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サンシェリードブラックの晩餐【フランス歩き旅 ルピュイの道⑧】

カミーノ・デ・サンティアゴという巡礼路を、フランスのサン=ジャン=ピエ=ド=ポー(略してSJPP)からスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラまで800km歩いたので、フランスのルピュイ=アン=ヴレからSJPPまでを歩いて道を繋げようとしている旅の途中の話。 

サンシェリードブラックは指先の辺り。

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お勧めされてやってきたサンシェリードブラックのジット(宿:Gite saint andre)は一泊17ユーロで、とにかく居心地の良い場所であった。
これまでのカミーノの旅で泊まった宿の中で考えると、総合得点ではダントツ一位かも知れない。
何がいいって、清潔なコテージで、大きすぎずにこじんまりしたサイズがちょうど良い。
ベッドの寝心地も良いし、室内は温かいし、広々としているし、歓迎してくれていると全身で感じるオーナー夫婦のホスピタリティが最高であった。
ぽっちゃりしていて、たれ目で優しくニコニコしている夫と、スラーっとした細身で表情がコロコロ変わって大きく豪快に笑う妻のフランス人夫婦。どちらも人のよさそうな雰囲気で、アットホームなフランス映画に出てきそうな、いやむしろ映画で見たことあるよとすら思わせる二人。

ジットの看板
2段ベッドじゃないだけでも最高なのに布団の感じも良く、部屋も清潔だった。
オーナーのご夫婦。なんかの映画に出てそうな雰囲気。


中でもしびれたのは、ここの宿泊者全員で食べた二人の手作りディナー。
大皿の家庭料理を取り分けて食べる形ではあったが、これが美味いのなんの。
気取った日本のフランス料理の店では絶対に出てこない、居酒屋のメニューにもない家庭料理なんだけど、どれももれなくおいしいのである。
まずスープ。

飲みごたえのある奥深い味。だと思う。

美味しいのなんの。
1日中雨の中歩いたせいで、温かければ何でも美味しいと思えるコンディションではあったが、それを差し引いても絶品の味わい。
びっくりしたので思わずマダムに
「このパンプキンスープ最高に美味しい!私、野菜はあまり好きじゃないんだけどカボチャは大好きだから嬉しい!他に何を入れたらこんな味になるの?作ってみたいから教えて!」とお伝えした。
するとマダムはニコニコ笑って、
「ありがとう!何が入ってると思う?当ててみて」と言うため、
「パンプキンと、牛乳と…」
と言って私の乏しい想像は終了。
するとマダムはまた笑いながら、
「これには、ターメリックとガーリックと玉ねぎと、ニンジンが入ってるのよ」
と言い、フムフムと聞いていると、
「それからキャベツ、ズッキーニ、玉ねぎ、ポテト…」と教えてくれて私の目玉が驚きすぎて飛び出そうになった。
「めっちゃ野菜入ってるやん!」と私が言うと、
「そうよ、この世の中の、パンプキン以外のすべての野菜が入ってるわよ」と言ってマダムが大笑いして、他の宿泊者も爆笑していた。
嘘やん。
カボチャが入ってないとは。
カボチャ以外の世の中にあるすべての野菜を混ぜると深みのあるパンプキンスープ味になるとは…。
「本当に?絶対パンプキン入ってるでしょ?」
と何度も聞いたが答えはNoだった。
味オンチですみません。
周りの人たちにも冷やかされて顔が真っ赤になるのは分かりつつ、パンプキン以外が入っている野菜スープパンプキン味をお代わりして飲み干した。
ノンパンプキンスープも私の大好物となった。

次にメインディッシュの大皿料理がドン!

オーブンからそのまま出てきた熱々料理。
みんな笑顔の晩餐会

これがまた美味しいのなんの。
「私、グラタン大好き!」と言ってふうふうしながら食べていたら、マダムがまた
「ウフフ。グラタンと違って、チーズは入ってないのよ」と言う。
なになに。
訳が分からなくなってきた。
これがグラタンじゃないとしたら一体何なのだろう。
ジャガイモとミートローフみたいなのの重ね煮?ミルク煮みたいなものだろうか。
いや、もはやこの料理が何なのかはどうでもいい。とにかく美味しいのである。
ただ念のため指をさして恐る恐るこう聞いた。

「Is this ポテト?」 

沈黙の時が流れる。
他の仲間たちも黙ってマダムの答えを待つ。
「…Yes、オフコース!」
やったー、正解した。
パンプキンは外したがジャガイモは正解だった。(当たり前)
みんなから歓声が上がる。
ジャガイモを指さしてこれってジャガイモ?って聞いて、もちろんそうよと言われただけでこんなにも感動のグルーヴが生まれるとは。
とにかくジャガイモ料理も大好物なので、これも大好きで平らげたのであった。

そして、食後に出た手作りのヨーグルトデザートも美味いのなんの。
「このリンゴのヨーグルトも美味しい!」
とうっかり口を滑らせて、正直に思ったことを言ってしまったが時すでに遅し。
「リンゴは入ってないよ、This is ネクタリン!」とマダムがまた爆笑しながら笑って言ったので、またもやみんなが笑った。

なんなの、ここの料理。
複雑すぎるし謎すぎる。
どれもむちゃくちゃ美味しいけども。

味という海が深過ぎてどこで溺れてるのか分からない状態。いや私の舌が浅瀬でちゃぷちゃぷ過ぎるのだろうか。
味オンチ過ぎる自分にびっくりしたのだが、この日の私の発言は、これっぽっちも笑わせるつもりじゃなかったのに、喋れば喋るほどに爆笑を呼び、笑いの神も舞い降りていたらしい。
その後他の宿泊仲間から、しばらく
「What is this?」「This is チーズ!」「This is チョコレート!」
「Yes!」とかのしょうもない質問責めが始まったり、隣の席のアメリカから来てフランス語を勉強中のアルから
「私はチーズを食べます。je mange du fromage」の発音レッスンをひたすら受けたりした。
他のみんなが、私の「je mange du」の発音がハリウッド映画の「ジュマンジ」と一緒だとか言って、ジュマンジの話になったりして、「私はグーニーズとかゴーストバスターズが好きだった」「あんた何歳よ?」「42歳やけど何か?」「私の方が年下じゃないの、ええ?!」「アジア人の年齢マジで意味不明」「私からしたらフランスの料理の方が意味不明や」「ノンパンプキンスープな」「いや、絶対パンプキン入ってたやろ」などなど。フランス人の宿泊仲間たちらと変な英語やフランス語で、時々アルに通訳してもらいながら会話をして、楽しい時間を過ごした。

壁に貼られた世界地図のところで、みんなに「それぞれが来た場所にシールを貼って」とオーナーが言い、大多数の人がヨーロッパに、アルがアメリカのミシガンに、私は日本の大阪に誇らしげにシールを貼った。
楽しい宴と笑い声は、正体不明の料理が終わっても続いたのであった。

wow!


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