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自律して、成果を出す、フラットな編集チームのつくりかた〜編集者とライターの間に「心理的安全」をもたらす方法

今回は、僕自身の苦い経験を経て気づいた、フラットな編集チームのつくりかた編集者とライターに「心理的安全」をもたらす秘訣を紹介したい。

編集者は「ライターの上に立つ人」ではない

 僕はまだライター専業だったころ、「編集者」=自分(ライター)の上に立つ存在だと思っていた。ライターである自分にとって、編集者はクライアントなわけだし、その編集者も元はライターで、自分より確実に腕が立つ人だと思っていたからだ。実際、僕の原稿は毎回真っ赤に直されていた。

 しかし今、自分がこうして編集者になってみると、その感覚は間違い・・・というか、「上下関係」でライターと付き合っているうちは、いいメディアは作れない、と思い直すようになった。自分(編集者)にそんなつもりはなくても、ライターにそう(上の人だと)思われていたら、それは同じことだ。

 僕はこのブログでずっと、これからの編集チームはメディアを運営する目的と読者をトップに据えたフラットな組織になり、すると、編集者に求められる役割も、ライター陣の力の総和を最大化すべく、ライター一人ひとりをエンパワーメントし、彼らの自律成長を促すこと、へと変わっていくだろう、と言い続けてきた

 しかし、先述したとおり、多くの編集者は元ライターであり、チームマネジメントやメンバーの育成に長けていたから選ばれて編集者になったわけではない人がほとんど。それは僕も同じで、だから日々ライターに迷惑をかけながら、手探りでチームを運営している。そんな中、少しずつだが答えが見えてきた――。

フラットな編集チームに欠かせない「心理的安全」

 「心理的安全」という言葉を耳にしたことがある人は多いだろう。あのGoogleが大規模な社内調査を行った結果、優秀なマネジャーには共通して、メンバーとの間で「心理的安全」を築ける資質が備わっていることが分かった。

 心理的安全を一文で表すなら、チームで目的を共有しお互いを尊重したうえで自分をさらけ出すことができる状況。それによって、メンバー間の感情的な衝突をなくし、自律成長を加速させ、組織のパフォーマンスを最大化するという。

 言葉を聞いたことはなくとも、心当たりがある人は多いはず。自分たちの仕事にやりがいを見いだし、手本となる上司に認められ、いつだって臆することなくアイデアや本音、時には弱音も口にできる環境でこそ、思う存分、自分の力を発揮できる、と。

 僕は、この「心理的安全」は編集チームにおいても必要不可欠、つまり、編集長や編集者は率先して、ライターとの間でそうした状況をつくれるよう努めるべきだと思っている。それでは、どのような状況になれば「この編集チームは心理的安全性が高い」と言えるのか、僕自身の苦い経験を反面教師にして考えてみることにした。

僕が一年間苦しんだ「心理的安全ゼロ」な状況

 僕はいくつかの企業のオウンドメディアの企画・編集に携わっている。そのうちの一つで、メディアの立ち上げから1年ぐらい経った時、あるインタビュー記事の原稿について、編集長からこう言われた。

 「この世界のことがよく分かっていない人が書いたって感じ」

 つまり、僕がインタビューの内容を解釈し、原稿化したものは、読者からすればレベルが低く、面白いと思うポイントからズレているというのである。僕はこのときから、その案件に向き合う時、いつも吐きそうになるぐらい、つらくなってしまった。

 「結果が出るまでは自分には発言権すらない」、そう思ってしまったし、編集長との意見の食い違いを怖れて、いつもビクビクしながら仕事をするようになってしまった。気分的には「お金のためだけにやっているようなもの」という感じでもあった。

 それから1年ぐらい経って、僕はようやく自信を取り戻した。記事に対するSNSでの読者の反応などから、「自分が企画したコンテンツは読まれるじゃないか」と、以前の編集長を見返すような、結果への手応えを感じ始めたからだ。

「心理的安全性が高い」と言える編集チームの状況

 すると、自然と編集長とコミュニケーションしやすくなったし、編集長の器を超えるような企画にチャレンジする資格も与えられた。「僕はその世界のことはよく分からないんだけれど、岡さんが面白いと思うなら、その企画、やってみてもいいんじゃない?」といった具合に。

 こうなると、これまでメディアと社会との接点が編集長1人に依存してきたところに、僕という新たな1点が加わることになる。さらに、僕の持つネットワークとの接点も加わり、メディアとしての幅と深みが増す。現在、そのメディアは読者に好評で、編集チームのコミュニケーションはうまくいっている。

 そんな、編集長と僕との関係性を言葉にするとしたら、どうなるだろう。チームでメディアを運営する目的とペルソナ読者に共感し合い編集長・編集者・ライターがお互いを尊重し強みを認め合い、ライターから編集者へ、編集者から編集長へと、ラフな状態であっても企画案が上がってくる状況――?

 これが正解かは分からないが、少なくとも「心理的安全性が高い」とは言えそうだ、と考えるに至った。

編集チームに心理的安全をもたらす「対話」のヒント

 前述の例では、僕が編集長に「無知」を指摘されたことで、仕事で萎縮し始め、しかし、結果を示し続けることで、自信を取り戻し、編集長との間で「心理的安全性」を高めていった。だが、その過程は時間がかかりすぎたし、何より心理的につらいものだった

 僕は、自分の原稿がなぜレベルが低いのかを編集長に聞くこともなく、ただただ結果で示そうと頑張っていた。今考えると、「あの時、なぜ面白くないのかを聞けばよかった」と思うのだが、当時は聞いてまた否定されたり、意見がぶつかったりすることを怖れていた

 このようにメンバーの間で互いに鎧を着るやり方では長続きしない。それに、結果が出るかどうかは、その人の実力だけでない環境や運などの影響もあり、あまりオススメできない。だから、結果云々とは関係なく、心理的安全性を高めるよう努めるべきだ。

 そのために、僕は編集チームで、メディアを運営する目的ペルソナ読者像に共感し合ったあと、それにかなうお互いの強みその強みを発揮しやすい環境の条件、その逆である弱みこれから強みにしていきたいこと興味関心・・・などについて対話を重ねたいと思っている。

 対話を続け、相手を知れば、お互いへのリスペクトもさらに大きくなる。そうなれば、編集チームでいろんな会話が行き交うようになり、また新たなお互いの強みに気づき・・・というサイクルが生まれ、結果的に面白い企画が多く生まれることだろう。

ライターとの信頼関係をかたちづくる「フィードバック」

 それでは、仕事の中で、ライター一人ひとりと具体的にどんなやり取りが必要になるだろうか? 僕は、その人がまだ気づいていない、その人自身の強みを見いだし、言葉にしてきちんと伝えることが大切だと思っている。

 実際に挙がってきた原稿についてのフィードバックの例を2つ見てみよう。

1. IT系の記事をライターに書いてもらった時のフィードバック
 その記事は「使い切れなかった食材を真空パックし、中身をスマホアプリで管理できる容器」に関するものだった。そのライターは料理が得意だったので、そのプロダクトについて、「例えば前日のランチで作りすぎてしまったサンドイッチをそれに入れれば、5日間保存できる」という例を挙げていた。
 僕は、その事例に感心し、「これは◯◯さんに依頼しなかったら出てこなかったであろう描写だ」と伝えた。おそらく、彼にとってはサンドイッチの事例など当たり前だったに違いないが、料理をしない人には新鮮な驚きなのだということを知り、自分のユニークネスを発揮できる「分野」に気づくきっかけとなったかもしれない。

2. インタビュイーが言っていないことを加えていた時のフィードバック
 その記事は組織マネジメントに関する取材記事だった。マネジャーに求められる資質について、『プレーヤーとしての能力の高さをよりどころとするのではなく、マネジャーに必要な能力をつけて発揮していかなければいけません』という一文があったのだが、これはインタビュイーが口にしたセリフではなかった。
 「この部分には、◯◯さん(ライター)の解釈が入っていますね。組織づくりへの理解の深さがにじみ出ていました」と伝えた。ライターの「解釈」に対する印象を伝えることで、読者や編集長が思う面白さのレベルを知ったり、内容をさらに面白くするための技術を学んだりできるのではないだろうか。

チームの心理的安全を傷つける編集者の「態度」

 逆に、「やってはならない」のは、ライターから上がってきた企画がたとえピンとこないものであっても、ライター自身をつまらないと断罪したり、その人のことをあきらめたりすること。それはただの個人攻撃人格否定だ。

 そして、どんな企画や原稿が上がってきても「OK」と返すのもよくない。何を書いてもどうせ「面白い」と言われるのなら、編集者とライターの間でコミュニケーションの頻度が低くなるからだ。それに、そのうちライターが手を抜くようにもなるだろう。

 編集チームで心理的安全性を高めるには、根気づよく対話を続けるしかない。しかし、それができれば、安心して対話できる信頼関係が築かれ、チームはより良くなっていく。そうすれば、自ずと、多くの読者に喜ばれるメディアへと育っていくはずだ。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』。
執筆協力:山本直子
フリーランスライター。慶應義塾大学文学部卒業後、シンクタンクで証券アナリストとして勤務。その後、日本、中国、マレーシア、シンガポールで経済記者を経て、2004年よりオランダ在住。現在はオランダの生活・経済情報やヨーロッパのITトレンドを雑誌やネットで紹介するほか、北ブラバント州政府のアドバイザーとして、日本とオランダの企業を結ぶ仲介役を務める。

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