろけるようなショコラの濃厚なうねりが、
口の中いっぱいに広がって、珈琲の軽い苦みと一つに、あるいは
とろけ合いながら競う、美味のフィナーレを味わい尽くす。

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鎌倉野菜をはじめとする素材を、ひと口ずつすくったときに生まれる、
初めての味との遭遇。その意外性に心躍らせて食す楽しさが、
ときめくような料理に仕立てる。



「野菜フレンチSuzu」。江ノ島のフレンチと言えば、ここ。

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