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そこには、君の大好きなものがある 【フランス歩き旅 ルピュイの道⑦】

朝ごはんを食べた後、いつまでもコーヒーを飲みながらのんびりしているジャックとティエリとイザベラに、「じゃ、また道の途中でね」と挨拶して、歩みの遅い私はナスビナルの町を1人で出発した。

↑昨日の続き


今日も朝から天気が悪い。

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雨が強まってきた頃、小さな名前も分からない教会に入り、雨具のポンチョをかぶる。
教会は、もはや荷物を整えて水分補給をしたり地図を確認するスポットになりつつある。
でも、とても静かで厳かで雰囲気が良いから好きである。
来訪者がメッセージを書く分厚いノートが入り口に置いてあり、少し上の欄に日本語のメッセージを発見。
どうやら私の1日前を歩いている日本人がいるらしい。こんなところに日本人はほとんどいないので、私も「雨続きでハードです。お腹すいた。のりまき参上」とか何とか適当に日本語で書いてみた。

今日のカミーノ歩き旅には、実は少し楽しみにしていることがあった。

3年前に3週間の休暇を取ってスペインを歩いていた時に知り合った旅仲間からとあるメッセージがきていた。
彼はドイツに住むドイツ人で、ジョージクルーニーに顔がよく似ていたから、仲間内では発音の難しい本名ではなく、ジョージと呼んでいた。
ジョージはとても変わったカミーノ巡礼者で、自分が住んでいるドイツのRothenburg ob der Tauberの家から、スペインの西の端まで、何年間も少しずつ区切りながら歩く旅をしていたのである。
私も800kmを3年かけて歩く計画で来ていたのだが、その何倍もの時間をかけて長距離を歩いて旅していた変なペレグリーノ(巡礼者)だった。
ヨーロッパは地続きなのでやろうと思えば徒歩でどこへでも行けるとはいえ、今Googleマップで調べてみたら、ドイツの彼の家からサンティアゴ・デ・コンポステーラまで1984kmあった。
調べてみたが、青森から鹿児島よりも長い。
24時間、一切眠らずに寄り道せずに歩き続けて17日かかるらしい。これだとピンとこないし果てしなく感じるのだが、800km歩いた人間なので、20kmずつ歩くと想定して計算すると100日間つまり3ヶ月半くらいで着くのかーという「何だそうなのか」感はある。

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3年前、私と彼は偶然同じ日にログローニョから歩き始めてアストルガまででいったん区切り、翌年の同じ時期にアストルガからサンティアゴまでを歩いてゴールした。
そのジョージクルーニーが、私がルピュイから遡ってまたスペインに向けて歩いていると知って、色んなアドバイスをくれていた。

まず一つは、

オーブラック地方に入ったら必ずAlighotを食べること。

これは昨日叶えた。


そして今朝届いた2つ目のメッセージはこうだった。

「ナスビナルの次の町、オーブラックに入ってすぐ、左側に1つ目のレストランがある。
そこには、君の大好きなものがある。
きっと天国だよ。必ず見つけて。」

なになになに。
歩きながらずっと考えていた。
ジョージクルーニーが知っているであろう、私の好きなもの…。
何度かアルベルゲ(宿)で一緒にご飯を食べたことがあるけど、ステーキかな、何だろう。
一緒に最終日を迎えたアストルガで確か一緒にお別れパーティーをしてもらって、私はその時に大きなチョコレートケーキを2個食べてみんなが驚いていたのだが、それだろうか。厳密に言うと半分こして足りなくてもう一つ注文しただけだが。
アストルガはチョコレートで有名な街だったから、チョコレート爆買いジャパニーズの私を見てそれも笑っていたから、きっとチョコにまつわる何かだろう。


この日は土砂降りの中でも、ワクワクしながら歩いていた。
ナスビナルからオーブラックまでは9kmほどあり2時間ほど歩けば到着するなあと思いながら地図も見ずにただ雨の中歩いていたのだが、ポンチョをかぶっていることと、雨で視界が悪いこと、寒さに震えていたこともあって、町に入ったのにしばらく気づかなかった。
綺麗な家をいくつか目にしてから、もしや、ここがオーブラックかと気がついて、慌てて少し町の入り口まで引き返す。
反対を向いて戻ったので、右手にレストランが見えた。
ここかな。
いや多分ここだ。
ずぶ濡れのまま、まっしぐらに店の扉を開けた。

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なるほど。
これか。
入ってすぐに飛び込んできたのがこちら。

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とにかく巨大過ぎるベリーのタルト。
うわー、これはたまらない。
私の大好きなものであることは間違いなくて、何故か感動してしまう。
お店には他に誰も客がおらず、ウェイターのおじさんが近づいてきて、無表情で、その濡れたポンチョを脱ぐように、とジェスチャーで伝えてきた。
これまでの旅で、ぞろぞろとずぶ濡れのペレグリーノが店に入ってくるのをあからさまに嫌がって、脱いでから店に入れと厳しく注意してくる店員さんに出会ったことがあるので、「あ、すみません」と慌てて脱いだら、その無愛想なおじさんは私のポンチョを手に取って、ついてこいとジェスチャーをして、奥の部屋へと誘われた。
そこは、スキー場などの近くの山小屋なんかでよく見かける乾燥室のようになっていて、ポンチョをハンガーにかけてくれて、乾燥させるマシーンのスイッチを入れてくれた。
そして、無表情で、靴も脱げとジェスチャーをされたので、もう黙って言う通りにしたら、スリッパを貸してくれて、そこにある見たことのない大きな靴乾かしマシンの中に靴を突っ込まれて蓋をされ、スイッチを押してくれた。
さぁ、戻るぞ、と首の動きで合図をされたので、言われるがままにベリータルトの元へと戻った。


暖炉の焚き火の方へ案内され、メニューを置いておじさんはいったん下がった。
カメラで暖炉と店内の写真を撮ったが、大雨のせいでカメラが濡れてしまったのと、気温の低さによりカメラが死にかけている。どれも意識がなくなりそうな仕上がりになってしまったので、とりあえず正解が分からないが、カメラを暖炉のそばで眠らせて復活を祈りながら乾かせることにした。

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先ほど見たベリータルトを一切れと、「FUJIYAMA」というお茶がメニューにあったのでそれを注文し、昨晩乾かした靴下もすでにびちゃびちゃになっていたため、濡れた靴下と手袋を暖炉で乾かしながらベリータルトを待つ。

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雨に濡れ続けたせいで体の芯まで冷えていたことを焚き火にあたりながら気づく。
温まれるだけでもう十分天国だなぁと、ジョージクルーニーに感謝しながらベリータルトを待つ。

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きたきた。
My favorite!
大好きが皿からはみ出ている。
超巨大タルトがこんなにも私に元気をくれるとは。幸せを感じる。
食べてみるが、予想通りに美味しい。
ジョージクルーニー宛に、iPhoneで写真を撮って、「I found my favorite :)」と添えて送信。
私は、ベリーのタルトを好きだとは言っていなかったが、ジョージクルーニーいわく、「あんなにでかいチョコレートケーキを2個も食べた君なら、絶対に好きだと思ったんだ」とのこと。
大正解。
チョコが好きな人間はベリーも好きという確率は高いし、同じケーキを2個食べる人間は巨大タルトが好きという確率も高い。
さすがジョージクルーニー、分かってらっしゃる。それに、同じ思い出がちゃんと残っていることも嬉しかった。

だけど、実は地味に嬉しかったのは、ここで緑茶を飲めたことなのだ。
マリアージュフレールの高級緑茶フジヤマ。
寒い日は、紅茶ではなく温かい緑茶を飲みたいタイプ。まさかフランスの田舎町で緑茶を飲めるとは。日本を思い出して心と体が緩む。
感激。

靴下がじんわり程度に乾くまで長居してのんびりしてしまった。
そしてカメラの調子も少し復活。
支払いを済ませてから、おじさんと一緒に乾燥室へ行き、トレッキングシューズとポンチョがバッチリ乾いていることにまた感激。
巨大なベリータルトと温かい緑茶と、乾いた靴と、温かい暖炉、そして無口なおじさん。
ここは、間違いなくMy favorite!
私の大好きなものに溢れた天国だった。

その後またしばらく雨は続いたが、どんよりした空、うっすらとかかるモヤや霧、灰色の道にキリスト教的なシンボルを通り過ぎて、もうすぐ目的地に着くかなという頃に雨が止んで虹がかかった。
日本で見るような青い空に七色の虹という鮮やかなものではなく灰色の空にぼんやりした、だけど両方の根元がしっかり地面と繋がっている虹。
こういう風景もMy Favoriteである。

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虹の次は、今夜の目的地「サン=シェリー=ド=ブラック」の村が見えてきた。

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ここも静かで小さな村のようだ。
ティエリが予約してくれた宿を発見。
さあ、温かいシャワーが待っている。
雨で冷えた体に温かいシャワーもまた、私の大好きなもの。
土砂降りの今日は、大好きで溢れていた。


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「ルピュイの道」の旅の話はマガジンにまとめています。



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