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ブラブラカーでヒヤヒヤタイム in スペイン

4月末から毎日のようにGoogleフォトさんが、「○年前の今日の写真でーす」と通知してスペインやらモロッコやらの写真を見せつけてくるため、最近はめっきりヨーロッパ、特にスペインの思い出に浸りがちな今日この頃。

Googleフォトが、セビージャの写真から突然マドリードに飛んでいたのを見て久しぶりに、ブラブラカーのことを思い出した。
この日初めて会った28歳の青年シーザーの車に乗って、帰国できるかどうかの運命を彼に委ねたこと。
今振り返るとすっかりいい思い出になっているが、私のうっかりミスで、えらいこっちゃな崖っぷちに立たされて冷や汗が流れ続けていた気がする。覚えていることを書いておくので自分自身の今後の戒めにしたい。

この時の旅は、2週間ほどフランスからスペインへと一人で旅をして、途中のゴールデンウィーク期間に妹が日本からやってきてスペインで落ち合い、一緒に旅をするという、現地集合途中参加パターンだった。
妹と楽しみにしていたのは、セビージャのフェリア祭り。

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セビジャーナスというフラメンコの一種を踊り続けるお祭りで、毎晩遅くまで、めちゃくちゃ弾けて過ごしていた我ら姉妹。一人旅の癖で、つい交通手段や宿などはギリギリまで決めない旅の仕方をしてしまっていて、ノープランでセビージャで踊り狂って帰ってきた夜中3時のこと。
そういや、帰りの飛行機って明後日の早朝やったな、とふと気づく。
妹は、いつも私に旅のプランを任せてくれていて、私が仕切り手配をするというのがお決まりになっていたため、姉の私がいつものように何らかの移動手段を押さえているのだろうと思っていたようだ。
明日中にはマドリードに帰っておかなあかんなぁ、と二人で確認し合った夜中の3時。明日と言うか、厳密に言うともう今日だけど。
帰りの飛行機は明後日早朝のマドリード発で、セビージャからは500km以上離れていて、東京大阪間以上である。AVEという新幹線で3時間くらいか、ALSAのバスで4時間くらいで、スペインを旅していて、バスに乗れないとか新幹線に乗れないとかそういう事態になったことがなかったので、この時点ではまだ余裕をかましていた。
新幹線の方を検索しているうちにみるみる顔が青ざめていくのが自分で分かった。

どの電車も全部満席だったのである。

そんなバカな…。
1人旅だと1席は必ずいつだって確保できたのに、それにしたって1席も空いてないとはどういうことだろう。
数時間後の始発から終電まで全て調べたが空きがなかった。
バスも同じで、マドリードとセビージャ間は遠回りのルートですら1席も空席がなかったのである。
手汗が激しくなりiPhoneを持つ手も震えてきた。
妹には、「今調べてるし何とかなると思うし、先寝てていいよ」と言うものの、姉のマジ顔に何かを察して、妹も黙って眠らずにおとなしくこっそりと何やら検索をし始めていた。
少々高くても仕方ないから飛行機も調べてみるか、LCCもたくさんあるしな、と思い直すとわずかに空きがあったのだが、軒並み5万円を超えていた。なぜだ。

終わった。
いくらなんでも東京大阪間くらいのLCCに5万円は出せない。
帰れない。マドリードにも日本にも。
あーあ。
ゲームオーバー。

頭が真っ白になってしまった。
妹は、姉を信じつつ、5万円出すよ、という目をしていた。
一方私は、5万円なんて出せるかよ、という情けない目をしていた。


迷惑とは分かりつつ、ダメ元で、明け方なのに、マドリードに住んでいるカミーノ仲間のスペイン人のフリオにメッセージでSOSを送った。
休みの日で起きていたらしく、フリオはすぐに返事をくれた。
さすがにセビージャまでは迎えには行けないけど、マドリード近郊まで来たら拾いには行ってあげれるし、うちに泊めてあげるよという優しい言葉をもらう。
フリオー、グラシアスー。

おっと、どっこい。
そのマドリードの近郊ですら行けねえんだわ。
500kmは歩いて20日間くらいかかるから!(経験済み)

ガックリきている時に、ふとひらめいた。
フリオがサンティアゴ・デ・コンポステーラからマドリードまでの移動を、犬もいたから飛行機やバスに乗れなくて(彼は犬を連れてカミーノを歩く旅をしていた)乗り合いのカーシェアで帰って行ったことを思い出したのである!
キラリ!
「フリオ、サンティアゴからマドリまでカーシェアで帰ったよね?あれって何だっけ?何とかカー?」と聞いてみると同時にフリオから
「ブラブラカーがあるよ!」とのメッセージ。
以心伝心。

https://m.blablacar.com

そうそう、それそれ!それやー!
一筋さす希望の光が見えた。

フリオに詳しく使い方を教えてもらいながら、ブラブラカーに登録してみた。
Bla Bla Carとは、車の持ち主が「どこどこからどこどこまで乗りたい人募集」みたいな感じで出して、乗せてもらう側も「どこどこまで乗りたいです」とメッセージを送り、拾ってもらうポイントを決めて時間になったら車がやってくるというシステム。Airbnbと同じく口コミで信頼を積み上げているので、それを目安に選べば良いし、条件などが事細かにあった。
フリオのアドバイスに従って登録を進めてセビージャからマドリードまで乗せてくれる車を探す際、私は藁をも掴む気持ちだったので、明日中にマドリードに着きさえすれば何も求めないつもりだった。
それなのに、設定上、いくつも希望を聞いてくれる。
タバコを吸ってもいいかどうか。
荷物の大きさはどれくらいか。トランクを使うかどうか。
途中で休憩する際、何か食べたりする時間があった方がいいかどうか。
そんなん何でもいいですよー、と思いながら答えていく。
いかにもスペインだなあと思ったのは、
カーステレオは静かな方がいいかどうか。どんな音楽が好きか問題。
また、他に相乗りする人がいてもいいかどうか。喋る人でもいい?
そして、お喋りはどの程度したいのか、お喋りにまつわる問題。話しかけてもいい?話しかけないでほしい?
という項目。
日本でブラブラカーをやるとしたら、多分、話しかけないでほしいというニーズだらけになりそうな気がする。
私は丁寧に、
スペイン語はあまり話せないこと、私たちは疲れていてあまり喋らずに静かに乗っていると思うが、他の人たちがお喋りしていても全然OKだということ、音楽も何でもOK、タバコは苦手だが窓を開けて吸うならどうぞ遠慮なく、明日中に着けば何時間かかっても良いです、休憩もやっちゃってください、という条件にした。謙虚なジャパニーズである。

そしたらめちゃくちゃ簡単にお相手が見つかり、宿の前にお昼の12:30に迎えに来てくれることになり、しかも一人20ユーロという格安料金であった。
フリオにグラシアスを20回くらい連打して送り、スペイン人対応で、ハートやらキスマークやらの絵文字も並べてみた。絵文字を滅多に使わない私の最大限の感謝の意である。
妹も安心し、ようやく2人は寝ることができた。
(と思いきや、飲み過ぎと祭り会場で食べた何かに当たったらしく私は朝までトイレとベッドを往復し、心配した妹がベッドから落ちて頭を打ったり、とにかく散々な夜明けであったが、それを詳しく書くと1万字超えそうなので省略)

翌日、つまり帰国日の前日の昼12:30、ブラブラカーでやってきたのは28歳のイケイケの派手なキャップとサングラスをかけた、半ズボンでいかにもチャラそうなボーイ。イケメンである。
緊張が走った。
こういう時のイケメンほど不要なものはない。怪しいし胡散臭く感じる。普通でいいし、弱そうな細いおじさんがベストである。(理由はケンカで私が勝てそうだから)
あと、街中での大人の半ズボン男は、基本信用しないことに決めているから、これはまずい。
イケメンが乗ってきた車が、ブラブラカーに登録されているものと違ったので、ついついインドの感覚で疑ってかかり、「どうして登録されている車じゃないの?」と厳しく追求した。
なりすましがやってきて騙されてその車に乗り、薬を盛られて金を奪われてアンダルシアのどこかに捨てられたっておかしくない。
彼いわく車が故障していて友人の車を使わせてもらっているとのこと。彼のスマホにちゃんとブラブラカーのアプリで表示されており本人確認ができたので、警戒しつつ後部座席に妹と2人で並んで座った。
すると、カーステレオから映画「ララランド」のオープニングの曲が流れていて、「このCDでいいかな?」と彼が聞いてきた時に、やっと気持ちが落ち着いた。
ララランドを好きな人間が人殺しをするはずはないという私のジャッジで、車は無事出発。
彼の名前はシーザーと言い、マドリードにいる家族の結婚式に出るためマドリードに車で帰ることになり、1人だと寂しいし居眠り運転を防ぐ意味もあり、ブラブラカーで同乗者を募ったとのことだった。
私はシーザーに、「お腹を壊しているから、トイレに行きたい時は寄ってもらえるかな?」と聞いたら「ハイウェイだとすぐには寄れないかもしれないけど、それでも10分以内に必ずトイレに寄るよ」と言ってくれた。
そして飴ちゃんを私たち2人にくれた。大阪でそれはウェルカムだが、時と場所が変わればウェルカムではなくなってくる。
私はまたもやインドの癖で、妹に「食べるのはちょっとやめとき」と日本語で言った。
「薬を盛られている可能性もまだゼロじゃないからね」と妹にも言っていたら、シーザーが同じ袋から出した飴ちゃんを呑気に食べ始めたので、それを見て妹にもGOサインを出した。
その時、妹は、「またお姉ちゃんのヤバい部分が出てきた」と思っていたらしい。妹は長期間インドを旅していないから、私の正しさを分かっていないのである。愚か者である。妹の「お姉ちゃん、ここはインドじゃないし」は正論であったが聞き流す姉であった。

そんな感じで警戒したり安心したりを繰り返していると、途中でもう1人同乗者が乗ってきた。
蛍光の黄緑のセーターを着たミニスカートのイケイケポニーテールガールだった。
ポニーテールがとにかくお喋りで、助手席に乗ってスペイン語でシーザーに長々と話をし、今会ったばかりの2人は、まるで学生時代からの友人がファミレスに来たみたいに喋りまくっている。寝不足の限界がきていた私たちは眠くなって、何とか私は抗っていたが、ポニーテールのスペイン語の嵐が子守唄となり2人とも寝落ちしてしまった。

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ハッとして起きたら妹は熟睡していて、シーザーはポニーテールのお喋りにイェー、オーしか言わなくなっていて、疲れが見え始めていて、メーターは時速150kmを超えていた。
シーザーのハイスピードにビビった私は、眠気も吹っ飛び、体を前のめりにして、シーザーの運転を見守り続けることにした。そりゃもうビュンビュンいく。気分はスポーツカーであった。
そんな中でも、2回も、約束通り申し出た10分以内にトイレ休憩に寄ってくれて、シーザーはやっぱりいい奴だなあと感心。
途中でシーザーはガソリンを入れたのだが、これまたインド人なら絶対上乗せ請求してくるやつなのに、シーザーは、No need!とキッパリ私たちに断り、自分で払っていた。
そして、なんと530kmの距離を4時間と少しで走り抜けて、無事マドリードに到着したのである。妹がぐっすり3時間は眠れていたことにも安心。
シーザーのハイスピードのおかげで、予想外にマドリードに明るいうちに着いてバル巡りもできたため、スペイン最後の夜もいい時間が過ごせた。
結局、シーザーはただのいい半ズボンの青年だった。
これだから、スペインとスペイン人のことを好きにならずにはいられないのである。

結果的にブラブラカーは最良の選択となったのだが、色々と勝手にヒヤヒヤして、疲労度はかなり大きかった。
正直、またブラブラカーを使おうとはこれっぽっちも思わないが、いざというピンチの時は助けてもらおうとは思うし、そんな日が来ないことを切に願う。

余談だが、何故この日こんなにもセビージャとマドリード間の交通機関が満席なのかをフリオに聞いたら、フェリア祭りの開催中はいろんな他の町でもお祭りがあるし、スペイン人が大勢移動するし、特に日曜だし仕方ないよ、フェリアは特別なお祭りだしね、と言われた。
割と適当そうなアンサーだったが、本当にそういうものなのかどうなのかは分からない。

私は、海外の旅はだいたい1人なので、1席くらいの手配は直前でも毎回どうにかなっていたが、2人になるとやはりいろいろ事前に手配はしておかないといけないなぁと反省。
1人だと、ぼーっとする時間も持てるし、スケジュールの確認や移動の手配の時間ももう少し取れるけど、2人だとなかなかそうもいかないというのもある。
ましてや楽しいお祭りで毎晩飲んで踊って夜中に帰宅という日々を繰り返していた。もう1人いるからと、うっかり調子に乗ったのである。日にちだって分かってないし、日曜なんて知るかよそんなの、毎日が日曜だワーイという感じの日々だった。
この一件で、もう少し旅の間もちゃんとしよう、と思った。
私だけなら日本に帰れなくても別にいいんだけど(良くない)、妹は日本に無事帰してやらないと、という責任感があって、「ヤバいなぁ、親に怒られる…」とついつい思ってしまった。
私の一人旅はもうとっくに親から諦められているので心配もされないのだが、妹を連れておきながらブラブラカーたるものを利用し見ず知らずの男の車に乗り、ギリギリで帰って来たなんて親が知ったら、きっと呆れられるなあと思ってしまう姉なのであった。




警戒心MAX人間が、事件に巻き込まれた(と思って)ため、相当ヒヤッとしたインドでの事件はこちら↓


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