のり太

好きなもの:チョコレートと芝居とロックと小説。 かつては舞台照明に携わってました。 ロ…

のり太

好きなもの:チョコレートと芝居とロックと小説。 かつては舞台照明に携わってました。 ロックはハードなものが好き。好きなバンドはブリティッシュロックのTrapeze。 みなさんと仲良くなりたいです(^^)

マガジン

  • Waltz For Debby

    短編小説&フィクションです。2023年9~10月に8回に分けてアップしたものです。 ジャズピアニストのジョンさんとデボラさんの愛のお話です。 生きていくって大変。夫婦だって大変。予想外なこと、プライドを傷つけられること、怒りや苦しみや憎しみもあふれるかもしれません。 そんなときでも「自分はどうする?どうしたい?」と問いかけながら生きていければいい。そんな夫婦を書いたつもりです。でもどんな二人も完ぺきではない。だからこそ多少なりの後悔を人間は胸に落とすのかもしれません。

最近の記事

Only The Piano Knows⑤

その後、シンクレア家からはピアノの音が再び聴こえるようになった。 毎週アイヴィーはジョンの家に通っては、レッスンをしていく。 そのレッスンに備えてジョンがピアノを弾くことが多くなっていた。 アイヴィーはもともと音楽のセンスがあったのか、鍵盤だろうがなかなかうまく弾いた。 ふたりはスタインウェイにともに向かい合う。 30年ほど昔にデボラと歩いた道を再び歩いているような気がしてジョンは時折胸が痛くなる。 そして不思議なことにアイヴィーが本当にデボラの血を引いた息子のように見えてく

    • Only The Piano Knows④

      ジョンは土曜日の午前中を店の定休日にすることにした。 アイヴィーへのレッスンに充てることにしたのだ。 アイヴィーはギターを背負ってジョンの家にやって来た。 まだこのころはグロスターはのどかで、12歳のアイヴィーが一人で出歩いても問題にはならなかった。 もっとも、叔父夫婦は全く彼の動向については無関心なようだった。 「こんにちは」 アイヴィーはにこっと笑って玄関を開けたジョンに挨拶した。 最初の怯えた風情が嘘のように、彼は表情豊かになった。 「いらっしゃい」 背丈が伸びたな、と

      • Only The Piano Knows③

        それから数日後、ノエルが店にやって来た。 そ知らぬふりで彼はやってきて、いつも通りのフランクさを見せる。 ジョンは恨みがましそうな視線をノエルに向けた。 「おい、ノエル…おまえアイヴィーに余計なことを言ったろう」 「え?なんのこと?」 ノエルはとぼけているのか、本当に忘れているのか定かではない。 彼もカウンターのそばにある小さなスツールを引っ張り出して、そこに座った。 「俺がピアノを弾いてたことだよ」 ジョンがぶすっとした顔のまま言うと、ノエルはああ、と言って笑う。 全く悪気

        • Only The Piano Knows②

          アイヴィーは7歳の時にブリストルからグロスターに来た。 それは彼が望んだものではなかった。 両親が交通事故死するという不幸に見舞われ、彼は父方の叔父に引き取られた。 これだけでも彼の幼い心には深い傷を残したというのに、引き取られた先で叔父の妻である叔母から虐待を受けていたのだ。 彼は子どもなのに全くの無表情に陥っていった。ただ、日々を耐えて耐えて、心を殺し、叔父や叔母に怒られないように、機嫌を損ねないように生きていくしかなかった。 そんなアイヴィーとジョンが出会った頃、ジョン

        Only The Piano Knows⑤

        マガジン

        • Waltz For Debby
          8本

        記事

          Only The Piano Knows①

          UKはグロスターに小さなレコードショップがある。 ミレニアムが近い1999年になっても、売っているものは「レコード」という店だ。 店に主に並んでいるのはジャズやロカビリー、クラシックロックなどだ。 そこは初老の男性がいつもカウンターに座っている。 店に来るのは常連たちがほとんどだ。マニアックな客が良く覗いて行っては買っていく。 そして、今日も彼はカウンターに立つ。 カラカラン、とドアベルの音がして、店の中に春風が吹き込んできた。 振り返るとそこに男の子が息せき切って走り込んで

          Only The Piano Knows①

          Trapeze偏愛記

          個人の主観に加え超独断と偏見で私の中の史上最強ロックバンドは勝手にTrapezeだと思っている。異論はもちろん認める。 Trapezeとは1969年イギリスにてデビュー、1982年解散の基本スリーピースバンド。 メンバーはVo&Ba:グレン・ヒューズ、Gt&Vo:メル・ギャレー、Dr:デイヴ・ホランドの3人である。 え?と思った方はロックファンですね~。そう、この3人デビューしたバンドではなくてその後の転籍先で名が売れた皆さんなので。 グレンは言わずと知れたDeep Purp

          Trapeze偏愛記

          Waltz For Debby⑧

          残されたのは…彼女のレコードとグランドピアノ。 写真の中のデボラは笑っている。でもあの快活な笑い声はもう聴こえない。 それでもジョンは生きている。生かされている。 彼は毎日、あてもなく自らの店に立っている。彼らの子供が手がかからなくなったのをきっかけに、数年前にレコード店を開業した。デボラの新作や彼の趣味であるジャズメインのレコードをそろえて、気ままに営業していた。ここにアップライトピアノをおいて、地元の子供たちにピアノを教える拠点にもしていた。しかしそれもデボラが亡くなって

          Waltz For Debby⑧

          Waltz For Debby⑦

          それから。 デボラはインプレッション・レコードからアルバムをリリースした。 そして、拠点をロンドンに移し、ロンドンのあちこちでステージに立ち人気を博した。 ジョンはそんな彼女を支えつつも、グロスターでピアノを弾き続けた。 デボラのマネジメントも担うようになったため、自身のステージはあまり立てなくなっていた。それに…彼らには二人の子どもが産まれていたから、ジョンはピアノから遠ざかるばかりだった。 そんなジョンにデボラはいつも 「一緒にステージで弾かない?」 と誘ってはいたのだが

          Waltz For Debby⑦

          Waltz For Debby⑥

          フレッドの言うことを疑ったわけではないが、彼に会ったその足でジョンはデボラのステージがあるブリストルに向かった。チケットはソールドアウトで、なんとか当日券を手に入れることができ、立ち見でステージを見つめた。 デボラは美しく黒いドレスを着て、髪を綺麗にまとめ上げてステージに上がった。首元のパールネックレスが照明の光を浴びて艶やかに輝いていた。 優雅にお辞儀をすると、ピアノの前に座った。 今日はトリオだった。 彼女が弾き始めてすぐにわかった。いつものデボラではない。 フレッドの言

          Waltz For Debby⑥

          けんかのあとで

          捨て台詞をはいた。 珍しく汚い言葉を彼女に浴びせた。 彼女の表情は見ていない。すぐに踵を返して家を出てきてしまったから。 怒りに任せて速足で街を通り抜ける。行きかう人を器用に避ける。 人の笑い声に無性に気が立って振り返ってにらみつける。 親子と思しき3人が小さな女の子の両手をそれぞれ握ってブランコのように揺らしている。女の子のはしゃぐ声。母親の微笑む顔。父親が話しかける声。その様に思わず立ち止まってしまう。周りは急に立ち止まった彼を邪魔だとばかりに眉をひそめて通り過ぎる。 彼

          けんかのあとで

          Extreme Thicker Than Blood Tour@Tokyo 2023.09.22

          突然日記みたいになりますが、私は実はロックが好き。ジャズも好きだけど。見た目地味なせいか驚かれます(それ偏見だぞ偏見)。 さて本題。 写真がナナメだけど、いってきました!アメリカの(大きなくくりでいえば)ロックバンドExtremeの来日ツアー!!!高校生の時に行けず、大学生の時は解散してしまっていて、実は初ライブでした。 場所は昭和女子大学人見記念講堂 ぼっちライブ観戦だったので、不安だし、どんなに駅と会場が近くても道に迷うという特技を持っている私は三軒茶屋から人見記念講堂に

          Extreme Thicker Than Blood Tour@Tokyo 2023.09.22

          Waltz For Debby⑤

          ジョンは翌日実家に帰った。 母は驚いていたが、ジョンの憔悴した表情に何も言わなかった。 いくつかブッキングされたステージがあったけれども、この状態でステージに上がることは苦痛でしかなかった。 苦痛が苦痛を呼んで、ジョンはなんとか1週間ばかり全くステージのない日を捻出して、引きこもった。だが、こもればこもるだけ自らを責める声とデボラ以外の誰かにまた抜かれるのではないかという恐怖が生まれた。自らの葛藤の末、ロンドン・カレッジ時代の友達がステージにがむしゃらに向かっている姿を見れば

          Waltz For Debby⑤

          Waltz For Debby④

          二人はあっという間に交際を進め、1971年、デボラが18歳の誕生日に結婚した。 デボラの若さに不安を唱える親戚もいたが、彼女は懸命にジョンと連れ添いたいと声を大にして叫んでいた。本心からのその叫びが周囲を祝福へと変えていった。 ふたりは古い家を借りて、そこで公私ともにパートナーとして懸命にピアノに向かい合った。ジョンはグロスターから活動範囲を広げ、ロンドンのあちこちのセッションに呼ばれたり、スタジオレコーディングメンバーに呼ばれたりとあわただしさが増していた。ピアニスト、ジョ

          Waltz For Debby④

          Waltz For Debby③

          だが。敵はつわものだった。 それから昼の公演の出待ちに必ず16歳のその彼女はいた。 半ば感心するやら、呆れるやらでジョンはしばらく放っておいたのだが、そのうち、 「両親に許可を取ってきました!あのシンクレアさんが見てくれるならレッスン行っておいでって言ってくれました!」 とまで言われてとうとう根負けした。 彼の一番暇な火曜日の午前中を使ってレッスンをすることになった。 彼女はデボラ・シンプソンと言った。 彼女の名前を聞いたときに、瞬間的にビル・エヴァンスの曲が流れた。そう、W

          Waltz For Debby③

          久々に書いてみました「Waltz For Debby」Bill・Evansの曲から…長いので続きものにしています。読んでいただけると嬉しいです(^^♪ よく曲からインスピレーションを得ます。Eric Claptonの「Bell Bottom Blues」からも作ったりしてます…💛

          久々に書いてみました「Waltz For Debby」Bill・Evansの曲から…長いので続きものにしています。読んでいただけると嬉しいです(^^♪ よく曲からインスピレーションを得ます。Eric Claptonの「Bell Bottom Blues」からも作ったりしてます…💛

          Waltz For Debby②

          コミュニティセンターの小ホールは満員の観客で埋められた。 子どものための、と銘打ってはあったが、子供向けだけのナンバーをそろえているわけではなかったから、大人も多数来場してくれている。 ジャズのナンバーからSing, Sing, SingやTake the A Train、大好きなビル・エヴァンスからWaltz For Debbyをセレクトした。クラシックはショパンやリストの小作品を並べた。 その日の演奏も絶好調で、彼は天才ピアニストの名をほしいままにした。 子どもたちの目は

          Waltz For Debby②