のり太

好きなもの:チョコレートと芝居とロックと小説。 かつては舞台照明に携わってました。 ロ…

のり太

好きなもの:チョコレートと芝居とロックと小説。 かつては舞台照明に携わってました。 ロックはハードなものが好き。好きなバンドはブリティッシュロックのTrapeze。 みなさんと仲良くなりたいです(^^)

マガジン

  • Waltz For Debby

    短編小説&フィクションです。2023年9~10月に8回に分けてアップしたものです。 ジャズピアニストのジョンさんとデボラさんの愛のお話です。 生きていくって大変。夫婦だって大変。予想外なこと、プライドを傷つけられること、怒りや苦しみや憎しみもあふれるかもしれません。 そんなときでも「自分はどうする?どうしたい?」と問いかけながら生きていければいい。そんな夫婦を書いたつもりです。でもどんな二人も完ぺきではない。だからこそ多少なりの後悔を人間は胸に落とすのかもしれません。

最近の記事

Show Must Go On!!

桜の季節を通り過ぎ、翠さざめく季節にうつりゆくころ、僕らは小汚い部室でミーティングをしていた。 部室の中はむさくるしい男どもであふれている。 ここは七川高等学校、演劇部部室。 七川高等学校は県内でも最後の生き残りと言われる男子校で、なおかつ進学校である。 進学校であるがゆえに、夏以降は受験勉強に集中させるべく、6月の頭に学園祭が行われるのだ。今日はその学園祭におけるお芝居を何にするか、打ち合わせるミーティングだった。 1年生も初の舞台となる。 例年、3年生の最後を飾る舞台とな

    • Only The Piano Knows⑧

      ノエルが主催となってグロスターのライブハウスで行ったライブは超満員で汗と熱気に満ち溢れていた。まるでロックライブのように。 ノエルが嬉しそうに悲鳴を上げている。 「もー、ゲストミュージシャンにジョンの名前を書いただけでこうだぜ?俺がかすんじゃって。誰のライブなんだって」 ジョンはジョンで緊張とプレッシャーでしかめ面だ。 「あんまり期待されても困るんだけどなあ…昔やったようにはできないってわかってるのかね、オーディエンスは」 ノータイではあるが、スーツを着たジョンはいつもショッ

      • Only The Piano Knows⑦

        ジョンには勢いだけしかなかった。 ノエルの家を辞して急いで自宅に帰ると、一息つく間もなく彼は2階のピアノへ向かった。 スタインウェイの鍵盤蓋を開けて、椅子に座る。 目の前にデボラの写真がある。彼女はいつもより笑っているようだ。 ―これで、いいんだよな― ジョンは目を伏せて、胸の中のデボラに問いかけた。 デボラは頷いている。 ―あなたの末息子は私の末息子。彼を笑顔にしてあげて― ジョンはゆっくり瞼を開けた。そこはいつもの部屋いつもの景色。だがジョンは今普段をかなぐり捨てようとし

        • Only The Piano Knows⑥

          翌日、ジョンはノエルの家を訪ねた。 また、勢い余って一緒に弾くかと言ってしまったけれど、朝目覚めるとどうしようもなくうろたえる自分がいた。 デボラの死とともにピアノを封印してしまった。その、はずだった… アイヴィーのレッスンだけならばと再開したものの、楽曲を弾きこなし共に弾くということに対して彼は今朝起きて恐怖を感じたのだ。それがなんだかわからない。 「いきなりどうしたんだよ」 ノエルはジョンに紅茶を差し出しながら訝し気に尋ねた。 朝電話があったと思ったら、「今日暇だったら行

        Show Must Go On!!

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        • Waltz For Debby
          8本

        記事

          Only The Piano Knows⑤

          その後、シンクレア家からはピアノの音が再び聴こえるようになった。 毎週アイヴィーはジョンの家に通っては、レッスンをしていく。 そのレッスンに備えてジョンがピアノを弾くことが多くなっていた。 アイヴィーはもともと音楽のセンスがあったのか、鍵盤だろうがなかなかうまく弾いた。 ふたりはスタインウェイにともに向かい合う。 30年ほど昔にデボラと歩いた道を再び歩いているような気がしてジョンは時折胸が痛くなる。 そして不思議なことにアイヴィーが本当にデボラの血を引いた息子のように見えてく

          Only The Piano Knows⑤

          Only The Piano Knows④

          ジョンは土曜日の午前中を店の定休日にすることにした。 アイヴィーへのレッスンに充てることにしたのだ。 アイヴィーはギターを背負ってジョンの家にやって来た。 まだこのころはグロスターはのどかで、12歳のアイヴィーが一人で出歩いても問題にはならなかった。 もっとも、叔父夫婦は全く彼の動向については無関心なようだった。 「こんにちは」 アイヴィーはにこっと笑って玄関を開けたジョンに挨拶した。 最初の怯えた風情が嘘のように、彼は表情豊かになった。 「いらっしゃい」 背丈が伸びたな、と

          Only The Piano Knows④

          Only The Piano Knows③

          それから数日後、ノエルが店にやって来た。 そ知らぬふりで彼はやってきて、いつも通りのフランクさを見せる。 ジョンは恨みがましそうな視線をノエルに向けた。 「おい、ノエル…おまえアイヴィーに余計なことを言ったろう」 「え?なんのこと?」 ノエルはとぼけているのか、本当に忘れているのか定かではない。 彼もカウンターのそばにある小さなスツールを引っ張り出して、そこに座った。 「俺がピアノを弾いてたことだよ」 ジョンがぶすっとした顔のまま言うと、ノエルはああ、と言って笑う。 全く悪気

          Only The Piano Knows③

          Only The Piano Knows②

          アイヴィーは7歳の時にブリストルからグロスターに来た。 それは彼が望んだものではなかった。 両親が交通事故死するという不幸に見舞われ、彼は父方の叔父に引き取られた。 これだけでも彼の幼い心には深い傷を残したというのに、引き取られた先で叔父の妻である叔母から虐待を受けていたのだ。 彼は子どもなのに全くの無表情に陥っていった。ただ、日々を耐えて耐えて、心を殺し、叔父や叔母に怒られないように、機嫌を損ねないように生きていくしかなかった。 そんなアイヴィーとジョンが出会った頃、ジョン

          Only The Piano Knows②

          Only The Piano Knows①

          UKはグロスターに小さなレコードショップがある。 ミレニアムが近い1999年になっても、売っているものは「レコード」という店だ。 店に主に並んでいるのはジャズやロカビリー、クラシックロックなどだ。 そこは初老の男性がいつもカウンターに座っている。 店に来るのは常連たちがほとんどだ。マニアックな客が良く覗いて行っては買っていく。 そして、今日も彼はカウンターに立つ。 カラカラン、とドアベルの音がして、店の中に春風が吹き込んできた。 振り返るとそこに男の子が息せき切って走り込んで

          Only The Piano Knows①

          Trapeze偏愛記

          個人の主観に加え超独断と偏見で私の中の史上最強ロックバンドは勝手にTrapezeだと思っている。異論はもちろん認める。 Trapezeとは1969年イギリスにてデビュー、1982年解散の基本スリーピースバンド。 メンバーはVo&Ba:グレン・ヒューズ、Gt&Vo:メル・ギャレー、Dr:デイヴ・ホランドの3人である。 え?と思った方はロックファンですね~。そう、この3人デビューしたバンドではなくてその後の転籍先で名が売れた皆さんなので。 グレンは言わずと知れたDeep Purp

          Trapeze偏愛記

          Waltz For Debby⑧

          残されたのは…彼女のレコードとグランドピアノ。 写真の中のデボラは笑っている。でもあの快活な笑い声はもう聴こえない。 それでもジョンは生きている。生かされている。 彼は毎日、あてもなく自らの店に立っている。彼らの子供が手がかからなくなったのをきっかけに、数年前にレコード店を開業した。デボラの新作や彼の趣味であるジャズメインのレコードをそろえて、気ままに営業していた。ここにアップライトピアノをおいて、地元の子供たちにピアノを教える拠点にもしていた。しかしそれもデボラが亡くなって

          Waltz For Debby⑧

          Waltz For Debby⑦

          それから。 デボラはインプレッション・レコードからアルバムをリリースした。 そして、拠点をロンドンに移し、ロンドンのあちこちでステージに立ち人気を博した。 ジョンはそんな彼女を支えつつも、グロスターでピアノを弾き続けた。 デボラのマネジメントも担うようになったため、自身のステージはあまり立てなくなっていた。それに…彼らには二人の子どもが産まれていたから、ジョンはピアノから遠ざかるばかりだった。 そんなジョンにデボラはいつも 「一緒にステージで弾かない?」 と誘ってはいたのだが

          Waltz For Debby⑦

          Waltz For Debby⑥

          フレッドの言うことを疑ったわけではないが、彼に会ったその足でジョンはデボラのステージがあるブリストルに向かった。チケットはソールドアウトで、なんとか当日券を手に入れることができ、立ち見でステージを見つめた。 デボラは美しく黒いドレスを着て、髪を綺麗にまとめ上げてステージに上がった。首元のパールネックレスが照明の光を浴びて艶やかに輝いていた。 優雅にお辞儀をすると、ピアノの前に座った。 今日はトリオだった。 彼女が弾き始めてすぐにわかった。いつものデボラではない。 フレッドの言

          Waltz For Debby⑥

          けんかのあとで

          捨て台詞をはいた。 珍しく汚い言葉を彼女に浴びせた。 彼女の表情は見ていない。すぐに踵を返して家を出てきてしまったから。 怒りに任せて速足で街を通り抜ける。行きかう人を器用に避ける。 人の笑い声に無性に気が立って振り返ってにらみつける。 親子と思しき3人が小さな女の子の両手をそれぞれ握ってブランコのように揺らしている。女の子のはしゃぐ声。母親の微笑む顔。父親が話しかける声。その様に思わず立ち止まってしまう。周りは急に立ち止まった彼を邪魔だとばかりに眉をひそめて通り過ぎる。 彼

          けんかのあとで

          Extreme Thicker Than Blood Tour@Tokyo 2023.09.22

          突然日記みたいになりますが、私は実はロックが好き。ジャズも好きだけど。見た目地味なせいか驚かれます(それ偏見だぞ偏見)。 さて本題。 写真がナナメだけど、いってきました!アメリカの(大きなくくりでいえば)ロックバンドExtremeの来日ツアー!!!高校生の時に行けず、大学生の時は解散してしまっていて、実は初ライブでした。 場所は昭和女子大学人見記念講堂 ぼっちライブ観戦だったので、不安だし、どんなに駅と会場が近くても道に迷うという特技を持っている私は三軒茶屋から人見記念講堂に

          Extreme Thicker Than Blood Tour@Tokyo 2023.09.22

          Waltz For Debby⑤

          ジョンは翌日実家に帰った。 母は驚いていたが、ジョンの憔悴した表情に何も言わなかった。 いくつかブッキングされたステージがあったけれども、この状態でステージに上がることは苦痛でしかなかった。 苦痛が苦痛を呼んで、ジョンはなんとか1週間ばかり全くステージのない日を捻出して、引きこもった。だが、こもればこもるだけ自らを責める声とデボラ以外の誰かにまた抜かれるのではないかという恐怖が生まれた。自らの葛藤の末、ロンドン・カレッジ時代の友達がステージにがむしゃらに向かっている姿を見れば

          Waltz For Debby⑤